第98話 住民が増えたよ!




 そもそもの話。

 七仙の三人がこの島にやってきた理由は、メノさんの結婚相手を見定めるため――みたいな感じではなく、同じ七仙としての顔合わせという意味合いが強いらしい。


 フーズさんだけが特別。メノさんを慕っているからなのか、彼女は俺へ模擬戦を挑むことになってしまったが、レイラさんやエドワードさんは挨拶が一番の目的だったようだ。


 とは言っても、レイラさんたちがメノさんと親しくないというわけではなく、メノさんが決めた人なら文句は言わないというスタンス。フーズさんはそれよりも一歩先に進んでいるような感じなのだ。


 なんとなくわかっていたし、メノさんやルプルさんから聞いていたことだけど、やはり七仙は仲が良いらしい。何気なく話をしていると、島に来ていない弓姫シャルロットさんや剣帝アルカさんの話題も出てきていたし、誰かひとりが疎遠になっているような気配もない。


 もしかしたら自分もこの人たちの輪に加わることになるのかなぁと思うと、心が温かくなった気がした。


「ではまた。次に来るのはおそらく式の日ですかな。式場はいかがされるおつもりなのですか?」


 帰り際、エドワードさんがそんな風に声を掛けてきた。

 式場はなぁ……正直、少し悩んでいる。メノさんとの結婚式だから、彼女が喜ぶものにしたいと思っているのはたしかだが、はたしてメノさんの喜ぶ結婚式が俺の思う結婚式と一致しているのかという問題である。


 メノさんはレイラさんと母さんと話しているようなので、その隙にエドワードさんに相談してみることにした。


「まだ悩んでいます。大きくて豪華な物を作ることもできるんですけど、俺たちの結婚式終わったら、他に利用方法がありませんからね。それに恥ずかしながら、メノさんがどういうので喜ぶのか、あまりわかってなくて」


 なんとなくだけど、メノさん俺が何をやっても喜んでくれそうな気がするんだよな。

 全肯定メノさんなのである。さっき耳たぶを触ったときも『アキトはすごく上手』とか言っていたし。耳たぶ触り上手ってなんだ。


「私が見ている限り、メノさんはアキト殿が何をしても喜んでいただけそうな気がしますな。あそこまで一人の人間に入れ込んでいるメノさんを見るのは初めてのことです」


「それはなんというかまぁ、嬉しいですね」


「この島のことなのですから、世間的なものは気にすることはないでしょう。お二人が思い出に残るものであれば、それで良いのではないですかな」


「なるほど」


 たしかにこれが大陸で行うものだったとしたら、七仙の結婚式としてかなり大きなものにしなければいけなかっただろう。それこそ、俺やメノさんの意思など関係なく。


 葵や母さんたちと相談して、勝手にメノさんが喜びそうなものを準備しようかなと思っていたけど、先に彼女と相談すべきだったなぁ。


 会話が終わると、エドワードさんはレイラさんとともに国に帰って行った。

 どうやらエドワードさんは『竜化』というスキルを使用できるらしく、巨大な黒い鱗のドラコンとなり、背中にレイラさんを乗せていた。ファンタジーマシマシである。


 そして、なぜかひとり残っているフーズさん。


 もうすぐ夕ご飯の時間だし、ご飯を食べて帰るのだろうか? なんてのんきなことを考えていたのだけど。


「俺もこの島に住ませてくれ」


 どうやら違うらしい。


「お、おぉ、それはまたなんでですか?」


「敬語はいらねぇよ。アキトはこの島の主、強さも俺より上、そしてメノ姉ちゃんの旦那になる人だ。年齢差なんてちっぽけなもんだよ」


「そうですかねぇ……まぁ、フーズさんがそれでいいなら、構わないけど」


「おう、よろしく。それで、どうだ? 俺は結構色々な場所を歩き回って手伝いをしてたから、大抵のことはできるぜ?」


 ふむ。しかしそうは言われても、現状人手が足りないということはないからな。

 そして技術的な面で言っても、特に困っていることはない。むしろ仕事を探している人がいるぐらいだ。


 仕事をひねりだすとしたら、リケットさんやロロさんなどが結界の外に出たいとき、そして生魔島の魔物狩り訓練中のフロンさんとディグさんの指導係は、不足しているといえば不足しているかもしれない。


 あとは、母さんの酒用の畑や、リケットさんが見てくれている畑のお手伝いぐらいか……?


「フーズさんは、どうしてこの島に住みたいんだ?」


 某魔王は『住みたいから』という何のひねりもない理由だった気がするけど。

 俺の質問に対し、フーズさんは腕組みをして「そうだなぁ」と独り言のように口にする。


「メノ姉ちゃんから、俺のことはどういう風に聞いてるんだ?」


「魔物を倒したり人助けをしながら、大陸の中をうろうろしてる――って感じかな」


「まぁそんな感じだ。特に目的があるわけでもねぇ、目についた問題を解決してるってぐらいだな。でもさ、俺をあてにされ過ぎても困るんだよ。あぁ、もちろん、俺は苦じゃねぇぜ。好きでやってるからな。だけど、それじゃみんな甘えちまって、成長を止めちまう。『もしかしたらフーズが来るかもしれない』が、足枷になっちまうんだ」


「それは……あるかもな」


 神頼みとは違う。フーズさんは実際に現れて、問題を解決しているのだろうから。

 その中には小さい問題のほうが多いかもしれないけど、大きい問題もそれなりにあるはずだ。


「もうあの大陸は、私の助けなんてなくても十分やっていけるんだ。それに、アキトがこの島でやろうとしていることは、単純にすげぇなって思った。どこまで善人なんだよって、七仙会議の時には思わずツッコんだよ」


 ククッと笑いをこらえるような声を漏らして、フーズさんが言う。

 なんだかすごくしっかりと理由を語ってくれているところ悪いのだけど、俺の中ではいま、同じ大陸出身のルプルさんと比べているのだ。


 裁縫の技術を持ち込んでくれたとはいえ、ルプルさんって『住みたい住みたい住みたーい!』って感じだったからなぁ。


「この島なら、別に俺がいなくなったって何も困らねぇと思うと、気が楽なんだ」


「そっか――うん、俺は構わないぞ。いちおう他のみんなにも聞いてみて、正式な返事はそのあとでな」


「おう! ありがとな!」


 フーズさんはニカっと笑って、お礼を口にした。彼女のさっぱりとした雰囲気がとても心地いい。


 そして予想通りというかなんというか、フーズさんの移住について反対する人は誰もいなかった。唯一メノさんだけ、『アキトは渡さない』と牽制していたようだけど……別にフーズさんはそんなつもりないと思うよ。

 

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