第46話 海岸にて
ちょっと海まで行ってくるよ――そう伝言を残して拠点から離れようとしたところ、リケットさんとロロさん以外の全員がついて来た。別に遊びに行くわけではないのだが、たぶんみんな、理由はわかっているのだろう。リケットさんは俺が出かける前に、『お花を摘むのでちょっと待ってください!』なんて言っていたし。
葵たちも個々人では『誰かが暴れるのではないか』と危惧したのか、目的地にたどり着いたころには合体状態になっていた。本当はリケットさんやロロさん――特にリケットさんは来たかっただろうけど、まだ魔素酔い的に辛いと思うので、我慢してもらった。
「ここも華やかになりましたね」
「……少しでも、安らかに眠ってくれたらいい」
俺たちがやってきたのは――リケットさんが流れ着くかもしれなかった場所――そのすぐそばにある丘の上だ。崖から下を見下ろすと綺麗な砂浜が広がっているけれど、最初は小舟の残骸などが散らばっていたり、人骨などがあったりしたらしい。
だけどそれは、俺の知らぬ間にメノさんが対応してくれていたようだ。そしてこの丘に、彼女は墓を作って骨を埋めてくれている。
それだけではなく石碑を作り、メノさんが死後の幸せを願う言葉を掘ってくれていた。
「お兄ちゃん、先に綺麗にしちゃうね」
「おう、よろしく」
葵に返事をすると、彼女は水魔法で石碑周辺に生えている花に水をやり、それから石碑自体を綺麗にしていく。この花は俺たちが植えたもので、魔素の影響ですぐに育って綺麗な花を咲かせ続けている。
俺とメノさんは周りに生えている雑草をぶちぶちと引き抜いてから、最後にリケットさんが用意してくれた花を添えて、みんなで手を組んで祈る。
生贄となった子たちが来世では幸せな未来を掴めますように――助けられなくて、ごめん。
「……アキト」
祈りが終わると、隣で同じように祈っていたメノさんが声を掛けてきた。
「どうしました?」と問いかけると、彼女は言いづらそうにしながら、お墓に目を向ける。
「……世界樹の果実を、お供えしてもいい? きっと、みんな喜ぶと思うから」
「そりゃもちろんいいに決まってますよ。すみません――てっきり食べ物をお供えする習慣はないのかなって思っちゃってました。母さんも、きっと『そうしろ』って言うと思います」
「……そう、よかった」
メノさんは穏やかな笑顔を見せると、空間収納から世界樹の果実と木で作ったお皿を取り出す。お墓の前に置こうとしたところで、ぎこちない動きで俺がいるほうを振り返った。
「……こ、これはお供え用にとっておいただけで、自分のおやつ用とかじゃないから」
「それを言わなければなんとも思わなかったんですけど、もしかして誤魔化そうとしてません?」
「してない」
別におやつ用に確保していたって誰も怒らないだろうに――食い意地が張っていると思われたくなかったのだろうか。リケットさんにもロロさんにも、大量にあるから好きなように食べていいとは言っているんだけどなぁ。
「前にも言いましたけど、母さんの世界樹の果実も食べきれないぐらい実っているんですから、外に持ち出さなければ好きなように食べていいんですからね?」
「……それはわかってるけど、なんだか隠してたみたいでやだった」
むすっとした表情でメノさんが言う。ちらりと葵のほうを見てみると、口に手をあててニマニマとした表情で俺たちのことを見ていた。いちゃいちゃしてるとでも思ってそうだなぁ。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
お墓参りを終え、海沿いで少しだけ遊んでから帰ってくると、仕事から帰ってきたらしいルプルさんがリケットさんたちと話していた。彼女は俺たちを見つけると、ずんずんと歩み寄ってきて「ルプルも海に行きたかったのだ!」と不満をぶつけてきた。
「遊びに行ったわけじゃなくて、お墓にお供え物をしてきたんですよ」
「でも絶対遊んできたのだ! 海の匂いが染みついてるのだ!」
……バレてら。葵はスライム体なので、服や髪に匂いが付いたりはしないだろうけど、微かに残っていたらしい。しかも俺とメノさんは、普通に海で水をかけあってきゃっきゃと遊んでいたりしたからなぁ。
今度リケットさんに、水着を作ってもらうようお願いしようかな……メノさんの水着姿、見たいんだもの。この世界では水着らしい水着というものはないようだけど、葵たちに頼めば形にしてくれるはず。お兄ちゃんの欲望を妹に説明するのは非常にやりづらいけども。
「今度ルプルさんがお休みのときに一緒にお墓参りに行きましょうか。それと、リケットさんやロロさんも、もう少しこの島で過ごしたら、魔素酔いしないぐらいにレベルが上がりそうですし、そうなったらみんなで遊べますね」
魔素酔いを気にしなくていいぐらいに成長するにはあと数か月はかかりそうだけど、結界のすぐそばで魔物を倒し、その付近にリケットさんやロロさんがいてくれたら、レベルの上がり方もはやくなるだろう。
別に、早くメノさんの水着が見たいとかそういうわけではないですよ。夏が近いからそれに間に合わせたい――とかも考えてないですよ?
だってほら、リケットさんもロロさんも、お墓参りに行きたがっていたし、結界の外でも活動できたほうがいいと思うんですよね。俺は。
「……たぶん魔素酔いしないぐらいに成長するよりも、今のペースなら夏前には結界が海まで届く」
ぼそっとメノさんが俺に助け舟を出してくれる。なるほど、その可能性を忘れていた。
たぶん彼女は俺の頭の中に自分のビキニ姿が写っているとかは夢にも思っていないんだろうなぁ。妄想してすみません。
葵には、恥を捨てて可愛い水着を依頼しておくことにしよう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます