第91話 ご報告 ※メノ視点




 アキトはやっぱりヘタレだ。

 私があんなに無防備な姿で一緒のベッドで寝ていたのに、本当に何もしなかったみたい。男の人ならこんな状況で耐えられるはずがないってフロンは言っていたけど、逆にシズルは『たぶん何もしないわね』と苦笑いをしていた。シズルの言う通りだった。


 それは私に女性としての魅力がないからなのかなって思ってちょっと悲しくなった。若い年齢で不老になって良かったと思っていた時期もあったけど、もうちょっと体が成長してから止まって欲しかったと今になって思う。


 ボインボインうらやましい。


「……これから七仙のみんなに報告に行ってくる」


「おぉ、さっそくか。なんか緊張するなぁ」


「……緊張なんてしなくていい」


「いやそうは言ってもさ、この世界ですごい地位の人たちばかりだろ? 恐縮しちゃうのは仕方がないと思うんだ」


「……年齢は違うけど、アキトも私たちとやってることは変わらない」


「あんまりその実感がないんだよな」


 アキトは私が腕組みをして胸を持ち上げているのにも関わらず、まったく気にしたそぶりも見せずにそう答えた。空しくなって、すぐに腕をほどいた。

 心の中でため息を吐いていると、アキトは苦笑しながら頬を掻いて、


「あのねメノさん、普通に腕組みをするのは全然構わないんだけどさ、そうあからさまに胸を強調しちゃったら、俺もつい見ちゃうから勘弁してくれ」


 恥ずかしそうに、そう言った。


「……アキトのえっち」


「はいはい、どうせ俺はえっちですよ」


 んふー。


 アキトは見るのを我慢してただけみたい。シズルはもしかしたら、アキトがそういうことを我慢するとわかっていたから、『何もしない』って答えたのかも。


「……じゃあ行ってくる」


 私がそう言うと、アキトは周囲をきょろきょろと見渡してからこちらに近付いて来る。そして、私に頬に軽く触れるようなキスをしてきた。


「い、行ってらっしゃい。気を付けて」


「……アキト、顔真っ赤」


「慣れてないんだから仕方ないだろ」


 どうやら彼も頑張って行動してくれたらしい。

私からもお返しをしようかと思ったけど、リケットとロロの二人が歩いて来るのが見えたから我慢した。続きは夜にすることにする。



 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆



 まず一人目、エドのところに来た。

 私の友人が住んでいるお城には、だいたい私専用の転移部屋が用意されてある。いきなり私が現れて混乱させないためだ。


 といっても、庭やテラスに転移して、そこから使用人とかに声を掛けたりすることもある。ルプルの場合、彼女の部屋に転移することも多々あった。


「……ごめん、忙しかった?」


 エドのいる書斎に入ると、彼は椅子から立ち上がってニコリと微笑んだ。エドも私と一緒で本が好きなので、部屋には実用書以外の趣味の本も多い。部屋には紅茶の良い香りほのかに香っていた。


「いえいえ、メノさんのからのお話であれば、予定などいくらでもずらしますとも。そういえば、コメはいかがでしたかな? あれから私共もコメを育てている村から少量いただいて食べてみましたが、組み合わせ次第でなかなか面白い食べ物のようですな」


「……うん、アキトすごく喜んでた」


「ほっほっほ、それは重畳」


 エドは綺麗に整えた白い顎髭を撫でながら、嬉しそうに微笑んだ。


 エドのしわは優しいしわだ。笑顔になったときはすごいことになる。周囲から見たら私がエドの孫みたいに見えるのだろうけど、私も時々自分の年齢を忘れてそんな風に思ってしまうことがある。


 実際には、私の方がはるかに年上なんだけど。


「……私、アキトと結婚する。今日はその報告と、結婚式に招待しにきた、場所は生魔島。七仙はみんな来てほしいから、日程をすり合わせたい」


「――ぶぉっ!? なんと、結婚ですか! それはおめでたい! なんとしてでも都合を合わせましょう」


「……ありがと」


「いえいえ、しかし一度式の前にアキト殿にご挨拶にお伺いしておきたいですな」


「……うん、アキトも式の時に初対面の人がいっぱいいたらびっくりしちゃうから、そっちのほうがいいかも」


「ではそのようにしますかな」




 二人目、レイラ。


「ねぇメノお姉ちゃん……そ、それって私を世界樹の精霊様の前に引きずり出すための口実とかじゃないよね? 実は相当お怒りでとか――」


「……違う、全く気にしてない。でも、どうしても心配なら、シズルにお酒のお土産を持ってきたらいいかも。シズルはお酒が大好きみたいだから。たぶんアキトたちも、お祝いの品ってことなら、受け取ってくれると思う」


「わかった! じゃあいっぱい持っていく!」


 レイラはそう言うと、玉座に座った姿勢のままぐっとやる気をみなぎらせるように拳を握った。そしてその瞬間、ばるん――と胸が大きく弾む。半分分けてほしい。


 普段はおしとやかで気品のある態度で振舞っている彼女も、私たち七仙の前では子供のように振舞っている。


 四百年生きているとはいえ、それでも彼女は私の三百歳年下だ。さっき会ってきたエドは私の二百歳年下。


「それにしても、メノお姉ちゃんが結婚かぁ。そういうことに全く興味がなかったと思っていたんだけど、それだけアキトさんが魅力的だったってこと? まだお若いんでしょ?」


「……恋に年の差は関係ない。アキトはかっこよくて優しい」


「へぇ~なんか良いなぁ、そういうの。私も恋愛したくなっちゃう。ねぇねぇ、時間があるならもっとアキトさんのこと聞かせてよ! どういうきっかけでメノお姉ちゃんが好きになったとかさ!」


「……私は良いけど、王様の仕事はいいの?」


「大丈夫大丈夫! 仕事へのエネルギー補給みたいなものだから!」


「……そう、でも、本当にいいの? 私にアキトを語らせたらすごいことになる。レイラが不老で良かった」


「何百年話すつもりなの!?」




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