第40話 娯楽づくり
ロロさんへのサポートはリケットさんに任せることにして、俺はメノさんと共にロロさんの家に置く冷蔵庫を作ったあと、遊び道具の制作に取り掛かった。
公園は作ったけれど、雨が降ったときとかはやりづらいし、室内で遊べるものがあればいいなと思ったからだ。
メノさんはヒカリとシオンと一緒に魔物の間引きに向かったし、ソラとヒスイは採取したゴムの樹液を使って色々作業している模様。
アカネは服の制作をしているし、ロロさんは畑を耕し中で、リケットさんはその両方を交互にやっている感じのようだ。
ロロさんは家族から冷たい対応をされていたとはいえ、貴族の家で育っている。だから畑仕事って大丈夫なのだろうかと思ったけれど、案外平気そうだった。
平民であるリケットさんにやり方を教わることに関しても、忌避感はないらしい。
そして残された俺は当然ぼっちである。もともと一人には慣れているから、平気なんですけどね。
「何がいいかなぁ」
作業部屋に置かれた大きなテーブルを前に、肘を突きながら頭を働かせる。
室内の遊びといって真っ先に思い浮かぶのはやはりトランプ。サプラの粘液を白く着色して固めればプラスチックっぽいものも作れそうだが、そうすると俺の書いた文字がめちゃくちゃ浮いちゃう気がするんだよなぁ……やっぱり、木札でいいか。手書きということもあって温かみのある感じがするしね! いいよね!
というわけで、作成に取り掛かる。
まず手ごろなサイズの木材を持ってきて、それを魔力の剣で薄くカットしトランプサイズに――と思ったけど、このままでは木目のせいで強度に難がありそうだった。すぐにパキっと割れてしまいそう。
木目が互い違いになるように貼り付ければ強度は出そうだけど……そのぶん分厚くなっちゃうからなぁ。
「『助けてメノさん』と言いたいところだけど――今は間引きに行ってるしな……サプラが使えるかぁ?」
魔力を流すと固くなる性質があるし、紙を作る時に薄くして混ぜれば強度が増す便利素材である。たぶん、紙に混ざっているときは細かいガラス繊維みたいになっているんだろうなぁ。
というわけで、外に出てサプラを探していたのだけど、作業をしていたソラとヒスイの二人が俺の動きに気付いてサプラを持ってきてくれた。頼りないお兄ちゃんでごめんよ。ありがとう。
魔鉱石でつくった桶の中に、ソラたちが持ってきてくれたサプラをカットして、透明の粘液をどろどろと流しいれる。少し水で薄めてから、そこに作った木札を沈めて、少し時間を置いてから取り出した。直接粘液に触れたら俺の手まで固まってしまうだろうから、木材を箸替わりにしておく。
「――よし、ちょっとは染みこんだか?」
ニスを塗ったようにテカテカしていたので、家の周りに生えていた雑草で拭き上げる。そして魔力を軽く流し込むと、想定通りに木板が硬化した。ただ、ある程度力を入れるとパキっと割れてしまうので、そこまで頑丈という訳じゃない。
まぁトランプにそこまで強度は求めていないし、これだけ固ければ遊ぶには十分だろう。
そして三十分後――ジョーカーを含めて五十四枚の木札を作り終え、さて数字を記入していこうというところで失敗に気付いた。
黒鉛や木炭のように、鉛筆代わりになる石材は見つけていたのだけど、サプラの粘液をしみ込ませた木材には色が付かなかったのだ。ガラスの上に鉛筆を走らせているような感覚である。
そして粘液投入前の木材には書くことができたけど、書いたものを粘液に投入したら滲んでしまう。困った。
「……紙を木材に張り付けるって手もあるか」
もしくは多少分厚くなることを覚悟して、二枚張り合わせたものを使うか。
「裏面だけ塗ったらだめかな?」
文字を書いた表にはサプラの粘液を塗らず、裏だけに塗布して魔力を流す。できたのはできたのだけど、なんだか急に木のささくれが手に刺さったりしないかが気になりだした。
やっぱりサプラの粘液で覆ったものにしたい。怪我をするような遊具はよくない。この島にいる人には刺さりそうにないけども。ロロさんもたぶん、レベルが上がってるんだろうし。
「何かいい案は無いかな……」
腕組みをしてテーブルの上に散らばった木材たちを眺めていると、玄関扉が開く音が聞こえてきた。トタトタという軽い足音だから、葵たちの誰かかな?
「お兄ちゃーん、お洋服の前にタオルを作ろうと思うんだけど、どっちを優先したらいい?」
やってきたのはアカネだった。
こちらにやってきたばかりの頃は自然乾燥――数日経ってメノさんから『捨てる予定だった』と支給された新品のタオルをありがたく使わせてもらっていたのだけど、メノさんもあまり与えすぎるのは良くないと思っているのかタオルは各自一枚ずつだ。
「できるならそりゃありがたいけど……タオルの作り方なんてわかるの? あれってわっかになった糸がいっぱいついてるみたいな感じだよな?」
たしかパイルとかいう名前だった気がする。あっているかは知らん。
「ルプルさんから教えてもらってるから大丈夫!」
葵、今は人格が分裂しているとはいえ、活躍が凄まじすぎない? 葵がいなかったらいったいどうなってたんだ俺の生活。
「そ、そっか――じゃあルプルさんとメノさんは自前の服があるだろうから、リケットさんとロロさん用の替えの服ができたら、タオルをよろしく頼む。ちゃんと休むんだぞ?」
「はーい! お兄ちゃんも頑張り過ぎちゃだめだからね!」
花のような笑顔を咲かせて、アカネが俺に手を振って去って行く。俺も手を振って彼女を見送った。
生活に役に立つものをてきぱきと作っているアカネと比べて、俺は娯楽品を作るのに苦戦――申し訳ねぇ。せめて昼食は美味しいものを俺が準備したいところ。
「――あ」
アカネの赤い髪の毛を見て閃いた。焼き印で文字を書けば、サプラに漬け込んでも滲まないんじゃないだろうか?
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