第60話 フロンとディグの仕事




 フロンさんとディグさんがやってきた日の翌日。

 彼らも朝食の場に誘って――葵たち五人、俺、メノさん、ルプルさん、リケットさん、ロロさん、そして新たに加わった二人に世界樹の母さんを加えて、合計十三人?での食事となった。


 シャルロットさんと同じく、七仙という立場でありながら冒険者をやっている剣帝のアルカさんは、ディグさんたちへの自己紹介がてら昨晩様子を見にやってきたが、昨日のうちに帰ってしまっている。ちゃっかり晩御飯は食べていったけども。


 アルカさんは他国の人であるためにディグさんたちのことは知らなかったようだけど、彼らにとってはそうではない。七仙だしな。予想通り、彼らはペコペコと頭を下げていた。


 ちなみにルプルさんもアルカさんと同じぐらいのタイミングで帰宅して、ディグさんたちに『よろしくなのだ!』と元気よく挨拶していた。魔王とは思えない気楽さである。


 それはいいとして。


『サボりたいのだ!』と駄々をこねるルプルさんを結界ギリギリの場所で見送ったところで、ディグさんとフロンさんの二人が俺の元へ歩いてくる。


 知っているぞ――俺はこの雰囲気を。彼らが口を開かずともこの空気感でわかってしまう。


 リケットさんとロロさんの時にも同じような状態になったことがあるからな。もう驚かないし、なんならこっちから先制攻撃を仕掛けることも可能だ。


「まだ治療中だろうが。何もさせんぞ」


「――っ!? だ、だがな旦那! ここまでしてもらって何もしないってのも」


「そうよ! 家だってもっと簡単な物かと思っていたのに、お風呂もあるし、ベッドはふかふかだし、ソファーもあって冷蔵庫まであるのよ!? それにお風呂もある!」


 お風呂を二回言ったな……それだけ嬉しかったのだろう。喜んでもらえて何よりである。あとで葵たちに『喜んでいたぞ』って伝えておこう。もちろん、魔道具を作ってくれたメノさんや、他のこまごましたことをやってくれたリケットさんとロロさんにも。


「今はとりあえず治療に専念しろって。それに、まだこの島に来たばっかりなんだから、まずは雰囲気に慣れるところからだろ……あと、正直割り振るような仕事ないし」


「ボソッと言ってるの聞こえてるからな!? 今はそりゃできないこともあるだろうが、ちゃんと回復したらなんでもやるぞ!」


「そうよ! どんな下っ端の仕事だってやるわ!」


 この島にワーカーホリックが二人加わってしまった。いったい俺にどうしろと言うんだ。


「うるせぇ! ここじゃみんなで仕事を奪い合ってんだよ! ほぼ全員ディグさんたちみたいな思考をしてるから、金も渡せないのに『仕事くれ』って言われてる状態なんだよ!」


 俺の言葉に、『そんな馬鹿な』とでも言いたげな表情を浮かべる二人。ちょうどその時、俺の後ろに駆け寄ってくるいくつかの足音が聞こえてきた。


 振り向くと、一番先頭にリケットさんがいて、その後ろにソラとヒスイ、最後尾にはメノさんが並んでいる。なんで順番待ちみたいになってるんだ。


「あの~、お二人の服を作りたいので、ちょっとサイズを測ってもいいですかね? とりあえず上下十着ずつぐらい作りますので」


「「十着!?」」


 まず一人目、リケットさん。彼女は服に関しての話だった。

 彼らも多少身の回りのものは持ってきていたらしいが、替えの服の数は少ない。そこで飢えた獣のようにリケットさんが駆け付けたということだろう。


 続いて、ソラとヒスイ。


「ゴムはもういっぱい作れたから、もうそろそろいいかなって思うんだけど、とりあえずディグさんとフロンさん用の食器とカトラリーを作ってるね」


 まずソラがそう言って、ヒスイも「あと、インテリアになりそうな置物とかも作って良い?」と口にする。小学生なんだしさ、もっと『遊びたい~』って駄々こねてもいいんだけどな……。


「お、おう。とりあえず必要最低限があれば問題ないから、午前中だけにするんだぞ? 休憩もちゃんととること。遊びとしてやるならいいけどさ」


「「は~い!」」


 二人は手を上げて元気に返事をすると、自宅に向かって走っていく。もっとのんびりしてもいいんだよ。


 そして最後にメノさん。


「すみませんお待たせして――どうしたんですか?」


「……今日アキトは何するの?」


「と、特に何も決めてないですね……午前中は洞窟辺りで魔鉱石の採掘とかしようかなと思ってましたが――あ、午後は釣りでもしようかなぁとぼんやり考えてましたけど、メノさんもやります?」


「……やる、人数分釣り竿作っておく」


 お、おぉ……それも俺がやろうと思っていたけれど、彼女も午前中暇だろうし、仕方がないか。ご満悦な様子で自宅へと帰っていくメノさんの後姿を見送り、お待たせしていたディグさんとフロンさんに目を向ける。


 二人は揃って、眉を寄せて難しそうな顔をしていた。


「……今の会話を聞いていたかわからないけど、まぁあんな感じでみんな仕事を求めてる状態なんだよ。というか、俺自身も『仕事ないかな』って探してるぐらいだ。もし家にずっと引きこもってるのが辛かったら、軽い運動がてら結界の中を自由に歩き回ってみたらどうだ?」


 あわよくば、そこで何か新たな仕事を見つけてきてくれると嬉しい。

 今までは冒険者として魔物を倒し、人々の感謝と金銭を得てきただろうからやりがいもあっただろうけど、そんな仕事がここにあるかなぁ。


 似たような仕事を割り振れたらいいのだけど――ん?


「そういえば二人って、レベルいくつなの?」


「俺は412だな」


「私は380ちょうどよ」


 おお……さすが元Sランク冒険者――でいいのだろうか? リケットさんがこの島に来る前に7レベルだったと言っていたから、かなり高い数値だとは思うんだけど……。


 ルプルさんは2500を超え、メノさんは3000を超え、聞くところによるとシャルロットさんは2000前後で、アルカさんは1000台後半。


 それだけならまだよかったんだが……リケットさんもロロさんも、ここで暮らしているだけなのに、いつの間にかレベル500を超えてるんだよなぁ。


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