第68話 図書館の建築




 目標、十五万冊を納めることができる図書館を作る。


 実際に計算する前は『日をまたぐことになるかもなぁ』なんて安易な考えを持っていたが、とんでもない。この世界の本が地球に比べて大きいこと、そして俺がぼんやりと頭の中に描いていた図書館の風景と、そこに収まる本の冊数がどれほどのものになるのかを正確に把握できていなかったために、予想は見事に外れた。


 仕事に行っているルプルさんを除く住民全員で、どんな図書館にしようか――というデザイン的な会議と、どれほどの規模で作る必要があるのか――という会議を行い、図面が完成したのが夕方の四時ごろ。


 時折雑談をしたりしながらだったから少し時間が掛かってしまったけれど、おかげで『疲れた』とかいう感覚はない。


「幅七十メートルに、奥行き四十五メートルぐらいか」


 でかい。想像以上にでかい。それでいて二階建てである。

 二階部分は外周を巡らせるように通路があるだけで、中央部分は圧迫感の無いように吹き抜けの構造にしているけれど、それでも一日二日で終わるようなものではない。


 木材を大量にストックしているけれど、それでも足りる気がしない。


 建築場所は世界樹の東側。こちら方面は世界樹の成長に合わせた伐採をしているだけで、他には手を付けていない。というわけで、まずは伐採作業から始めなければいけないということだ。


「今日はとりあえず、建築予定地の整備だけにしておこうか。仕事があるのはいいことだけど、せっかくの大きな仕事なんだし、急いで消化してしまうのももったいないからな」


 そう、この島において仕事は貴重なのである。だから別に、サボりたい欲があるわけじゃないのだ。例えて言うのならば、好きな食べ物を一気に食べてしまわないように、ちょっとずつ食べましょう――って感じである。


 俺の言葉にみんなが返事をするのを確認して、「よろしくお願いします」と頭を下げる。

 さぁ、このお仕事はいったい何日で終わるかなぁ。



☆ ☆ ☆ ☆ ☆



 実際に建築が始まってからも、俺はまだ『一週間後には、みんな図書館に集まって本を読んだりしているのかなぁ』なんて思っていたけれど、またまた俺は大事なことを忘れていた。というか、俺だけでなくみんなもそのことを頭から抜けていたのだ。


 骨組みを作るのに二日。壁、床、屋根を張るのに三日、魔道具の設置や建具の設置、大量の棚の作成などを含めると、合計で十日かかってしまった。


 この時までは良かった。みんなで完成を喜び合った。


 この期間でディグさんの手と足は完治し、彼はいままでの遅れを取り返すように全力で仕事に励んでくれたし、今回の建築に関しては、ルプルさんも休みの日に手伝ってくれていた。さらに様子を見に来たシャルロットさんやアルカさんも作業に参加してくれて、全員で作り上げたという感覚が強い。


 だが、図書館づくりの本番はこれからだった。


「…………これは根気よくやらないとですね」


「……ごめん」


「謝ることじゃないですよ!? 俺たちは本当にメノさんに感謝してるんですから!」


 俺たちが忘れていた作業――それは本を並べるという作業である。

 ただ並べるだけなら簡単だ。全員でやればそれほど時間はかからないだろう。


 しかし、ジャンル別、作者別、そしてその順番――それらの作業を十万冊以上の本でやろうとすると、仕訳だけでもどれほどの時間がかかるかわからない。


 メノさんの空間収納の魔法は、収納内できちんと整理されているような状態ではないらしい。『何冊あるかわからない』と言った時点で気付くべきだったか。


「はい! 私がやりたいです!」

「私もやらせてください」

「俺もやるぜ」

「私もやるわよ」

「ルプルはめんどくさいのだ!」


 リケットさん、ロロさん、ディグさん、フロンさん、そして最後にルプルさんが言う。まぁ彼女ならそんなことを言いそうな気がしたけど、別に強制じゃないし、『仕事がない』と嘆いている人にはいい時間つぶしになるのかもなぁ。


 かくいう俺も、陳列作業には参加したい気持ちはあるのだけど、なにせ異世界語が読めないのだから、本当にサポート程度のことしかできない。


 葵たちもやる気はあるけれど、残念ながら俺と同じく異世界語が読めないからなぁ。今回は現地の方々に大部分の仕事を任せてしまうことになると思う。


「いい加減、異世界語勉強するかぁ」


 せっかくの本も読めないし、会話はできなくても文字ぐらいは読めるようになっておきたい。となると、日本語と異世界語を操るメノさんにお願いすることになるのだけど。


「私たちもやるー!」


 ヒカリがそう発言し、残りの四人も同じく手を上げて勉強の意思を表明。

 メノさん的にも、個別に教えるよりは全員一緒にやるほうが手間が省けるだろうし、今度からメノさんの手が空いている日の午後は勉強の時間にあてようかな。


 俺たちがそんな話をしていると、メノさんも「教えるなら一緒のほうがいい」と言ってくれたから、それで決定。六人で「ありがとうございます」とお礼をすると、彼女は嬉しそうにうんうんと頷いた。


 その時に、葵たちとメノさんがアイコンタクトをとっていたような気がするんだけど……俺の気のせいだろうか?




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