第45話 リケット&ロロ
メノさんとルプルさんの二人は、元々周囲の環境により委縮してしまうようなことはない。なにしろ彼女たちは、世界の頂点に君臨する七人のうちの一人だ。
メノさんは『俺がリーダー』、そしてルプルさんは『強者には逆らわない』といったスタンスでいるようだけど、それでも俺や葵たちに対して妙にかしこまったりはしない。
しかし、リケットさんやロロさんはそうではない。
片や生まれた時から迫害されていたような環境であり、もう片方は伯爵令嬢とはいえ、家族から空気のように扱われた上に、死刑の一歩手前までやってきていた。
だから俺としても、二人の精神状態には特に気を遣っている。
もともとこの島は、彼女たちのような人が幸せに、そして充実した日々を送るために開拓しているのだ。神様からのお願いは破棄されているとはいえ、俺の心が――未練が『彼女たちを幸せにしたい』と訴えている。
まぁ、その心配も最近はあまりしなくなってきてはいるんだけども。
「いくら閉鎖的な島にいるとはいえ、この環境は自慢したくなりますよね」
「わかります! 私、別に何か取り柄があるわけでもないのに、こんなに恵まれた環境にいていいのか、今でも不安になりますもん!」
「リケットさんは裁縫ができるじゃないですか。それに比べて私は……」
「畑仕事も立派なお仕事ですよ! あ、あと……私は違いますが、ここにいる皆さんは少々特殊なので、比較はできないかと」
夕方の四時ごろ――メノさんから色々話を聞いたあと、一度家に帰って水分補給。それからぶらぶらと公園に歩いて行ってみたら、ベンチに座った二人がそんな会話をしていた。
決して盗み聞きをしようとしたわけじゃないけど、彼女たちは話に集中していたようで、俺の足音に気付かなかったらしい。
公園では、葵たち五人がそれぞれ遊んでおり、俺より一足先に公園にやってきていたメノさんもスケボーで遊んでいる。
ちなみに、あれは三代目のスケボーだ。以前と比べてかなり頑丈になっているし、メノさんも加減をしっかり覚えたようなので、もう壊れるようなことはないだろう。
「今日もお疲れ様。二人ともいつも頑張ってくれてありがとな」
彼女たちの正面まで歩いていったところで、俺は二人にそう声を掛けた。
前まではそんな風に声を掛けたら慌てて立ち上がって頭を下げられていたけれど、何度も『座ったままでいいから』と言い続けた結果、彼女たちはそのままの状態でいてくれるようになった。
「疲れるほど働いてないですよ~。なので、できる仕事があったらどんどん私に割り振ってください!」
「ちょ、リケットさん! 次は私にお仕事くれるって約束したじゃないですか!」
「あれ? そうでしたっけ?」
あかん。まじで二人がワーカーホリックにしか見えない。どんだけ仕事がしたいんだよ君たち。
「そもそもリケットさんは布製品全般を手掛けてますから、衣服だけじゃなくてマットやカーテン、ハンカチやタオル、やれることがいっぱいあるじゃないですか! 最近は紙づくりやゴムの生産もしてますけど……主な仕事が畑仕事の私は作業するのも限度があるんです!」
「えへへ……だ、大丈夫です! 次はロロさんに譲りますから!」
「もう、絶対ですよ?」
二人も仲良くなっているようで何よりである。仕事の奪い合いをしてるのがちょっと気になるけども。
「もっとのんびりしてもいいと思うんだけどなぁ~。やっぱり暇かな?」
ワーカーホリックとは言ったものの、彼女たちが感じているのはニートが感じる危機感のようなものなのかもしれない。そう考えたら、彼女たちが仕事を欲するのも頷けるのだけど――全く仕事をしていないわけじゃないし、最近では彼女たちがこの島で一番働いていると言っても過言じゃないと思うからなぁ。
「暇というよりも、申し訳ないというか」
「私もロロさんと同じ気持ちですかね」
二人は顔を見合わせながら、そんな風に言う。
「なんとかその考えは捨てて欲しいんだけどな……。二人に毎日楽しく暮らしてもらいたいと思っているけど、結局二人に助けられてるようなもんだしさ。もっと堂々としていいんだぞ。なんて言ったって、二人は大事な衣食住の一つをそれぞれ担ってるんだから」
彼女たちがいなくても、普通に暮らすことはできただろう。しかし、ここまで充実した環境にはなっていなかったと思うし、俺や葵、メノさんやルプルさんも、働く量が格段に増えていたと思う。
本当に、二人には感謝しているのだ。二人というか、この島の住人全員に感謝しているのだけど。
「アキトさんは、もっと自分のことを評価するべきだと思います!」
リケットさんがビシっと手を上げて、そう発言する。ロロさんも隣でコクコクと頷いていた。
「神様もらった力のおかげ――というのはもう百回ぐらい聞きましたけど、アキトさんが『辛い思いをしてきた人を救いたい』なんて、聖人のような考えを持っていなければ、葵ちゃんたちもお母さまもこちらの世界には来ていなかったと思います。だから今私の命があるのも、こんな風に貴族様もびっくりするような環境で自由に暮らせるのも、元をたどればアキトさんのおかげなんです!」
そんな風に力説するリケットさんに続き、ロロさんも口を開いた。
「私もパーティなどで豪華な食事をそれなりに食べたことはありますが、この島の食事と比べるとどれも劣ります。しかも毎日のように伝説の果実を食べたり飲んだりしているおかげで、病気の心配もまったくありません。私をひどく扱うような人もいなければ、政略結婚の心配も不要――自分が生きたいように、そしてやりたいことをここまで自由にできるのは、この島以上の場所はありません」
彼女も彼女で、別方向から『満足してます!』と熱が入った言葉を吐く。
ここまで言われたら、ちょうど俺が二人に聞こうとしていたことが聞きづらいんだけど……いちおう聞いてみようか。ダメで元々ということで。
「そんな風に言ってくれてとても嬉しいんだけど……なにか現状で不満なこととかない? 色々やりつくしちゃって、次に何しようか考えてたんだけど」
「「もう十分すぎます!」」
この二人ならそう答えちゃうよねぇ。
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