第95話 アキトの種族
「みなさん初めまして、アルディア様からこの島の開拓をお願いされました、アキトといいます。すでにメノさんから聞いていると思いますが、エルダット大陸にあるイソーラ……その国の風習により生贄となった子をこちらで保護しております。その他にも、元の大陸では生活が困難である人も、七仙繋がりではありますがこの島で生活しています。俺はその人たちの第二の人生が豊かで幸せなものになるよう、この島を発展させていきたいと考えています」
竜王エドワードさん、精霊王レイラさん、拳聖フーズさん。
それぞれ五百歳、四百歳、三百歳を超えている人たちに対し、俺は自分でも堂々としていると感じるような態度で話した。たぶん、右隣にメノさんがいるという安心感、そして、左隣には合体した葵がいるために、情けないところは見せられないという思いから、しっかりと話すことができたのだと思う。
「これはどうもご丁寧に。私はサルビア大陸、オルビア王国の王――親しい者からは『エド』と呼ばれることも多いの」
まず、エドワードさんがそのように返事をして、
「同じ『神の代行者』同士、不老同士仲良くしましょうね、アキト。こちらこそよろしく」
「これで七仙じゃなくて八仙になるな~。いや、妹と母親もいるから、一気に十仙か?」
「ダメよフーズ。この島でアキトたちが生活していることは秘密なんだから、次の代行者がいることも内緒にするって決めていたでしょう?」
「あ、そうだったな! わりぃわりぃ! まぁなんにせよ、よろしく頼むぜアキト!」
レイラさんとフーズさんが、会話を交えながら俺に挨拶をしてくる。
エドワードさんは老齢の姿をしているけれど、レイラさんは二十代半ばといった感じだし、フーズさんもそれより少し若いぐらいな感じ。二十五歳だった俺からすれば、この二人はまさに同年代って感じがするんだよなぁ。
数百歳離れているとは全然思えない。貫禄とかも、俺にはよくわからないし。
「こちらこそよろしくお願いします」
俺が頭を下げてそう言うと、
「そういえばさ、一つアキトに聞きたいことがあったんだよ」
ケモミミフーズさんが俺に一歩近づいて声を掛けてきた。
もしや、いきなり戦いについての相談だろうか。彼女たちがやってきた時点で心の準備はしているが、それでもいざ本番となると心臓が速くなる。
「なんですか?」
「ほら、俺たちはアルディア様に魂の器を強化してもらっているだろ? その時に『種族の器の改変』って奴をしてもらったはずだ」
フーズさんがそう言うと、メノさんを含む七仙の人たちが『そういえばそんなこともあったなぁ』みたいなことを口にしている。
ちなみに俺は、フーズさんが『俺っ子』であることに驚いていた。
「天人長のミエル様って人が事前に教えてくれてたんだけど、あれって種族の器のレベル上限を操作する――みたいな話だったんだよ。見た目は生前のままだけど、レベル上限の高い種族の器に寄せる、みたいなさ」
この辺りはたぶん、俺とは違う気がする。俺は地球育ちの純粋な人族だったから、器に寄せるというよりも、器そのものを作り変えるって感じだったのだと思う。
彼女たちはもともと混血だったから、俺とは違う形で強化されたのだろう。
「……それは私も知ってる。それがどうしたの?」
メノさんが質問すると、フーズさんは後ろ頭をガシガシと搔きながら「一人の時に聞くか迷ったんだけどな」と言った。
なんだか、嫌なところをつつかれそうな気がするなぁ。
「メノ姉ちゃんと結婚するってこともあるし、この七仙がいる場でハッキリさせておきたかったんだよ」
レイラさんとエドワードさんも、頭の上に疑問符を浮かべたような表情でフーズさんのことを見ている。メノさんも同じく、フーズさんの口から出て来る言葉を待っていた。
――が、しかし。
「いいの? お兄ちゃん?」
目にも止まらぬと言っていいほどのスピードで、隣にいた葵がフーズさんの口を塞いでいた。俺は呆気にとられ、エドワードさんとメノさんも反応はできていたようだが、葵のスピードよりは遅いし、どうしていいのかわからないようだった。
「ちょ、葵、大丈夫だから。こっちにおいで」
「フーズさんも悪い人じゃないと思うから、お兄ちゃんが『言いたくない』って言ったら話を聞いてくれると思うよ?」
葵は後ろからフーズさんを抱きしめつつ、彼女の口を塞いだまま平然と話をしている。俺よりよっぽど修羅場に慣れていそうな感じだ。判断が速い。
「大丈夫大丈夫。別に、どうしても隠しておきたいってわけじゃなかったし」
聞かれなかったから、言わなかっただけ。簡単に誤魔化せるのならば、それでいいやと思っていただけなのだ。でもたぶん、フーズさんは何か決定的なことを知っているのだろう。
俺が、普通の種族ではないと判断できる理由を。
葵は「そっかぁ」と返事をして、言われた通り俺の隣に戻ってくる。変な空気になってしまった。
「び、ビビったぁ……えっと、アキトの妹のアオイ、だよな? メノ姉ちゃんから聞いてるけど、ミソロジースライムっていう種族だっけ?」
「そうだよ~。お兄ちゃんを傷つけたら、私怒るからね」
「俺、このあとアキトと模擬戦するんだけど……大丈夫かな」
「お兄ちゃん強いから大丈夫だよ」
「別の意味で心配だなぁ」
フーズさんは冷や汗を垂らしてそんなことを言ったのち、プルプルと思考を振り払うように頭を振る。
「まぁ、アキトもこう言ってくれたことだし。その反応からすると俺の予想はたぶん当たってるんだよな?」
俺は彼女の言葉に頷く。メノさんはそんな俺とフーズさんを交互に見て、不安そうな表情をしていた。
俺は心の中でメノさんに謝りつつ、フーズさんが口を開くのを待つ。
「じゃあ改めて聞くぞ、アキト――俺がミエル様から聞いた、この世界の種族のレベルの上限は5000だ。だとしたらアキトの種族は、この世界に存在しない種族ってことになるわけだ」
彼女はそう言って、俺からメノさんに目を向ける。
「アキトがメノ姉ちゃんと結婚する以上、当然子供も生まれるだろう――アキトの種族を知らないままだと、後になって問題になるかもしれねぇ。だから、ここではっきりさせておくべきだと俺は思うぜ」
実に現実的な意見だ。メノさんとの子供なんてまだまだ先の話だと思っていたから目を逸らしていたということもある。
それに加え、子供は不老なのかそうじゃないのか、赤ちゃんのまま不老になったらやばいよな? とか、不老の子供が生まれ続けたら人口がおかしなことになっちゃうとか、そっちのほうは色々考えていたけれど、正直種族に関してはあまり考えていなかった。
「……子供」
隣のメノさんはというと、俺の種族のことよりも子供のほうに気が向いているらしい。顔を真っ赤にして俺の服の裾を握りしめていた。
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