第63話 釣り大会
人数が多ければ、それだけ作る量も当然多くなる。
フィッシュバーガーを三十個、普通のハンバーガーを十個、メノさんが作ってくれた世界樹ジュースは人数分あって、それに加えて紅茶も準備。
もし大家族に生まれていたら、毎食こんな風にドタバタした感じになるのかなぁ。俺は少しずつ慣れてきたけど、いまだに家での食事というより、食堂とかそういう雰囲気に感じてしまう。
みんなが仲良くしてくれているから、どちらかというとパーティって感じだろうか。
そして、食事が終われば葵お待ちかねの釣り大会である。
みんなこの釣りに参加するために午前中にしっかり仕事を終わらせてくれていて、食後の片づけを終えると全員がすぐに俺の家に集まってきた。
「予備の釣り竿もあるし、糸もいっぱいあるから、もし壊れたらきちんと申告するようにしましょう」
みんなに釣り竿がいきわたったことを確認してから、声を掛ける。すると、すぐに『はーい』『わかった』『わかりました』などなど個性のある言葉が返ってきた。
フロンさんやディグさんは、特に『ここが恩返しのチャンス』とでも言うように張り切っている模様。もっとレクリエーション的に楽しんでほしいんだけど……まぁいいか。
場所は世界樹から石レンガで舗装した道を進んだ洞窟近くの川。結界から出ないように注意して、いよいよ釣り大会開始だ。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
「調子はどう?」
俺はメノさん、ソラ、ヒスイの合計四人で固まって釣りをしていたのだけど、二匹ほど釣り上げたところで他のみんなの様子を見に行くことにした。見えなくなるほど離れて釣りをしているわけじゃないけど、話声は聞こえないし、釣果もわからないし。
最初に向かったのはリケットさん、ロロさん、アカネの三人がいる場所。
「アカネちゃんがすごいですよ! もう五匹目です!」
「私はまだ四匹です……運には自信があったんですけど、やっぱり運だけじゃだめなんでしょうか」
彼女たちの傍に置いてある魔鉱石で作ったバケツの中には、魚が十匹泳いでいた。アカネが五匹でロロさんが四匹ということは……リケットさんはまだ一匹らしい。
バケツをのぞきこんだ俺が何を考えているのか察したらしく、リケットさんが慌てた様子で「すみません!」と謝ってくる。
「このまま釣れなかったら、川に飛び込みます!」
「いやいやいや! 何を言ってんの!? そんなことしなくていいから、もっと楽しんで、な? 俺もまだ二匹だし」
「私も飛び込みたーい!」
「アカネは遊びたいだけでしょうが」
というわけで、リケットさんグループの釣果はいまのところ十匹。俺たちのところでもソラとヒスイが頑張っていたし、葵たち、釣りの才能があるのかなぁ?
「調子はどうですか?」
というわけで、次にやってきたのはフロンさんとディグさんのところ。ここにはヒカリも一緒にいて、これまた一番釣果をあげている模様。
フロンさんが三匹、ディグさんが一匹、ヒカリが四匹だ。
「面目ねぇ。旦那には百匹千匹釣っても恩返しできねぇってのに」
「いやそんなに食えないから。俺の胃袋は有限だぞ」
「じゃあ私が食べる!」
「そうだったな……葵たちは胃袋制限ないんだった」
元気よく返事をしたヒカリに苦笑する。彼女たちはあまり食事を必要としないらしいが、食べようと思えばいくらでも食べられるとのこと。メノさんとロロさんが羨ましがっていた。
「ヒカリちゃんにいっぱい食べてもらうためにも、釣らなきゃ!」
「フロンさん頑張ってぇ~」
「もちろんよ! この命が尽きるまで頑張るわ!」
重いよ。自分の目を治してもらったからって気持ちがあるのはわかるけど、これはそんな命をかけるようなお仕事じゃなくて、娯楽なんだよ。もっと楽しんでね。
そう言った感じのことをやんわりと伝えると、新参者のお二人はなおさら張り切ってしまった。もっとこう……のんびりやっていきましょうね?
さて、最後は一人で釣りを楽しんでいるシオンの元へ。ひとりのほうが気配を悟られずに済む――とか思って一人でやってるんだろうけど……って、一人じゃなくない?
「なんでいるんだ」
シオンがいた場所に近づいていくと、そこには釣り竿を持ったルプルさんの姿があった。ちょうど木の上に登っているシオンに、「釣れたのだ!」と魚を見せびらかしているところである。
「王様としてのお仕事はいいんですか?」
「一段落ついたから逃げ――じゃなくて、お仕事終わらせてきたのだ!」
「サボりですか?」
「――うっ、シオン、アキトがいじめるのだ!」
「お仕事はきちんとやったほうが良いと思うでござるよ?」
「アキト! シオンがいじめるのだ!」
どうやらルプルさんにとって、『仕事は真面目にやりましょう』と言うのはいじめに相当するらしい。まぁ、最近はこんな風に抜け出してくることはないし、せっかくの釣り大会なのだからお小言を言うのは止めておこう。
そもそも、俺はそんなこと言える立場じゃないしな。
「別に俺もシオンもいじめてるわけじゃないですよ。何匹釣れましたか?」
「ルプルは二匹、シオンは八匹捕まえたのだ!」
「おー、すごいなシオン。いまのところ一番だぞ」
木の上に向かって声を掛けると、シオンが俺の傍に降り立ってドヤ顔になる。
「釣り竿はルプル殿に貸したので、拙者はクナイで仕留めているでござる」
ふふん――と自慢げにしているけど、釣り大会という意味ではルール違反だよね? ルールとか設定していないし、本人も一緒にいるルプルさんも楽しそうだから頭を撫でておいた。
すると、
「……釣れた」
背後からそんな声が聞こえて、振り返ってみると、そこには大きなバケツを持ったメノさんがいた。中には二十匹以上の魚がせわしなく泳いでいる。
「本当に釣りました?」
「…………」
俺の質問を聞くと、メノさんは気まずそうに俺から視線を外す。
さてはメノさん、一番になるために魔力網で捕まえたな?
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