第61話 体を動かしたい葵たち
Sランク冒険者である彼らのレベルは、もっぱら裁縫仕事をしているリケットさんや、畑仕事をしつつ料理の研究をしているロロさんよりも低い。
とはいえ――とはいえだ。
リケットさんがこちらにやってきてから二か月近くでこれほどまでにレベルが上がっているのだから、当然彼らもある程度の日数を過ごせばレベルが上がるはずである。
リケットさんが来て三日ぐらいで150近くレベルが上がっていることを考えると、数値の上昇スピードが鈍化しているのは一目瞭然だけど、それでも彼らの培ってきた経験をいかせば、間引きの仕事を任せるのは決して不可能なことではないと思うのだ。
というわけで、まずはメノさんに相談である。現在この仕事を担っているのは彼女で、今回の俺の案はメノさんの仕事を奪うということに繋がるからな。
メノさんの家にやってくると、彼女は「いらっしゃい」と快く俺を家に迎え入れてくれた。
それから彼女は俺をリビングのソファに座らせて、冷蔵庫で冷やしていた紅茶をコップに注ぎ、自分の分と一緒に運んできてくれる。
「わざわざありがとうございます」
「……いい、どうしたの?」
メノさんから聞いてきてくれたので、さっそくで悪いが本題に入らせてもらうことにした。ディグさんたちに振る仕事に関して、魔物の間引きがいいのではないかと。
「……ディグたちでできるなら、やらせていい。でも二人だけに任せられるようになるまでは誰か同行者がいたほうが良いと思う」
「なるほど、じゃあヒカリたちですかね」
「……それがいい。あの二人は、十分強い」
そして同行者に関して――これはヒカリとシオンの二人にお願いすることに。彼女たちはメノさんと一緒に魔物と討伐に行ったりすることもあるし、万が一のことがあっても光の治癒魔法があるからな。
安全面はそれでいいだろうけど、島内全ての魔物を彼ら二人で毎日間引きするとなると時間が足りない。というわけで、彼らには拠点周辺を主に担当してもらい、遠くの部分を今まで通り俺やメノさんで担当することになった。
それから紅茶を飲みながら少し話したあと、あまりのんびりしすぎていても午前中が終わってしまうので、俺は「ごちそうさまでした」とお礼を言ってから席を立つ。
「じゃあ俺はディグさんたちに伝えて、了解が得られたらヒカリたちにも伝えてきます。メノさんは釣り竿づくり、お手数おかけしますがよろしくお願いしますね」
俺がそう言うと、彼女は少し考えるように眉間にしわを寄せたあと、俺の顔を見上げる。
「……私の空間収納があれば、魔鉱石集めもすぐ終わる」
「……ま、まぁそうですかね?」
そんなことはない――と心のなかで思いつつも、メノさんの言葉に同意する。
だって俺の体、一日で採掘できる魔鉱石をこねこねして一塊にする魔力もあるし、それを運んでもまったく疲れないし、倉庫までの道中はすでに石レンガで整備済みなのだ。
つまり、一人でも二人でも大して変わらない。
「……だから、私も手伝う。代わりに、釣り竿づくり手伝って」
「一人より二人で作業したほうが楽しいですしね」
「……それもほんの少しある」
メノさんは俺から視線を逸らしつつ、ぼそりと呟く。まぁせっかく同じ島で楽しく生活しているのだ。効率がどうとかそういう意図ばかりで動くというのも、ナンセンスってやつだろう。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
ディグさんたちにメノさんと話したことを伝えると、彼らは『そこまで魔素が濃かったのか!?』と二人そろって驚いていた。強い魔物がいることは知っていたし、実際に魔素酔いも体験していたけれど、そんなに急激にレベルがあがるほどに魔素が濃いとは思っていなかったらしい。まぁ、数値で示されていないからわかりづらいよな。
彼らの次は、ミルクカウとノーウィングバードのお世話をしてくれているヒカリとシオンの元へ。寸前までノーウィンバードの鳴きまねをして遊んでいた彼女たちは、俺が声を掛けると『パァっ!』という返事をしてきた。真似しなくてよろしい。
「どうだ? メノさんと一緒に魔物の間引きに行ったとき、危ないことは何もないって言ってたけど、二人を守りながらでも大丈夫そうか? たぶん、一か月ぐらいだと思うけど」
ヒカリたちに関してはメノさんが太鼓判を押していたことだし、自分の身を守ることに関しては問題ないのだろう。だけど、他の人を守りながらとなると大変だろうし。
「大丈夫だよ~。魔物はみんなゆっくりだし、血とかにも慣れたし!」
「メノ殿にも褒められているでござるよ!」
平気そう。だが、この表面上の彼女たちの様子だけで判断していいものか。
「……ちなみに、二人は動物のお世話と魔物討伐ならどっちが好き?」
生き物を殺すというのは、精神的負担も少なからずあるだろう。以前にも『本当に平気か?』と聞いたことはあるが、念のため以前とは違う聞き方で再度確認する。
「んー、体をいっぱい動かしたいから、魔物倒すほうかなぁ」
「拙者も同じでござる。動ける体があるなら、動かしたいでござる」
「そっか……でも、無理だけはするんじゃないぞ? 嫌になったら、正直に、すぐに俺に言ってくれ」
「も~、心配しすぎだってお兄ちゃん!」
「愛でござるな。抱っこしてもいいでござるよ」
「はいはい」
苦笑しながら返事をすると、まずシオンが俺に跳びついてきて、それに便乗するようにヒカリも俺にしがみついて来る。抱っこというよりは、なんだか木登りでもされているような気分だ。でもまぁ、二人が楽しそうなので良しということにしよう。
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