第59話 いつもの流れ
フロンさんを治療したのち、ヒカリはディグさんの治療も行ってくれた。左足と右腕の治療を並行で進めるのではなく、まずは右腕だけに集中して。
ディグさん的には、片足が無くて不便なのは間違いないが、手が無いほうがもっときついらしい。腕が少しだけ再生したのを見て、フロンさんも自分のことのように喜んでいた。ディグさんは『なんか気持ち悪いな』と笑っていた。
その後、フロンさんは目が見えるようになったことだし、久しぶりにお互い目を合わせて話すこともあるだろうということで、俺たちは空気を読んで退出。思う存分甘い空気を振りまいてくださいな。
仕事に向かったルプルさんを除く七人――葵たちと、リケットさんロロさんの二人は、全員で家屋の建築に取り組んでいた。先ほどまで治療していたヒカリも当たり前のように作業に加わっている。
もう既にある程度家の形は出来上がっており、リケットさんはカーテンを家に運び込んでいて、ロロさんは魔道具の設置、葵たちはトンテンカンテンと屋根に登ったり壁に張り付いたりしながら各々頑張っているようだ。
「……どんどん建築が速くなっている気がする」
「そうよね……きっとヒカリ以外の四人も同じレベルなのよね……」
七仙の二人は、てきぱきと動く七人を見ながら引きつった笑みを浮かべてそんなことを呟く。
うんうん。俺も最初は『葵すごいな!』と誇らしげに思っていたけど、なんだか最近『葵たち、すごすぎない?』とびっくりすることが多くなってきた気がする。
彼女の原動力が『兄をサポートしたい』という物だったことを考えると、俺ももっと頑張らないといけないと思った。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
「「…………」」
出来上がった家に移ってもらうため、代表して俺が二人を「家ができたのでそちらに移りませんか?」と声を掛けに行くと、彼らは二人同時に口をぽかんと開けた。驚いてくれるのもなんだか嬉しいけど、それよりも全く同じ表情の動きをしたことが面白くて俺はクスリと笑ってしまった。
「あー、すみません。あまりに二人が同じ反応をしたもので」
「えっと、アキト様? それは何かの冗談ですか?」
フロンさんが戸惑った様子で問いかけて来る。俺は首を振ってそれを否定した。
「いえ、俺の妹を含め、この島に住むリケットさんやロロさんが頑張ってくれました。あとでみんなを紹介しますね。あと、言葉遣いは崩しても構いませんし、名前も呼び捨てしていただいて大丈夫です」
軽い調子でそう提案してみたのだけど、ものすごい勢いで首をブンブンと横に振っていた。なんとか『アキトさん』と呼んでもらうことと、言葉遣いを崩してくれることには了承をもらった。
交換条件として、俺も崩すことを要求されたけど。まぁそりゃそうか。
「俺のほうが年下だけど、本当にいいのか?」
「そりゃ旦那、メノ様が『アキトがリーダー』って言ってたじゃねぇか。そんなお人に丁寧に接されながら、こっちは雑な言葉を使ってるなんておかしいだろ?」
「そうよ。本当は神様みたいに拝みたいぐらいなのに」
「それはやめてくれ」
拝むならヒカリのほうだろう――とも思ったけど、仮にそれをヒカリに実行したとしたら彼女が困ることになりそうなので、心の中で思うだけにしておいた。
「そ、それより、本当に俺たちの家を作ってくれていたのか? まだ俺たちを受け入れるとも決まってたわけじゃないっていうのに――」
「話した後で建てたんですよ。単純な構造の家なら、三十分かからないので」
俺がそう言うと、二人は顔を見合わせて不安そうな表情を浮かべる。俺が首を傾げていることに気付いたディグさんは、慌てた様子で弁明するように口を開いた。
「――ち、違うんだアキト。俺たちは別に何かを期待していたわけじゃねぇ。そもそもこの世界樹の結界のお陰で魔物は入ってこられないんだろ? 野宿だって全然かまわねぇぐらいなんだからよ」
そう言って、ニカっと笑うディグさん。フロンさんも「本当にありがとう、ありがたく使わせてもらうわ」と笑っていた。
もしかして二人とも……この島の『三十分で建てられる家』を過小評価しているんじゃなかろうか?
「……アキト、三十分で建てたって言ってたよな?」
「前に住んでいた家より大きいし綺麗なんだけど」
ロロさんの家の隣に新たに建築した二人の家に案内すると、彼らは家を前にして棒立ちになっていた。俺はもう慣れてきちゃったけど、メノさんも最初は驚いていたもんなぁ。今もちょっと驚いているけど。
「すごいですよね。俺も手伝うことはありますけど、妹たちには敵いません」
「「……すごいなんてレベルじゃない」」
彼らが驚いている間に、建築を担当してくれた七人が、彼らの前で自己紹介をする。二人は『よ、よろしくお願いします』と上の空みたいな状態で返事をしていた。
しばらくして正気を取り戻したディグさんが、ハッとした様子で俺の肩に両手を置く。そして、真剣な表情で語り掛けてきた。
「頼む、俺はなんでもする。だからフロンに手を出すことだけは勘弁してくれ。――俺の、最愛の人なんだ」
「……何を言い出すかと思えば……そんなことしないから安心しろ」
呆れながら返答すると、ディグさんはほっとした様子で胸を撫でおろす。フロンさんは気まずそうに苦笑していた――が、急激に表情が固まる。
彼女の視線の先を確認してみると、そこにはいつの間にかメノさんが立っていた。
「……アキトはそういうこと要求しない」
「は、はい、そう信じてます」
フロンさんは体をカチコチに固めてから回答した。続いてメノさんはディグさんに目を向ける。彼は視線だけで何かを察したらしく「すみませんでしたぁ!」と土下座を決めていた。
そして最後に、メノさんの視線が俺を向く。
「し、しませんよ? 俺も彼らみたいに、一人のパートナーを大切にしたいので」
「……それがいい」
メノさんはそう言うと、満足した様子でディグさんに「立っていい」と声を掛けていた。フロンさんにも「別に怒ったわけじゃない」と伝えつつ、頭を上げるよう促す。
やっぱりメノさん、俺のこと好きなのか……?
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