第47話 剣帝アルカと弓姫シャルロット
七仙の会議が行われてからだいたい一週間後。
剣帝アルカさんと弓姫シャルロットさんの二人がやってくる日取りが決定し、俺はメノさんやルプルさんから色々と話を聞いていた。悪い人ではないとわかっていたとしても、やっぱりどんな人なのかは気になるし。
メノさんが二人は『魔物を倒すお仕事』をしていると言っていたが、どうやらそれは冒険者というファンタジーのノベルなどで見かけるような職種らしく、彼女たち二人は依頼を受けたり、物を納品したりすることで生計を立てているようだ。
そして来訪当日。
午前中に仕事を終わらせて、昼の一時にやってくるらしい二人を待ちながら、俺たちはいつも通り世界樹の下に集まって会話をしていた。
葵たち五人は途中から世界樹の木登りで遊びはじめ、リケットさんとロロさんは二人で「アルカ様とシャルロット様って見たことあります?」「いいえ、ありません」と七仙の話題で盛り上がっている模様。
「……言葉遣いとかはちょっと乱暴かもしれないけど、大目にみてあげて」
「いやいや、俺は若輩者ですから、別に適当に扱われても文句はいいませんよ」
この島に住む他の人が嫌がるような行為や発言は、きちんと注意するつもりだけども。でもメノさんやルプルさんから聞く限り、その心配はなさそうでよかった。
「アルとシャルにルプルのスケボー技術を披露するのが楽しみなのだ!」
そして本日は、ルプルさんもいる。
いつもなら仕事でいない時間だけど、今日はワルサーさんを説得してこの島に居残っている。昨日は金曜日の学生や社会人のように『夜更かしするぞ!』と張り切っていた。日付が変わるころには寝ちゃったみたいだけども。
「……私のほうがうまい。ねぇアキト」
「メノは空中でボードをくるくる回すのが苦手なのだ」
「……ルプルは宙返り苦手」
バチバチと二人の間に火花が散っている様子が見える。もちろん幻視だけども。
喧嘩するほど仲がいいということなのだろうけど、もうすぐアルカさんとシャルロットさんが来るんだからやめましょうね。とりあえず、二人の矛先が俺に向くように話を転換してみるとするか。
「二人とも少なくとも俺よりはうまいですよね。スケボー、気に入ったようでよかったです」
「アキトはへたっぴなのだ!」
「……今度一緒に練習しよ」
「それがいいのだ!」
だって二人ほど俺はスケボーに触れてないんですもの。
ステータスや身体操作スキルのおかげで俺もある程度のことはできるけど、さっき彼女たちが言っていた『ボードをくるくる回す』とか『宙返り』とか、十回転以上だからな? 普通じゃないんだよ。おかしいんだよ。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
「お初お目にかかりゃんせ、アキト様」
「ご尊顔は恐悦、アキト様」
「…………? あ、ハイ。ご丁寧?にどうも……アキトです」
これは、翻訳のバグなのか? 丁寧に挨拶されているんだよな? これ。
困惑しながらメノさんに目を向けると、額に手を当ててうなっていた。ルプルさんはげらげらと笑っている。
「……無理に丁寧な言葉を使おうとして誤用してる」
「あ、なるほど」
どうやら俺の頭や耳がおかしくなったわけではなさそう。
翻訳さんも『こ、これはどうしたらええんや……!』って困っただろうなぁ。プログラムが延々とエラー吐き出してそう。
「あの、ひとまず立っていただけませんか? 俺はそんな風にかしこまって対応しなければいけないような人間ではありませんので――口調も普段通りで構いません」
彼女たちは俺の前にまでやってきた途端、片膝を突いて胸に手を当て頭を下げたのだ。おそらく敬意を払ってくれているのだろうけど、俺は別に大層な人間ではない。
「そう言ってくれると助かる。私はアルカ、剣帝と呼ばれることもある」
まず、金髪ロングの女性――アルカさんがガチャガチャと音をたてながら立ち上がり、自己紹介をしてくれた。『お目にかかりゃんせ』のほうだ。
腕、胸、腰、そして足を銀色の鎧で包んでいるけれど、お腹だったり鎖骨だったり太ももだったり――わりと肌色の見えるような装備を身に着けている。
キリっとした精悍な顔つきで、とてもまじめな印象を受ける人だ。俺の第一印象は――委員長みたいな雰囲気――と言いたいところだけど、『スイカ? メロン?』と考えてしまいそうな胸元が、一番印象に残った。
たぶん俺が男とかそういうのを抜きにしても、誰だって自然と視線を奪われると思うんだ。大きいんだもの。
そして次に、シャルロットさん。『ご尊顔は恐悦』のほう。
「私はシャルロットよ。よろしくね、島の主さん。メノお姉ちゃんとルプルお姉ちゃんから話は聞いているわ」
黄緑色のツインテールに、横にとがった耳――精霊族ということになっているらしいが、やはり俺としては『エルフ』と言ってくれたほうがわかりやすい。
アルカさんが百七十センチぐらいの身長なのに対し、シャルロットさんのほうはメノさんやルプルさんと一緒ぐらい。百五十台前半といったところか。
民族衣装と聖職者の服を足して二で割ったような服装をしている。白を基調として、緑色と金色がちりばめられているような感じだ。
「さっそくだけど、世界樹の精霊様に挨拶してもいいかしら? 私たち精霊族にとっては、本当に神様みたいな存在なの」
「そ、そうなんですね……中身うちの母さんなんですけど、大丈夫ですか?」
「それもメノお姉ちゃんから聞いてる。だから血縁であるアキトにも葵にも、いくら年下であったとしても私たち精霊族は頭が上がらないわ」
今の五十嵐家に血のつながりがあるかどうかはわからないけど……まぁ細かいことは気にしなくてもいいか。
続けてシャルロットさんは俺に対し「だからエッチなお願いとかも、聞いちゃうかもね」なんてウインクしながら冗談交じりに言ったのだけど、零コンマ一秒後にはメノさんにお尻を蹴りとばされて、文字通り吹っ飛んでいった。
メノさんに下ネタ系はNGだったのかもしれない。俺も気を付けよう。
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