第70話 みんなの一日

~~作者前書き~~


ちょっと説明回っぽい感じになっちゃいました!

お許しを!


~~~~~~~~~




 この図書館建築をしている間に、もう一つ進展したものがある。

 進展――と言う言葉を使うのが正しいのかはわからないけど、ともかく変化が起きたことは事実だ。正しくは『変化が無くなった』ということだけども。


「ここから人化までどれぐらい時間がかかるんでしょうね」


「……すごく太くて大きくなった」


「そ、そうですね」


 母さんのことである。もはや高さはどれほどになっているのかわからないが、ようやく母さんの成長が止まったのだ。以前葵たちから聞いた話を参考にすると、母さんのウエスト――幹の太さは直径八十メートルになっている模様。


 世界樹はかなり大きく葉を広げているのだけど、わりと隙間から日差しは入ってくる。普通なら一帯が日陰になりそうなものだが、ちょこちょこ葉の位置を変えて調整してくれているらしい。畑なんかには、しっかりと陽が当たるようにしてくれていた。


 世界樹の周辺もちょこちょこ伐採していて、現在は世界樹から五十メートルほどの木々を伐採しているが、思い切って百メートルぐらいまで広げてしまっていいのかもしれない。


 そうなると、石レンガの道で舗装していた我が家あたりまで伐採することになってしまうのだが、母さんも日光調整がめんどくさいかもしれないからなぁ。


 ちなみに、母さんの成長が終わると同時に、結界の広がりも治まった。現在では俺の歩数での計算ではあるけれど、だいたい二キロの範囲が世界樹によって守られている。


 海岸まで届くかなぁと思っていたけれど、あと少し足りなかったぐらい。でも、リケットさんもロロさんもレベルが上がってきているので、彼女たちも多少気分が悪くなるぐらいで外に出られるようになっていた。


「……きっとアキトのお母さんは、自分が人化できるようになるよりも、守る範囲を広くすることに力を注いでいた。成長が止まったらな、そっちに力を注ぐはず」


「……ですかね」


 母さん、最初に会ったら何を口にするんだろう。そしてまた俺や葵は、どんな言葉を掛けるのだろう。


『おかえり』とかだろうか。それとも『ひさしぶり』とかだろうか。はたまた『会いたかったよ』とかだろうか。


 まぁ、それを今考えても仕方がないか。どうせ考えたところで、再会した時には全て忘れてしまうだろうから。



☆ ☆ ☆ ☆ ☆



 図書館建築が終わってから、住民たちの一日のルーティンがだいたい決まってきた。


 まず、リケットさん。


 彼女は朝から世界樹周辺、それから各家周辺の掃除をする。それが終わるとロロさんと朝食の準備を始めて、昼までは繭から糸を作ったり、染色用の花や鉱石を集めたり、衣服やタオル、カーテンやマットなど、布系全般の作成を行っている。

 昼食を食べたあとは、夕食までずっと図書館の本の整理を行うような感じ。


 次にロロさん。


 リケットさんと同じ時間ぐらいに目覚める彼女は、まず畑から必要な分だけ作物を収穫し、倉庫に収める。食糧庫に入っている作物の期限を確認し、その日使いたい食材を決め、リケットさんに相談。そこから彼女と一緒に朝食を作る。


 その後は結界内を歩き回って、新たな食材を探し、主に飲料の研究をこなしてくれている。いくつかの種類の紅茶は完成したが、コーヒーはまだできていない。いちおう、以前メノさんが『苦い』と顔をしかめた飲料がそれにかなり近いものだったのだけど、まだ研究を続けてくれている。ありがたい。午後は、図書館で整理をしてくれている。


 続いてヒカリとシオン。


 彼女たちは朝目覚めると、動物小屋に行ってミルクを絞ったり卵を回収したりしたのち、エサやり、小屋の掃除等を行ってくれている。それが終わったら、ディグさんとフロンさんを引き連れて、結界の近くで魔物の狩りを行う。

 

