第37話 寿命のある人と
ルプルさんが連れて来る人は伯爵家の娘さんということだけど、そこで変に忖度するつもりはない。なにしろこの島には大賢者と呼ばれているメノさんや、大陸の王であるルプルさんが生活しているのだ。
しかも『七仙』として世界的に有名らしい彼女たちの生活環境は、家の大きさの違いは多少あるけども、基本的に俺やリケットさんと大差ない。
この島はこの島なりの生活があるということで、理解してほしいところである。
元々は生贄の子に第二の生活環境を与えるための島って感じだからなぁ。できるだけ良い環境を提供したいと思うけれど、わがままばかり言われても困るし――っと、いかんいかん。先入観で考えすぎた。
彼女の性格はさておき、話を聞いた感じ元の家では冷遇されていたようだから、少なくとも人間関係的には改善するのではないかと思う。
「……速すぎ」
「俺もびっくりです。葵たち、もう建築のプロですね」
俺は魔鉱石で、そしてメノさんは魔道具で家づくりを手伝ったけれど、基本的には葵たちの独擅場だ。元が一人の人間ということもあって、連携の練度が高すぎる。
今回は資材もあり、場所もあり、経験もありということで、一時間もかからずに建築を終えてしまった。風呂とトイレと作業スペースや客室などを付けた、リケットさんと同様の建物。まぁタダでもらえると思えばいいんじゃないかな。
葵たちは現在サプラ製の窓ガラスを取り付けている最中で、リケットさんは部屋の中をお掃除中。俺とメノさんの出番は無くなってしまった。
「でも、メノさん的には良かったんですか? あまり人がいるところで暮らしたくないのかなって思ってましたけど」
彼女は元の大陸に住んでいた時も、人里離れたところで生活していたと言っていた。彼女の『七仙』という立場や、別れが悲しいという気持ちを考えれば無理もないことだと思うけど。
「……ここは、身分とかを考えなくていいから楽。アキトやアオイたちのほうがずっとすごいから」
別に俺は神様に力を与えられただけで、すごいことは何もしてないんですがね。それよりも、長年にわたってこの島の魔物を駆除し続けてきたメノさんのほうが、ずっと敬われるべき人だと思うし。
「リケットのことは……まだわからない。でも、一緒に悲しんでくれる人がいるってだけで、少し気持ちが楽」
リケットさんは俺たちの中で唯一、不老ではないからなぁ。俺たちが不慮の事故で亡くならない限り、寿命で彼女の最期を看取ることになってしまう。
「あまり先のことは考えたくないですね――ですが、きっとリケットさんもメノさんと仲良くなりたいと思っていますよ。別れは辛いものですけど、別れのない出会いなんてありませんから」
「……アキトたちと別れるつもりはない」
「俺たちが例外なだけですから」
「……むぅ」
俺は母さんと葵の別れぐらいしか経験していないが、それだけでも十分すぎるぐらいに辛かった。それこそ、第二の人生を犠牲にすれば二人の幸せを担保できると聞けば、飛びついてしまうぐらいに。
しかしメノさんが経験した別れの数は、俺なんかの比ではないのだろう。
だから、あまり知った風な口は聞けないのだけど。
「いままでも他の七仙の方々がいたと思いますけど、これからは俺や葵、母さんもいます。その分悲しみは和らぐんじゃないかなと思いますよ」
俺がそう言うと、メノさんは少し考えるように新しくできた家を見つめてから、コクリと頷いた。
「……わかった。でも、アキトは私から離れたらダメ」
「あははっ、俺はこの島に束縛されているようなものですから、メノさんがどこかにいっちゃわない限りずっと一緒ですよ」
「……ならいい」
ぽつりと返事をしたメノさんは、空間収納から掃除用の箒を取り出して、テコテコと新築の家に向かって歩いて行く。どうやらリケットさんと一緒に掃除をするようだ。
すると、家の中から『大賢者であるメノさんにそんなことさせられません!』という大きな声が聞こえてきたけど、メノさんは俺の元に帰ってこなかったので、たぶん無事に交流することができたのだろう。
俺はみんなのために、世界樹の果実ジュースでも作っておこうかな。
「なんで自分の分作ってないの。お兄ちゃんのバカ、バカ、バカ」
「忘れてました。すみません」
「アキトさんはもっと自分のことを考えてくださいって、私言いましたよね」
「はい、注意された記憶がございます」
「……私の分あげる」
「ごめんなさいごめんなさい! ちゃんと自分の分も作るんでメノさんも飲んでください!」
またやらかした。
ナチュラルに自分を数に加えておらず、『葵たちが五人でリケットさんとメノさんの二人で七つだな、よし!』といった感じで世界樹の果実ジュースを作ったのだけど、仕事を完了させたみんなに振舞ったところで総攻撃をくらっていた。
「で、でもさ、言い訳をさせてもらうと、俺は絞ったあとの果実を少し食べたし――」
「「「「「私たちも食べたもん!」」」」」
「はいそうですよね、すみませんでした」
言い訳、不発!
結局、みんなは俺がもう一つのジュースを作るまで待っていてくれたので、次からは本当に気を付けようと思ったという話でした。
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