第41話 みんな働きたい
家の外で焚火を作り、魔鉱石を熱して木の板にジュ。
この魔鉱石で作った焼きごての良い点は、魔力を流し込めば形状が変えられるので、ひとつひとつ別々のものを作る必要がないことだ。
そして、かなり熱いはずの魔鉱石だが、普通に手で持てた。鉄板として利用したときに熱伝導率がどんなものかは確認済みなのだけど、火傷する気配など微塵もない。いちおう、熱いなぁとは思うんですけどね。おかしな体だなぁ(遠い目)。
そんな風に作業をしていると、外出中のメノさん、シオン、ヒカリ、そしてルプルさん以外のメンバーは俺の作業を見学に来ていた。地球出身の葵たちはもちろん、リケットさんやロロさんもトランプのことは知っていた。
でも、リケットさんたちに関しては遊んだことはないらしいので、作ってよかったと思えた。そもそもトランプって遊びの種類は大量にあるからな、偉大な発明だ。
絵柄まで焼き付けることは諦めたので、数字とマークだけを付けてトランプは完成。みんな遊んでくれたらいいなぁと思っていると、気が付けば四セット作っていた。
そして作るのが比較的簡単なリバーシをパパっと作り、何を血迷ったのか、麻雀牌まで作ってしまった。この魔鉱石製のやきごてで他に何が作れるのかなぁと考えたとき、真っ先に思いついたのが麻雀だったのだ。
牌が全て完成したころに、『将棋があるじゃん』と真顔になってしまったのはここだけの話。せっかくだから二セット作っちゃったよ。
でも、リケットさんとロロさんに聞いてみたところ、将棋は知られているが麻雀は見たことがないらしい。新たな遊びを普及できてよかったよかった。
葵たちもルールを教えてとせがんできたし、やる気満々である。でもごめんな葵。役は大体わかるけど、点数計算まではできないんだ。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
「お兄ちゃんお兄ちゃん」
お昼前になって、何を作ろうかと考えていたところ、ヒスイが声を掛けてきた。彼女は何やら果物の入った瓶を胸に抱えており、背後にはソラが隠れている模様。
「あのね、世界樹の果実って病気とか治すでしょ? 菌とかはどういう扱いなんだろうって思ってできるかわからなかったから言ってなかったけど、酵母できた」
そう言って、ヒスイが俺に瓶を見せてくる。おそらくサプラでつくったであろうガラス瓶?サプラ瓶?の中には、皮をむいてカットされた果実が黄金色の水につかっている。
「これをパン生地に混ぜたら、ふっくらするパンが作れる」
「お、おぉ……それは葵知識? 神様知識? それともメノさん知識?」
「メノさんが教えてくれた。メノさんってすごく物知りだよね」
どうやら情報源はメノさんらしい。本当に彼女はなんでも知っているなぁ。これが年の功――なんて言ったら機嫌を損ねそうなので、黙っておくことに。
酵母ができたことはわかったけど、どうしてソラはヒスイの後ろに隠れているのだろう? 俺が後ろをのぞきこもうとしたところで、ソラのほうから姿を現した。
彼女が持つ木のトレーの上には、クリーム色の大きな丸い物体が乗せてあった。
「そして発酵を済ませたパンがこちらです」
「……俺の出る幕はなかった」
せめて昼食づくりは頑張ろうって思っていたのに、すでに手をまわされてしまっていた。働きたがりが多すぎる件。
ありがたいことはたしかなので、二人に「ありがとう」とお礼を言ってから「どうやって焼くつもりなの?」と聞いてみた。
「「一緒にパン窯作ろう!」」
どうやら、そういうことらしい。俺のためにも仕事を残してくれていたようだ。
酵母の作り方は知らないけど、パン窯なら俺でもわかるぞ――外観だけ。
とりあえず耐火レンガっぽいものが必要であるという知識はあるのだけど、地面に敷き詰めているこの石じゃまずいのだろうか? 割れちゃうかな?
ソラとヒスイはどう思う? わからないー。
そんな会話をしていたら、リケットさん、ロロさん、アカネの三人がなんだなんだとやってきて、さらにシオン、ヒカリ、メノさんの三人も間引きの仕事から帰ってきた。
というわけで、メノさんの知識を頼りにみんなで協力して窯を作り、その勢いでパンも焼いた。
ちなみに、メノさんはコソコソと空間収納から本を取り出して読んでいた。
もしかしたらメノさん、元からパン作りの知識を持っていたわけではなく、俺たちのために勉強してくれているのでは……? そんな疑問がふとよぎったけど、どちらにせよ俺たちにバレたくないだろうから、見て見ぬふりをすることに。
今度コソッと『こういう本って持ってませんか?』と聞いて彼女の負担を和らげるができたらいいなと思う。文字が読めるのかは知らん。その時は文字の勉強からだな……。
世界樹の下あるテーブルを九人で囲み、丸太に腰を下ろす。テーブルの上にはパンが一人一つずつと、ミルクの入ったコップが人数分置いてある。みんなで準備した。
食べてみた感想だが、うん、普通に美味しい。
素材もたぶん良いのだろうけど、俺としては出来立てだから――ってのが大きかったと思う。俺以外のみんなもとても美味しそうに食べていた。
「あの! 明日から私がパンを作りますよ! ソラちゃんヒスイちゃん、あとで詳しい作り方を教えてくれる?」
みんなが食べ終わったところで、リケットさんがそんなことを言いだした。
「リケットさん、畑にお掃除に糸、布、お洋服、今はロロさんに色々教えたりもしてくれてるんでしょ? お仕事増やし過ぎだよ? 私とヒスイちゃんがやるから大丈夫」
リケットさんの意見に、すかさずソラが反論する。
いやいや、キミたちも十分すぎるぐらい働いているだろうに。どう考えてもまともな職についていない俺がやるべきだろ。
「ソラもヒスイもいっぱい働いてくれてるからこれ以上はダメ。だから俺が――「あのっ」――ロロさん?」
俺の喋っている最中に、ロロさんが立ち上がって声を上げた。そして、勢いよく頭を下げる。
「お願いします! リケットさんに畑仕事を教えてもらっていますが、この島の魔素と結界のおかげでほとんど手間がかからないんです! どうか、私にその役目をいただけませんか!?」
頭を下げた状態で、ロロさんは大きな声で懇願する。
なんと答えるべきなのか――そう考えながら目線を動かすと、メノさんと目があった。
「……それでいいんじゃない? 前にも言ったけど、与えるだけじゃダメだから」
「じゃあメノさんも俺たちに与えすぎですから、お返し考えておきますね」
「……いらない、私のは暇つぶしだから」
メノさんの目線がふらふらとさまよい始めた。誤魔化しのサインがわかりやすすぎるなぁ……そういうところも、可愛いなと思えるのだけども。
七百歳相手に『可愛い』は失礼なのだろうか。
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