第56話 いろいろ悩んで
シャルロットさんの友人であるという、フロンさんとディグさん。
彼らが来る前日に、シャルロットさんは一度島にやってきて俺たちにフロンさんたちがどういう人なのかを改めて教えてもらった。
フロンさんが女性、ディグさんが男性という基本的な情報から、Sランク冒険者という冒険者の中で最高位に位置する階級で活躍しており、二人は報酬の大小よりも、依頼者が困っていると判断した依頼を優先的に受けるような人だったとも言っていた。
その活動内容を聞いただけでも、『優しい人なんだろうな』と思うことができる。
最終確認はやはり、実際に会って話してみないとわからない。非道だと思われるかもしれないが、もしリケットさんやロロさんを不幸に導くような人であれば、怪我は治癒せずに大陸に送り返すことになるだろう。
もちろん人にはそれぞれ個性がある。だからぶつかり合うことだって当然あるし、みんなが仲良くできるとも限らない。
だけど、それと相手を認めないことは違うんじゃないかと、俺は思うわけだ。
お互いがお互いを尊重して、違うところがあってもそれを補い合うように、みんなで幸せになれたら、それが一番なんだよなぁ……。
そんなことを考えていたら、いつの間にか朝がやってきていた。
もうリケットさんたちが起きて来る時間じゃないか……自分で思っているよりも、緊張しちゃっているらしいな。
「……どうなるか」
リケットさんやロロさんとは、過ごしていた環境が違うんだよな……フロンさんとディグさんは。どちらかというと、メノさんやルプルさんに近い。
迫害された状態で育ったり、いないものとして扱われていたわけではない。リケットさんたちにとって、この島で過ごすことで自由が増えた感覚だろうけど、フロンさんたちにとっては自由を制限されるような形になるだろう。なにしろ、島からは出られないのだから。はたしてそこに馴染めるかどうか。
「……仕方ないことなんだよ。リケットさんやロロさんを守るためだ」
彼らが幸せなのか不幸なのかは俺が判断できることではないが、傷を治したいというならば、色々納得してもらわなければならない。
ベッドの上で上半身だけ体を起こし、カーテンの隙間から窓の外を見ながら呟く。
俺の視線の先ではリケットさんが灯の魔道具を持ち、ロロさんがすでに畑仕事を開始していた。身体を動かしながらも、彼女たちは二人で何かを話して笑いあっている。
フロンさんたちとも、あんな風に笑い会えたらいいなぁ。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
「……アキト、疲れてる?」
朝食を食べ終わり、みんなで食器を片付けたりしていると、メノさんが声を掛けてきた。
すると、傍にいた葵たちも俺の顔をマジマジと見てくる。
「ちょっと眠そう?」
「拙者も『最強の忍術』を考えていたらいつの間にか朝になっていることはあるでござる」
「お兄ちゃん大丈夫? シャルロットさんたちが来たら起こすよ?」
ヒカリ、シオン、アカネの順に声を掛けてきて、ソラとヒスイはすでに俺をベッドで寝かせようと袖を引っ張り始めている。
心配させてしまって申し訳ないが、ステータスのおかげか、体はまったくしんどくないんだよなぁ。たぶん、寝てないという事実が精神的負担になっているんだと思う。
シャキっとせねば。
「悪い悪い、大丈夫だから。メノさんも心配かけてすみません。ちょっと考え事していたら夜更かししちゃって」
笑ってそう言うと、ソラたちは手を引く力を弱め、メノさんからは「……無理しちゃだめ」という言葉をいただいた。すみませんでした。でも無理しているわけではないんですよ。
「……フロンとディグのこと?」
とりあえず難は逃れた、と思っていたところで、メノさんが図星を突いてくる。少し反応に詰まってしまったおかげで、メノさんにはそれが正解であると伝わってしまったらしい。
「……アキトはリーダーだけど、一人で背負う必要はない。こういうところは、ルプルを見習ったらいい。あんなのでも、王様をやってる」
「『あんなの』とはひどいのだ!」
いつから聞いていたのか、ひょっこりとルプルさんが俺の後ろから姿を現した。彼女は俺の前にやってくると、両手を腰に当て胸を張る。
「ルプルの周りには、優秀な部下たちがいっぱいいるのだ! ルプルが間違えても、注意してくれるのだ! だから安心なのだ! アキトの周りは、そうじゃないのだ?」
「…………いえ、ルプルさんの言う通りですね」
自分一人で背負おうとしすぎていたのかもしれない。自分が守らないと――そんな意識が強すぎたのかもしれない。葵や母さんに救われて、メノさんやルプルさんというすごい人たちにも支えられて、リケットさんやロロさんにも、助けられているというのに。
「もし俺が間違ったことをしたりしたら、ぶん殴ってでも止めてください」
笑いながらそう言うと、ルプルさんが「誰が止めるのだ? ルプルには無理なのだ!」と口にする。そして皆に視線を向けると、メノさんは俺から視線を逸らし、葵たちは「い、色仕掛けとか」なんて年齢にそぐわない発言を始める始末。
メノさんが顔を赤くしちゃってるから、そういう発言は止めましょうね。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
「自分はディグと言います。我々の頼みを聞き届けていただき、感謝です」
「私はフロンです。神の代行者様にお話しすることができて、光栄です」
シャルロットさんと一緒にやってきた二人を見て、俺は思わず顔をゆがめてしまった。
聞いていた通り、ディグさんには右腕の二の腕あたりから先がなく、左足は膝から下が無い。そしてフロンさんは、目を隠すように包帯をぐるぐると巻いていた。
事前に話を聞いてわかっていたつもりだけど、実際に見るとあまりにも痛々しくて苦しい気持ちになってしまったのだ。
転生者が伝えたのかは知らないが、この世界にも松葉杖はあるらしく、ディグさんはそれを使ってひょこひょこと歩いている。
ディグさんは、見た目三十代半ばぐらいだろうか。茶髪に金髪がまばらに混じっているような短髪で、顔つきはワイルドな感じ。
普段からそうしているのかは知らないが、グレーのスラックスに白のシャツ、その上にジャケットを羽織っていて、清潔感のある印象を受けた。
そしてフロンさん。彼女はシャルロットさんと同じく、耳が横に長い。栗色の長い髪の毛で、水色のワンピースを着ている。Sランク冒険者というより、お姫様って感じだなぁ。
「……お二人とも、長旅お疲れ様でした。俺はアキトです、一応、この辺りの責任者みたいな立場にいます」
そう言って、頭を軽く下げる。するとディグさんは慌てた様子で頭を下げ、コソコソとフロンさんに何かを話すと、彼女のほうも頭を下げた。気を遣わせてしまったらしい。
シャルロットから聞いた事前情報だけを判断材料にするのなら、『歓迎します』と言ってもいい。だって、『幸せになってほしい、幸せになるべきだ』と思えるから。
さて……いったい二人はどんな人なんだろうな。
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