第92話 ご報告 2 ※メノ視点




 三人目には、ルプルと同じく魔人族の大陸で生活しているフーズに会いに来た。


 彼女は他のみんなと違って、ヴィヘナ大陸をふらふらと歩き回っているから、探すのに苦労した。彼女に会うために聞き込みに一時間ぐらいかけて、ようやく小さな農村で畑の手伝いをしている彼女の姿を発見した。


 七仙の一人として、拳聖のフーズとして名を馳せているのだけど、一番庶民的な雰囲気を持っているのは彼女かもしれない。服装も、あまり裕福とは言えない村人と大差なかったし。


「メノ姉ちゃんじゃねぇか!? ――あっ、ちょっと待ってくれよ、ゼラさんが腰を痛めたらしくってさ、ちょっとだけ手を貸してるんだ。すぐ終わるから」


 彼女はそう言うと、近くで申し訳なさそうにしている「ごめんなさいね」と言っている老婆に向けて「気にすんなって!」とにこやかに返事をしていた。どうやらあの老婆がゼラさんらしい。年下に向けて老婆と言うのも変な感じがするけど。


 村の住民は私を見てざわざわと遠巻きに見ている様子だった。でも、きっとフーズに対してはこんな感じじゃないんだろうな。私は人を避けて生きてきたらから、この差は仕方のないことだけど。


「……ゆっくりでいい、別に急ぎじゃないから、出直す?」


「いや、もうすぐ終わるところだから大丈夫だぜ」


「……そう」


 短く返事をして、どこで待っていようかとあたりを見渡していると、村の人が私に椅子を持ってきてくれた。お礼を言って、そして空間収納に入れていたプルアを渡した。


 ヴィヘナ大陸の人々は、七仙に対していい意味で距離が近い。

 それはきっと、ルプルやフーズのような七仙がいるからなんだろうな。



「ふー、なかなか楽しかったぜ。お待たせメノ姉ちゃん」


「……うん、お疲れ様。プルア食べる?」


「おぉ! やったぜ!」


 私が空間収納から取り出したプルアを渡すと、彼女は即座にかじりついていた。豪快だけど美味しそうに食べていて、アキトも私を見て『美味しそうに食べる』と言っていたけど、こんな感じだったのかな。


「……私、アキトと結婚することになった。前に七仙会議の時に話した、日本の人」


「マジで!? 急展開じゃん!」


「……うん。だから、結婚式に七仙のみんなを招待したいから、予定をすり合わせたい」


「もちろんオッケーだぜ! でもそうだな、アキトってやつとは一度手合わせをさせてもらわねぇといけねぇな。俺たちのメノ姉ちゃんにふさわしい男なのかってことを、たしかめねぇと」


「……アキトをケガさせたら私が怒る」


「うっ……で、でも、やっぱりメノ姉ちゃんの旦那さんとなると、ちゃんとした男であってほしいんだよ!」


「……私の旦那さんはちゃんとしてる。強さは関係ない。それに前に会議の時に言ったように、アキトはレベル9999だから、まず負けない。手加減も慣れていないから、フーズがどうなるかもわからない」


「じょ、上等だぜ! ま、まぁ、レベルが高かったとしても、ステータスの数値が低いなんて可能性もあるからな!」


「……言ってなかったっけ? アキトは全てのステータスが999999」


「ちなみにその島って、だれか光魔法使えたりする? いや別に、怪我したときのことを考えてるわけじゃないんだけどさ」


「……帰ったらアキトに戦闘を教えることにする」


「ちょ、メノ姉ちゃん! アキトに、どうかアキトに手加減を教えてくれぇ!」



 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆



 フーズと話したあとは、セレーナ大陸に行ってシャルに、そしてエルダット大陸に行ってアルに結婚の報告をした。二人とも結婚式の参加を快く快諾してくれた。


 みんな自分のことのように喜んでくれた。嬉しい。


 転移で生魔島に帰ってきたら、パット見た感じ誰もいなかった。ちょっと不安になりながら歩き回っていると、アキトの家から話声が聞こえてきた。中に入ると、どうやら全員が彼の家に集まっていたらしい。何をやっていたんだろう?


「……ただいま」


 玄関扉を開けると、真っ先に私に気付いてくれたアキトがこちらに笑顔で駆け寄ってくる。


「おかえりメノさん、どうだった?」


「……みんな参加してくれるって。それで、みんなで集まってるの?」


「それはよかった。あぁ、これはな――」


 私の質問に、アキトは楽しそうに答えてくれる。


 どうやら、アキトとその家族たちが主体となって、ケーキ作りをしてくれていたらしい。アキトの世界の文明が進んでいることは知っていたけど、やっぱりケーキもあったんだ。むしろこの世界にあるケーキが、アキトたちの世界から伝わったものなのかも。


「……ウェディングケーキ?」


 聞きなれない言葉に首を傾げると、アキトが追加で説明をしてくれる。


「俺たちがいた世界では、結婚式で大きなケーキを作るんだよ。そのケーキを作るにしても、あまりケーキ作りに慣れていないからさ、ちょっと試してみようと思って作ってたんだ」


 現在アオイたちが丸い生クリームを塗ったケーキにフルーツで飾りつけをしているところだった。人の顔ぐらいの大きさで、たしかに普通のものより大きめかも。


「……たしかに、大きい」


「ん? いや、これはただケーキのテストってだけで、俺たちが作るつもりのウェディングケーキは、これぐらいだぞ」


 そう言ってアキトが手で示した大きさは、すでに大きめだなと思ったこのケーキのさらに五倍ぐらいの大きさだった。そんなに大きなケーキを作るつもりなの?


 文化の違いなのか、この世界では小さなものが上品みたいな雰囲気があるから、位の高い人が食べるケーキほど小さかったりする、一口サイズのものが、複数個って感じ。


「やっぱりマズいかな?」


 私の表情があまり良くないものだったのか、アキトが心配そうに聞いてくる。

 そんなことない! アキトが作ってくれたものなら何でも食べる。


「……アルカディアには、たしかに『小さいものが上品』という風潮があると思う。でも、そんなこと気にする必要はない、私はアキトの気持ちが嬉しい」


「そうか? 七仙の人たちは大丈夫かな? いちおうその辺の話、ロロさんとかフロンさんが教えてくれてたんだけど、国によっても多少違いがあるみたいだからなぁ」


「……みんなが見たことないからこそ、ビックリすると思う。それに、アキトの愛の大きさだと思えば、嬉しい」


「それは、頑張って大きくしないといけないなぁ」


「……ん」


 アキトの優しい笑顔に大満足していると、みんなが黙ってこちらを見ていることに気付いた。シズルはニヤニヤしていて、残りの人たちは温かい視線で私たちを見ていた。


 べ、別にいちゃいちゃとかしてたわけじゃない!








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