第67話 図書館会議
お酒に関してはメノさんが昔本で見たことがあるということだったので、その情報を探るという意味もかねて、本日は図書館の建築をこなすことにした。
建物を建てる――というと、数か月スパンの計画を練るのが普通なんだろうけど、この島では――というか葵たちの前では、文字通り朝飯前ぐらいの気軽さでぽんぽん家が建ってしまうんだよなぁ。
本日も『図書館を作ろう』とは思っているけど、気持ち的には『何時間かかるかなぁ』ってぐらいだし。本当に異常である。ありがたいけども。
「メノさん、本をたくさん持ってるって言ってましたけど、具体的に何冊ぐらいなのかわかりますか?」
メノさん曰く、『家に入りきらないぐらい』というレベルらしいから、きっと数百冊――もしかしたら四桁に達している可能性だってあるもんな。現状、本をこちらに提供しようとしているのは彼女しかいないので、彼女の持っている本の数が、建物の大きさの基準になるだろう。
「……すごくいっぱい。数えたことない」
「んー、千冊以上あります?」
俺も困っているが、メノさんも眉間にしわを寄せて困っている様子。そりゃ七百年も生きていたら、自分が所持している具体的な本の冊数なんてわからないよな。
二十五年しか生きてこなかった俺でさえ、曖昧なのだし。
「……数万冊はある、十万あるかも……?」
顎に人差し指を当てて、コテンと首を倒すメノさん。
あはは、メノさんは相変わらず可愛いなぁ――っていやいやいやいや! 十万冊!? そりゃ家に入る量じゃないわ。想像の百倍だった。
しかし十万か……メノさん、読書が好きみたいだからなぁ。
それに加え、彼女は人と関わりを断っていたのだから一人の時間は山ほどあったはずだ。それが七百年も続くと考えると――そこまでおかしな数字ではないのかもしれない。
「す、すごい数ですね……今は大陸の家に置いてるんですか?」
山奥に住んでいるとは前に聞いたことがあるけれど、もしかしたら俺が想像しているよりもずっとずっと大きい家に住んでいるのかもしれない。なんてことも考えたが、実際にはほとんど空間収納に収めているようだ。もはやどんな本が入っているのかもよく覚えていないとのこと。
「じゃあ余裕を持って、十五万冊ぐらい入るように建築してみましょうか。別にみちみちに本を並べる必要もないですし」
「……うん。ありがと」
メノさんはそう言って笑顔になる。
そんな表情を見せられたらやる気になっちゃうじゃないですか……! 別にメノさんじゃなくても、やる気になっていたと思うけど、やはり好みの顔と性格をしているからなのか、俺の意欲も変わってくる。
想像してみてほしい。ディグさんが『旦那、お願い』とチワワみたいにウルウルした目で俺を上目遣いで見る姿を。反射でビンタしてしまいたくなる。
実際、『酒が飲みたい』と書いているのはディグさんと予想して、なんだかんだ後回しにしちゃってるし……すまない。
男女差別とかじゃなくて、実際に手を付けられるのが図書館だったってだけなんだよ。現に俺は食糧庫に材料になりそうなものがないか確認しに行ったし。だから俺は悪くない。
「みんなは午前中いつもの仕事をやってるでしょうし、午後からみんなを集めてとりかかりましょうか。いちおう俺とメノさんだけで軽く話を進めておいて、仕事が終わった人から順に話し合いに加わってもらいましょう」
「……わかった」
というわけで、俺はメノさんと一緒に住人全員に『午後から図書館づくりの話し合いをするけど、俺たちはもう始めてるから、午前中、やることが無くなったら世界樹の下に来てほしい』と伝えておいた。
いつもなら午前中にやる仕事でさえすぐに終わってしまい、みんな手持無沙汰になっちゃったりしているのだけど……、
「珍しいですね、みんな来ないなんて」
「……忙しいのかも」
今日に限って、午前中いっぱいみんな仕事に励んでいた。
現状仕事がないはずのディグさんも「古傷が痛むんだ。午後には治りそうな気がする」とよくわからないようなことを言って顔をゆがめているし、フロンさんも「リケットさんに草むしりの極意を教えてもらう予定が」と忙しそうにしていた。草むしりの極意ってなんだ。
「……私は、二人でも楽しいからいい」
俺が腕を組みつつ首を傾げていると、メノさんボソボソと可愛いことを言っていた。
「俺も楽しいですよ。みんながいる時とは、違う楽しみですね」
「……うん」
彼女は頷くと、再び作業に戻る。
現在は、数十冊の本を取り出して、本一冊当たりの厚さや高さ、奥行きなどを計測中だ。地球で見てきたものと違って、一冊一冊が結構分厚いし大きい。A4サイズぐらいありそうな大きさで、厚みは辞書ぐらいある。
メノさんが本を読んでいる場面を何度か見たことがあるのだけど、『実用書だからあんなに大きいのかな』と思っていたが、この世界ではこれぐらいが標準サイズらしい。
「かなり大きな建物になりそうですね」
「……楽しみ」
言葉にした通り、メノさんはワクワクした様子を見せていた。上に持ち上げられている頬の動きからも、弾むような声の調子からも、目の輝きからも、そんな雰囲気がにじみ出ている。
葵たちも慣れていないサイズと形だし、大量の本棚は必要だし、完成には数日かかるかもしれないなぁ。
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