第36話 住人が増えるらしい




 メノさんに教えてもらいながら作った魔道具は、せっかくなので自分の部屋で使うことにした。大きいから場所をとってしまうし、実際に使うかはわからないけど、記念品ということで。


 それから俺とメノさんは、各家庭用の冷蔵庫づくりに着手した。ルプルさんが氷の魔法を使うと言っていたからある程度予想はしていたけれど、やはりそういった魔道具があるらしい。メノさんには魔道具を作ってもらい、俺は魔鉱石と木材を使ってガワの制作を行った。


「わ、私の家にまで……! れ、冷蔵庫ですよ!? お金持ちの人しかこんなの持ってないらしいですよ!?」


 出来上がったうちの一つをリケットさんの家に運び入れようとしたところ、彼女は慌てた様子でそう言った。魔道具自体高級品だろうし、冷蔵庫ともなるとそりゃお高いのだろう。


 メノさんは『私とアキトが作るからタダ』と言って教えてくれなかったけど、たぶん一般家庭では買えないような値段なのだと思う。もしくは、販売すら許可されていない可能性もあるかな。


「俺だってお金持ちじゃないけど」


 むしろ一文無しだが。


「で、でも……」


「この世界の裕福な人がどんな生活をしてるとか知らないけどさ、ここではこれが普通ってことで」


 そのために、俺はこの島に隔離されているのだし。ここでは何をやってもいいですよってことだと勝手に解釈している。


 リケットさんは俺の言い分に「えぇ……」と納得いっていないような声を漏らし、俺が彼女の家のキッチン付近に冷蔵庫を設置する様を呆然と見守っていた。


 ミルクが今日から飲めるんだし、冷蔵庫はあったほうがいいでしょうよ。



 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆



 その日の夜の七時頃、ルプルさんは職場から島に帰ってくるなり、挨拶もすっとばして俺に「お願いがあるのだ!」土下座をきめてきた。


 ちょうど世界樹の近くにみんなで集まっていたから、全員の視線がルプルさんに集まる。


「どうしたんですか?」


 彼女が俺に頭を下げるのはこの数日でも何度も見たから、なんだか土下座の誠意のレベルが下がってしまっている気がする。彼女なら『もう一つだけ世界樹の果実が食べたいのだ!』なんて理由でも土下座しそうだし。


 ただ、今回は頭を下げる価値のある内容だったと思う。少なくも、俺が彼女の立場なら同じことをするかもしれないと思ったからだ。


「どうしても一人、こちらの島で生活させて欲しい者がいるのだ!」


 ルプルさんが言うには、どうやら彼女が魔王を務めているヴィヘナ王国の伯爵様の一家が、複数の貴族と結託し国家への反逆を企てていたようで、死刑が確定しているとのこと。


 主犯である伯爵家の当主、伯爵夫人、息子二名の死刑が確定。全員がその計画を知り、加担していたからだ。


 ただ幸いなことに、側室の子であった娘は普段から空気のように扱われていて、そう言った内情を知らされていなかったらしい。幸いと言っていいのかは、難しいところかもしれないけど……そのおかげで命が助かることはたしかだ。


 だが、周囲の貴族は『死刑にするべきだ』『嘘を吐いているかもしれない』と言っている上に、死刑が確定している家族も彼女を道連れにしようとする始末。


 彼女の母はすでに他界しているため、誰もかばう人がいない状態だったようだ。


「どう考えても伯爵たちの言っていることはでたらめだったし、彼女の目は嘘を吐いていないと思ったのだ! でも、刑が例えなくなっても、あのままうちの国で暮らすには、辛いと思うのだ」


 そんなわけで、ルプルさんは『とある人物が開拓している島がある、来る気はないか?』と言った感じでその娘さんに提案してみたらしい。事後承諾になって申し訳ないとさらに頭を下げてきた。


「なるほど……そういうことでしたら、俺は歓迎しますよ」


 みんなはどうだろうか、と思いながら視線を動かすと、葵たちは『お兄ちゃんが決めていいんじゃない?』と言っているし、メノさんも『ここはアキトの島。でも、できれば受け入れてほしい』と言っている。


 リケットさんはコクコクと勢いよく頷いており、俺に「ここはみんな優しいですから、きっとその御方も幸せになれると思います!」と言っていた。


 みんな歓迎ムードだ。それどころか、メノさんは「伯爵家の娘なら世界樹の果実の価値ぐらいわかるはず、食べさせる」とニヤニヤしながら言っていた。反応を見て楽しみたいのかもしれない。


「というわけでルプルさん、こちらはいつでも受け入れ可能ですよ。都合の良いときに連れてきてください。客室もあるし、なんなら今からでも大丈夫ですよ?」


 ちょっと雰囲気を明るくするために、冗談めかして言ってみたのだけど、ルプルさんは勢いよく立ち上がって俺に「ありがとうなのだ!」と頭を下げたあと、


「じゃあいまから連れ来るのだ!」


 そう言って猛スピードで走り去っていった。

 いやたしかに俺がそう言っちゃったのが悪いんだけど、まさか本当に今日連れてくることになるとは思わないじゃん? だっていま話を聞いたばかりなんだよ?


「リケットさんと同じような家だったら、ルプルお姉ちゃんが帰ってくるまでにはできるよー? 作る?」


「いつでも家が作れるように建築用の木材は準備しているでござる」


 ルプルさんが走っていた方角を呆然と見ていると、ヒカリとシオンがそんな風に俺に声を掛けてきた。


 そうか……間に合っちゃうのか。でも彼女がまだこちらに住むと決まったわけじゃないしなぁ。この島の状態を見て、『こんなところ住みたくない』ってなる可能性だって十分にあるわけだし。


 だけど、泊まることになったとしたら、人の家の客間よりはリラックスができるだろうからなぁ。あったほうがいいよなぁ。


 ――よし、作ろう!


「場所はリケットさんの家の隣にしようか。もちろん俺も手伝うから、ルプルさんが帰ってくる前にパパっと作っちゃおう」


「「「「「はーい!」」」」」


 葵たちが手を上げて元気に返事をしてくれる。一泊遅れて、メノさんも「はーい」と手を上げ、リケットさんが最後に「お、お掃除とか頑張ります!」と口にする。


 こういう時に嫌がる人がいないと、めちゃくちゃスムーズだなぁ。



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