第79話 夜、ルプル宅にて




「そういえば、二人は何歳の体で不老になったんだっけ?」


「……私は十七」


「ルプルは十五なのだ!」


「へぇ、じゃあ体だけなら俺より十ぐらい若いわけか」


「アキトその言い方、ちょっとえっちなのだ!」


「えぇ!? いやっ、そういう意図はないからな!? お酒の年齢的に大丈夫なのかなって思っただけだって!」


 母さんが作ったお酒は、夕食の時に一同に振舞われた。もちろん、未成年者である葵たちには飲ませていない。ただ、この世界ではアルコールに関する明確な法律がないようで、子供が飲んだりしていても罰則があったりするわけじゃないらしい。


 このあたり、医療の発展度合いや、レベルやステータスのお陰で害が緩和されていたりするなんて理由もありそうだなぁ。日本では二十歳からです。お間違えのないように。


 いや、アルコールの害に関して話したいわけではなく、ともかく十六歳であるロロさんは夕食の場でお酒を普通に飲んでいたし、リケットさんもお酒を口にしたことは無かったものの、『飲んではいけないもの』という意識は皆無だった。


 で、夕食が終わったあと、俺、メノさん、ルプルさんの三人は、ルプルさんの家にやってきてお酒を飲んでいるところだ。


 ディグさんとフロンさんは二人で飲んでいるようだし、リケットさんはお酒一杯で酔いつぶれて早々に就寝、ロロさんは意外とお酒が強いようで、俺の家にやってきて母さんと一緒にお酒を飲みながら葵たちと遊んでいる。


 ルプルさんは仕事が押してしまって夕食に参加できず、『メノ、たまには一緒に飲むのだ!』、『じゃあアキトも』という流れがあって今に至っている。


 毎回みんな集まっていたら会話もままならないし、こういう少人数の組み合わせでのんびりする時間があってもいいよなぁ。


「……アキト、お酒つよい」


 メノさんが不服そうな表情を浮かべて言う。


「みたいだなぁ。いちおう体はぽかぽかしてる感じはあるけど、普段とあまり意識は変わらない気がする」


 ちょっと饒舌になってるぐらいだろうか? でも、その時の気分の違いと言われたらそれで済みそうなぐらいの変化である。


 母さんから『これはまだ試作だから好きなだけ飲んでいい』といつの間にか作っていた樽でワインを渡されている。メノさんたちと飲み始めて四、五杯は飲んでいるけど、ずっとそんな感じだ。


 母さんの血の力か――はたまたレベルや状態異常無効の力なのか。答えは神のみぞ知る。


 ちなみに、ルプルさんとメノさんがお酒に強いのかは未だ不明。だってまだ二人とも一杯とちょっとしか飲んでないんですもの。


 なぜ俺が二人と比べてこんなに飲んでいるかと言うと、メノさんが俺のグラスが少しでも減ったら即座に注ぎ足してくるからだ。ちょっとでも俺が口を付けたら、グラスを奪って樽からワインを注いでいる。そんなに俺を酔わせたいのか。


「メノさんは飲まないって言ってたけど、ルプルさんはどうなの? 普段からお酒飲んだりしてる? いちおう王様だし、そういう機会も多いんじゃないの?」


「『いちおう』は余計なのだ! ルプルは立派な王様なのだ!」


「あははっ、ごめんごめん。でも立派な割には『サボりたい』ってしょっちゅう言ってるよな」


「ぐぐ……メノ、アキトがいじめるのだ! あ、ちなみにお酒は時々飲んでるのだ。月に三、四回ぐらい」


 ルプルさんはメノさんに泣きつきながらも、律儀に質問を思い出して答えてくれる。こういう絶妙に憎めない感じが、彼女が部下の人達に慕われている要因の一つなのかもしれないなぁ。


「……アキト、お酒減ってない」


「そういうメノさんも減ってないけど」


「……む」


 俺が言い返してくるとは思わなかったのか、メノさんは一瞬驚いたように目を見開いたあと、眉間にしわを寄せて自分のグラスを見た。そして、『これでどうだ』と言わんばかりに、ゴキュゴキュと喉を鳴らしてワインを飲み干す。


 普段なら俺も話を逸らしたりする方向で対処していただろうけど、やっぱり少し酔っ払ってしまっているのだろうか? 状態異常無効も、この程度なら許容範囲とみなしている? わからん。


 メノさんは眉間にしわをよせ、鼻から息を吐きながら俺を見る。アルコールの匂いがふんわりと漂ってきた。


「メノ、ルプルが注いであげたのだ!」


「……貸して」


 ルプルさんは好意で注いでくれたんだろうけど、望まれてはいないだろうなぁ。

 てっきり『余計なことをするな』みたいな雰囲気になっちゃうのだろうかと思ったけど、メノさんはルプルさんからグラスを受け取ってお礼を言うと、グイっとこれまた一気にワインを飲み干した。


「む、無理してない? メノさん、お酒そこまで強いってわけじゃないんだろ?」


「……アキトも二杯飲んで」


「俺はたぶん強いから平気だけど」


 そう答えて、現在ワインの入っているグラスを空にして、さらにもう一杯も飲む。

 そうしている間にも、メノさんは椅子に座ったまま左右にフラフラと揺れ始めていた。


「……なんれアキトは酔わない」


「呂律も怪しくなってきてるじゃん……自分を犠牲にしてまで俺を酔わせたいか」


「……むぅ、アキトがいじめる」


 メノさんはそう言うと、口の端と眉尻を下げてしょんぼりモードへ移行。えぇ、俺が悪いの?


「あー! アキトがメノをいじめたのだー!」


 俺を非難しながらも、ルプルさんはルプルさんで樽からワインを注ぎ、しっかり香りと味を楽しんでいる。なんだかんだ、一番ルプルさんがしっかりしてるよなぁ。


「……んあー」


 メノさんは目を閉じ、天井に顔を向けてそんなことを言っているし。こんな風にメノさんの変わった姿を見られるのなら、毎日晩酌するのも悪くないかもしれない。



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