第99話 フーズの仕事
七仙のみなさんが島を訪れて、フーズさんが新たな住民となってから数日。
フーズさんの自宅は、現状もぬけの殻となっている会議場を使ってもらうことにした。あちらには二階に寝室があるし、一階には談話室、料理室など生活するのに不便はないような造りになっている。
もともとこの会議場は七仙会議のために使用し、七仙の人たちが寝泊まりできるように作った場所だったけれど、フーズさんがこちらに住むと言うならば、家として使ってもらっても何も問題はない。ただ、一人で住むには広すぎるし、会議の時は家を使わせてもらうということになる。
俺はメノさんやルプルさんのように一軒家を建てることを提案していたのだけど、フーズさんに『ここに住んだらダメなのか?』と聞かれ、特に否定の意見も見つからなかった結果、こうなっている。
いちおう、『管理めんどくさいぞ?』と言ってはみたんですけどね。どうせ誰かが掃除するなら俺がやると言われましたよ。
そしてメノさんとの結婚式に関して。
当初の予定ではドでかい式場を建築しちゃおうと思っていたけど、メノさんが『思い出に残ればなんでもいい』という感じだったところに、母さんから『ガーデンウエディングみたいにしたら?』との意見をもらい、その形で進めることになった。
そのワード自体俺は初耳だったのだけど、野外で緑に囲まれて行われるようなスタイルの結婚式らしい。建築に掛ける時間を装飾や他の部分に割けるし、結婚式が終わったあとは単純に癒しの場として開放できそうだから、いい案だと思った。
外でお酒飲むほうが私は好きなのよ――という発言は聞かなかったことにした。
「なぁアキト」
とある日の昼過ぎ、神妙な面持ちのフーズさんが俺の元にやってきた。
結婚式の主役となる俺とメノさんは、大まかな方針を決定するだけで作業に参加させてもらえなかったので、メノさんと一緒に新作の料理を考えていたところである。
現在作っていたのは照り焼きチキン。母さんが日本酒を作り始めた関係で、みりんっぽいものを取得することができたので、そちらを使って調理していたところだ。
フーズさんが話を始める前に、そのお肉を味見程度に食べてもらうと、「うますぎる……」と何とも言えないような表情を浮かべた。
「それで、どうしたんだ? なにか困ったことでも発生したか?」
フーズさんは式場の準備を行ってくれている、リケットさん、ロロさん、葵たちのところに加わって作業をしてくれているのだ。
「……俺って、足手まといなのかな……はは」
「どうしたんだ急に!?」
こちらに来たばかりの時は『なんでもできるぜ』と張り切っていたというのに。
「リケットとロロはさ、仕事をすることにめちゃくちゃ貪欲で俺が手伝おうとすると悲しそうにしちゃうし、葵たちは俺が手伝うまでもなくどんどん進めちゃってるんだよ」
「……なるほど。だけどまぁ、ここじゃ仕事は奪い合いみたいなものだからな」
俺がそう言うと、フーズさんは顎に手を当てながら眉間にしわをよせる。
「なんか仕事の報酬でもあるのか? 酒が多く飲めるとか? 俺は別に報酬はいらないからさ、みんなの助けになりたいんだけど」
「みんな無償だけど仕事を奪い合ってるんだよ」
「えぇ……」
困惑気味のフーズさんにメノさんが近寄っていき、ポンと肩に手を置く。
「……隙を見せたら仕事は奪われる。ここは戦場」
何をドヤ顔で言ってるんだ。
「メノさん、絶対そんなこと思ってないだろ。というかメノさんは魔道具作りっていう誰でもできるわけじゃない仕事を抱えているから、争いにならないんだよな」
「あぁ……メノ姉ちゃん、魔力は多いし細工もうまいからなぁ」
「だよな……じゃあまぁ、とりあえず今日のところは試食係でもしとくか?」
「それただのご褒美じゃん」
フーズさんは眉をまげて、納得いっていないような表情を浮かべる。
なんでこの島に来る人はみんな、仕事をしたがるんだろうな……類は友を呼ぶということなのだろうか。――いや、別に俺は仕事がやりたいわけじゃなくて、やりたいことをやっているにすぎないのだけど。
「フーズさん、何かやりたいことはあったりしないの? 趣味みたいな」
俺がそう問いかけると、彼女は視線を斜め上に向けてしばし黙考。やがて「あ」と何かを思いついたように声を漏らした。
「金属を加工して、農具とか武器とかは作ってたりしたな。でも、アキトがじゃんじゃん魔鉱石で作っているみたいだし、別に困ってないだろ?」
まぁ、魔鉱石を使ったら一瞬でその辺のものは作れてしまうからな。この島にとって魔鉱石は貴重品というレベルでもないし、わざわざ他の金属を使うまでもないこと。
「じゃあアクセサリーとかはどう? 武器とかは俺が魔鉱石でパパっと強度が高いものを作れちゃうし、そもそも武器は必要ないって人がほとんどだけど、アクセサリーを作るようなデザインセンスは俺にないからさ」
うん、我ながらいいアイデアだと思う。俺は小物づくりは好きだけど、そこにデザイン性を求めるとなると急に苦手になってくる。
「……できるっちゃできるけど……ただの趣味だぜ? 俺が楽しんでるだけになっちまう」
「それでいいんだよ。リケットさんだって、裁縫とか掃除とかたくさんやってくれてるけど、『趣味です!』ってどうどうと言い放っていたからな」
「そう言わざるを得なかったわけじゃなく?」
「……リケットは心の底から思ってる」
メノさんも説得に加わってくれている。俺が話している間に照り焼きチキンを摘まみ食いしたのか、彼女の頬っぺたに茶色のソースが付いていた。指摘すると、頬を赤くしながらぺろりと舌で拭い、俺の背中をペシッと叩く。可愛い。
「……可愛いの期待してる」
「じゃあ俺はシンプルなものがいいかなぁ……そういう金属の原料ってこの島にあるんだっけ?」
「……腐るほどある」
どうやらそれも問題ないらしい。
フーズさんの仕事が見つかって、俺としては一安心である。
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