 この時の魔物が、昼食や夕食に出されることが多い。昼以降は、俺と一緒に異世界語の勉強をしたり、本整理の補助を行っている。


 次にソラとヒスイ。


 彼女たちは主に雑貨類を作ってくれている。

 トイレットペーパーだったりティッシュだったり紙だったり――それらの在庫が十分にある時は、食器類やカトラリーなど、たくさんの物を作ってみんなに配っているような感じだ。午後はシオンたちと同じく勉強。


 次にアカネ。


 彼女は特定の仕事に就いておらず、臨機応変にサポートを行っていることが多い。リケットさんのもとに繭を届けたり、ヒカリたちと一緒に動物の世話をしたり、ソラたちと一緒に家具を作ったり。そう聞くと、下っ端のようにも見えてしまうのだが、実際のところは監督役に近いようだ。『そろそろ休まないとお兄ちゃんに怒られるよ』と言ったりしているらしい。


 そしてディグさんとフロンさん。


 彼らは朝から夕方まで図書館の本整理を行っている。その作業の休憩がてら、二人で模擬戦を行い、戦いの感覚を取り戻しているようだ。さらにレベルが毎日上がっている影響で、一日休んでしまえば一気に感覚が狂ってしまうらしい。この辺り、二人が身体操作のスキルを持っていないことが影響しているようだ。


 ちなみに、この二人が食後の皿洗いを担当してくれている。『これぐらいさせてもらわないと気が済まない』とのこと。


 それから、ほとんどこちらにはいないがルプルさん。


 朝は朝食の時間ぎりぎりまで寝ていて、ご飯を食べたら自分の国に向かってお仕事をこなす。帰ってくるのは夜の八時前後で、夕食は向こうで食べたりこちらで食べたりとバラバラだ。休みの日は基本的に遊んでいるけれど、たまに気が向いたらリケットさんに裁縫のことを教えたり、本の整理を手伝ったり、魔物の狩りに同行していたりしる。


 気まぐれだけど、これぐらいの気楽さの人がいるのはありがたかったりする。本人には言わないが。


 そしてメノさん。


 彼女はルプルさんと同じくのんびりと起きてくる。早起きした日は朝食前に俺の家に寄って紅茶を飲むこともあるけど、だいたい眠そうにしている。


 朝食後は俺と一緒に魔物の間引きに出かけたり、魔道具に使う魔石の加工、あとは読書もしたりする。昼食後には俺と葵たちに異世界語を教えたり、本の整理を行っているような感じだけど、たまに一人でどこかに出かけていたりする。どうやら俺に内緒で何かをしているらしく『なんでもない』の一点張り。気になるけど、気になっていない振りをすることにしている。


 最後に俺。


 朝起きたら、すでに活動を始めているリケットさん、ロロさん、ディグさん、フロンさんに挨拶をして回り、手伝うことがあれば手伝う。このタイミングで、目安箱に投書があればそれを回収しておく。家に戻ると葵たちが起き出す時間になるので、少しだけ話して仕事に向かうみんなを送り出す。


 その後はリケットさんたちと一緒に朝食づくりに参加して、ご飯を食べ終わったあとは、メノさんと一緒に狩りにでかけたり、魔鉱石を採掘しに行ったり、木材を伐採して資材倉庫に収納したり、葵たちと遊んだり……まぁ日によってまちまちだ。


 午後は勉強と本整理のサポート。


 この島で最終決定権は俺にあるらしいので、住民から質問があればその都度回答しつつ自分のやることをやっている。


 夜は俺の家や世界樹の下でゲームをしていることが多い。別々に過ごしてもいいと思っているのだけど、みんな自然と集まって遊んでいる。こなかったら仲間外れになるわけでもないけど、そういう強迫観念みたいなものがあるのかなぁ……というのが最近の俺の悩み。


 みんな楽しそうにしているから、大丈夫だと思うけど……俺が目安箱に投書しても、読むの俺なんだよなぁ。




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