第62話 お口パカー
メノさんと一緒に魔鉱石を採掘しに行ってから、その後は釣り竿づくり。
水中に魔物はいないし、この島の木材は強度柔軟性ともに優秀なので、その辺の木で作ればいいのだろう。世界樹の枝は切れないことはないが、加工が大変だし。
糸に関しては、本当は透明な糸のほうが魚にバレにくくていいのだろうけど、あいにくそんな都合のいいものはないので、裁縫に使っている糸をそのまま利用。リールは作らずに、釣り竿に直接結ぶような形で作った。
「……アオイたちが喜ぶ」
出来上がった十五本の釣り竿を満足そうに眺めながら、メノさんが呟く。
実際に使用する本数は、仕事でいないルプルさんや、定住しているわけではないシャルロットさんやアルカさん、それからまだ人化していない母さんを除く十一本。
作るのはそこまで手間ではないし、足りなくなったらまた作ればいいだけだ。
「魚好きですからねぇ。午後から釣りをするっていったら、めちゃくちゃ喜んでましたよ。メノさんも、以前からこの島で魚とったりしてたって言ってましたよね」
「……うん。美味しいから」
「今日はどうやって食べましょうかね――あ、フライにしますか? まだ魚で揚げ物やってませんでしたよね?」
「……いい案」
植物性の油自体は、すでに手に入れていた。というか、メノさんが間引き次いでにどっさり『パレイユ』という植物の実を持って帰ってきて、油制作を勝手にやってくれていたのだ。どうやら俺を驚かせたかったらしい。
いまでは彼女の家の裏手にその実がなる木がすくすく育っており、ロロさんが畑仕事ついでに水やりなどを行ってくれている。
「じゃあフライと一緒にアブラブ(キャベツっぽいやつ)とヒンナ(たまねぎっぽいやつ)をパンに挟んで、それから味付けはヤローソース(マヨネーズっぽいやつ)にしましょうか」
異世界フィッシュバーガーである。
やべ、想像したらもうお腹が空いてきた。よだれがでそう。葵たちすごく喜びそうだなぁ。もっと早くに作ってあげればよかった。
「……それお昼ご飯じゃダメ?」
どうやらメノさんも想像して食欲がそそられたらしく、懇願するように俺を見上げてくる。若干目がうるうるしているように見えるから、なおさら断るのが難しい。
――その表情はやめてほしいなぁ。なんでも聞いてあげたくなっちゃうじゃないか。
「……みんなに聞いてみましょうか」
「……! ありがと」
彼女はそう言って、椅子に座ったまま体を上下に揺らす。可愛い。
フロンさんとディグさんが魚嫌いでない限り、葵ほどじゃないけどみんな魚好きだしなぁ。たぶん、賛成してくれるだろう。
作業中のみんなのところに出向いて、お昼ご飯と晩御飯の相談を行った。
結果として、お昼はフィッシュバーガー。夜は天ぷらにすることになった。残念ながら天つゆは用意できなかったので、塩で食べることに。これでも十分美味しいけども。
みんなで釣りをするのは午後の予定なので、お昼ご飯に使う魚は魔力の網で風情も何もなく捕獲することにした。午後の釣りのために、メノさんと一緒に別の川に移動して魚をゲット。みんなには内緒で、その場で焚火を作って一匹ずつだけ食べた。匂いで葵たちにはバレたけど。
「お兄ちゃん、紙で包んだほうが食べやすいかな?」
「おー、そうだな。使えそうな紙あるの?」
「うん! 作ってるよ!」
「フィッシュバーガーばっかりでいいんでござるよね!? 信じていいんでござるよね!?」
「大丈夫大丈夫、フロンさんとディグさんも好きって言ってたし。でも一応、飽きたときように普通のハンバーガーも作っておこうかな」
「あ、それなら私とロロさんがハンバーグを作っておきます!」
「了解、ありがと。じゃあ二人とも頼むな」
「「はい!」」
「……アキト、世界樹ジュース作っていい?」
「あはは、俺に許可とらなくてもいいですよ。メノさん好きですよね」
「……舌が肥えてしまってる、自制しないと」
そんな感じで、和気藹々と昼食の準備中である。まだ怪我の治癒が終わっていないディグさんは大人しくしてもらおうと思ったのだけど、みんなが働いている中じっとしていられなかったらしく、世界樹下にあるテーブルや椅子、ベンチなどをタオルで拭き上げていた。
俺は油の中に衣をつけた
「お兄ちゃん! そう言えばまだチーズ作ってないね! メノさん作り方知ってるかな?」
「……知ってる。今度教える」
ヒカリが俺に質問し、それに答えるよりも先にメノさんが回答する。ヒカリは「やっぱりメノさん物知りだ!」と嬉しそうにしていた。
ハンバーグ作成中のリケットさんとロロさんのところにも葵たちは遊びに行ったりして、気楽に交流している。フロンさんはというと、ヒスイと一緒に食器の準備をしてくれていた。
人数が人数だから、こちらはこちらで大変そう。まぁ毎日のことだから、少しずつ慣れていくだろう。
「……お腹空いた」
「もう少し我慢しましょうね」
人数分のジュースをサクッと作り終えたらしいメノさんが、俺の隣にやってきて揚げたてのフライを見つめる。こそっとメノさんに食べさせたいところではあるけど……あ、
「ちょっと崩れちゃって、欠片みたいなのならありますけど、食べます?」
油を切っている網の上に、十円玉サイズのフライの欠片がある。箸で持ち上げている時にちぎれてしまったものだ。
コクコクと頷いたメノさんは、ぱかっと口を開けて俺に『魚をよこせ』と暗に伝えて来る。
味付けはしなくていいのかな――とも思ったが、このポーズのまま待たせても申し訳ないので、少々恥ずかしい気持ちを感じながらも、俺は自分用の箸を使ってメノさんの口にフライの切れ端を入れた。
「…………美味しい」
『ずるい』と言いそうな葵たちが俺たちのことをニヤニヤ見てきていたけど、頑張って気付いていないふりを貫くことにした。
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