第101話 試行錯誤の末

~~作者前書き~~


そういえば先日の更新で百話に到達しておりました!

いつも応援ありがとうございます! これからも頑張ります!


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 俺はロロさんとリケットさんに見守られながら、新たな飲料の試飲をしていた。


 使っているカップは、内側が魔鉱石、そして外側が木製となっている保温性能がそこそこある器である。純粋な魔鉱石で作ってしまうと、カップ自体がかなり熱をもってしまうので(この体だから平気なのだけど)、その熱が外に逃げやすくなってしまう。


 いずれは陶器や磁器も作りたいなぁ。

 図書館にある本で勉強すれば作ることができるだろうか? というか、メノさんあたりに聞いたらやり方を知っていてもおかしくない気はするが。


 なんだか嫌な予感がするんだよな……新たな住民か、もしくは島の誰かが、いまのフーズさんのように大量の食器を生み出してしまう未来がちらっと見えてしまった気がする。


 もっとのんびりしてもいいのにな……とは思うが、みんな作業に慣れてきて効率化されているし、住民同士でのコミュニケーションもとったりしているから、以前よりは自由に過ごせていると思う。今現在、一番異常なのはフーズさんかな。


 今の住民で順位を付けるとしたら――フーズさんが一番、リケットさんとロロさんが同率二位で、その後にはフロンさんとディグさんが続く。その後はやっぱり葵たちかなぁ。


 葵たちに関しては、作業量は断トツで一位なのだけど、きっちり遊んでいるという意味でこの順位付けになっている。


 そして葵たちのあとにくるのは、メノさんかな。そして酒造りをしている母さんがいて、遠く遠く離れたところにルプルさんがいるという感じ。俺はたぶん、メノさんと同じぐらいだろう。


 話が逸れた。今は試飲中だ。


「これはこれでお茶みたいで美味しいけど、コーヒーではないかなぁ。あとで冷やして飲んでみようか」


「はい、ありがとうございます」


 ひとつひとつ感想を言うと、ロロさんもまたひとつひとつにお礼の言葉を述べてくれる。ちなみに、この試飲会場(ロロさんの家)にリケットさんがいるのは、畑で栽培した植物を使用しているからだ。何回か前から、彼女もロロさんと一緒に来るようになっていた。


「今日は自信作があるんですよ、アキトさん楽しみにしていてくださいね!」


 リケットさんはどうやら自信満々の模様。「なんていっても、黒くて苦いんです!」と少々不安になるようなことを言っていたが、コーヒーを飲んだことのない彼女たちにはそれぐらいしか有益な情報がないもんなぁ。あとは、香りが良いというぐらい。そしてその香りに関しても、地球組である五十嵐家はだれも言語化できなかったのだ。


 コーヒーの香りをコーヒーという単語を使わずに説明するのは非常に難易度が高いことを学んだ。


 まぁそんなわけで、彼女たちの善意に甘えてコーヒーの研究を任せていたのだけど、


「……たしかに、これ、コーヒーの匂いかも」


「「本当ですか!?」」


 ここまで来るのに一か月ぐらいはかかっただろうか。

 まぁ彼女もこの作業にかかり切りだったわけではないし、色々な料理や飲み物を開発するついでにやっていてくれたような感じなのだけど、それでも一か月である。


 植物が育つのが早いから良かったものの、普通にやろうとしたら数年単位の研究になっていたかもしれないなぁ。


 さて、問題は味だけど……どうだろう。


 特有の香ばしく深みのある香りはクリア――色は……まぁ焙煎しているから黒っぽい色になりやすいのだろうけど、それも一緒。


 湯気に交じる香りをかぎながら、ズズ――と口に含む。口の中で液体を泳がせるようにして、しっかりと味わった。


 俺は思わず、二人に向かって親指を立てた。


「そ、それはどういう意味でしょうか……?」


「美味しくなかったんですか!?」


 ロロさんは恐る恐る聞いてきて、リケットさんは絶望したような表情を浮かべる。

 通じないのか。そりゃハンドサインは地球の中でさえ意味が統一されていないのだから、異世界で通じるわけもないか。


「最高、まさに俺が探し求めていたものだ。ありがとう二人とも」


 頬も思わず緩んでしまうというものである。コーヒーが飲みたいという気持ちはもちろんあったけど、それよりも、彼女たちの頑張りがとうとう実を結んだということが、俺にはすごく嬉しかったのだ。


「こんなにも頑張ってくれたんだ。しかもこれは島の住民のためというより、ほとんど俺のための作業だったといっていい。いずれはみんなもミルクとか砂糖とか入れて楽しんでほしいけど、始まりは俺だしな。だから、二人にぜひお礼をさせてもらいたいんだけど、何か欲しいものとかやってほしいこと――お願いなんかがあれば聞くぞ」


 くっくっく……これでようやく彼女たちからわがままを聞くことができそうだぜ。

 お礼が本音ではあるけども、この絶好の機会を逃すわけにはいかない。最近じゃ目安箱に入っているのもルプルさんの『色違いの枕が欲しいのだ!』みたいなものしかないし。リケットさんが仕事ができたとすごく喜んで作っていた。


「そんなっ! アキトさんのお気持ちはすごく嬉しいのですが、私はルプルさんやアキトさんたちのご厚意によって命が助かっているようなものなんです。家族が国への謀反を働こうとしていたというのに、こんなに良くしてもらって――これ以上なにもいただけません!」


「そうですよ! 私なんかアキトさんたちがいなければ、間違いなく魔物のお腹の中にいるか海の藻屑ですよ! しかも最近じゃフーズさんがたくさんアクセサリーを持ってきてくれますし……貴族の家系にいたロロさんはともかく、私なんか孤児院にいたんですよ? ネックレスなんて初めて付けましたもん」


 ……二人からお願いが何も出てこないよぉ。助けてメノエモン。


 そういえば二人とも、しっかりフーズさんが押し付けてきたであろうアクセサリーを付けているようだ。ロロさんはイヤリング――いや、ピアスかな? キラキラした貝殻の形のものだ。そしてリケットさんが付けているネックレスには、月の形の飾りが付いている。


 二人とも最初に来た頃と比べると、随分とおしゃれになったよなぁ。


 リケットさんは死に装束みたいなものしかなかったし、ロロさんも大人しめのグリーンのドレスを着ていたとはいえ、それはワルサーさんからもらったものだったし、その姿で畑仕事をしていたぐらい、着るものがなかったのだ。


 いまやリケットさんのおかげで、彼女たちを含め、住民たちが着る服は何着もある。


 リケットさんは町娘ファッションとでもいうのだろうか(母さんが『ディアンドル』と言っていたけれど、その言葉がさす衣装のことを俺は知らない)、白と濃い色合いのワンピースみたいなものを着ていることが多い。


 そしてロロさんは、『貴族? そんな記憶ございません』という感じで、畑仕事バンザイとでも言うようにつなぎを着ていたり、半そで半ズボンというすごくラフな格好をしていたりする。でも、たまにリケットさんみたいにワンピースのようなものを着ていることもああったりする。仕事はしつつも、わりとそういうところで楽しんでいたりするのかもしれないな。


「……よし、じゃあそこまで言うなら、君たち二人に仕事を与えようじゃないか」


 俺は熟考したすえ、二人にそんな風に声を掛けた。すると、二人は途端に目をキラキラさせ始める。怖いよ。


 だけど、その表情ができるのも今のうちだぜ……。


「明日までお願いを考えてくること! 『住ませてくれるだけで』とか『もうなにもいらない』とか無しだからな! ちょっとぐらいわがまま言ってくれ!」



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