第35話 図星メノさん





 ミルクカウとノーウィングバードのエサに関しては、乾燥させた小麦が良いとのことだった。それに加えて母さんがぱらぱらと世界樹の葉を落としてくれたのでそちらを混ぜて食べてもらうことにした。


 メノさんはエサの内容に関して難しそうな表情をしていたけど、母さんがぱらぱらと葉っぱを落としてきたので、たぶん大丈夫だと思う。神様からなにか話を聞いていたかもしれないし。


「ミルクカウはメスで、ノーウィングバードは一匹だけオスなのだ!」


 乳牛って妊娠とかしないとミルクでないんじゃないの? と思ったけど、少なくともこの世界ではそうではないらしい。いったい何のために彼女たちはミルクを生産しているんだろうか。神様による品種改良かな?


 ともあれ、ミルクは毎日絞ることができるようなので助かる。

 どうやら一日三十リットルはミルクを絞ることができるようなので、現状ミルクに困ることはなさそうだ。


 そしてノーウィングバードに関しても、メスは毎朝一個卵を産むらしいので、これも十分な量を確保できそう。鶏卵と比べると少しだけ大きいサイズのようだから、慣れる必要はありそうだ。



 ルプルさんが戻ってきた日の翌日の朝。

 俺は自宅のダイニングテーブルを挟んで、メノさんと向かい合って話していた。


「みんなが俺の仕事を奪うんですよ」


 俺が肩を竦めながらそう言うと、メノさんは「早い者勝ち」と言ってニヤリと笑った。現在メノさんは、魔道具に使用するための魔石をナイフで加工している最中である。俺は苦し紛れに、木材でティッシュ箱を作っていた。


 なんで仕事を奪い合うようなことになってるんだろうね。別にいっぱい働いたからって給料が増えるわけでも昇進するわけでもないというのに。


 ルプルさんは仕事場王城に戻ったし、ソラとヒスイはゴムの樹液の採取、アカネはリケットさんと共に、昨日の午後にルプルさんに教えてもらった服作りをしている。


 そして俺が立候補しようとしていた乳しぼりと卵回収、および動物たちへのエサやり業務は、シオンとヒカリの二人に取られてしまった。


 俺がメインで神様にお願いされていたと思うんだけど……気が付けば『俺、一番いらなくね?』という状況になってしまっている。必要不必要とかを論じたくはないのだけど、自分が一番役になっていないとなると気にしちゃうんだよなぁ。


「……アキトは、別に仕事をしなくてもいい。アキトがここにいるから、みんなが集まってる。気にする必要はない」


 メノさんはそう言って俺を慰めてくれるけれど……うーん。


「じゃあもし俺が毎日家でだらだらしてたらどう思います?」


「……想像できない。『だらだらしてる』って言いながら働いてそう」


 俺ってそんなに仕事大好き人間に思われてるのか。別に仕事をしているつもりは――って、みんなももしかしたら俺と同じ感覚なのか。


 人に頼むとなると『仕事』という認識を持ってしまうが、自分でやるとなると『仕事』って感じでもなくなるんだよなぁ。いちおう、自分だけでなく他の人も関わることだから、完全な趣味としては認識していないけれども。


 話している間に各家庭二つずつのティッシュ箱を作り終えたので、次は何をしようかと考える。


「メノさんって今時間ありますか?」


「……ある」


「魔道具の作り方って教えてもらえませんか?」


 その問いかけをすると、作業をしていたメノさんの手が止まり、目がこちらを向く。


「……アキト、私の役割を奪うつもり」


 半目のジトっとした目を向けられた。そんな表情を向けないでほしい。


「そんなつもりはありませんって。というか、メノさんが作ってくれた魔道具たちにはすごく助けられていますけど、メノさんの価値が魔道具ってわけじゃないんですから、役割とか気にしなくていいんですよ。俺はたとえメノさんがなんの知識もなくたって、一緒にいてほしいですから」


 メノさんの知識に助けられているのは事実だけど、彼女の優しさとか、醸し出す雰囲気とか、口下手でお世話好きみたいなところで俺は『一緒に住んでほしい』と思っているのだ。


 ちょっと恥ずかしいことを言った自覚はあるので、乾いた笑いで誤魔化していると、メノさんは「そう」と短く返事をしてくれた。


「……じゃあ教える。こっち座って」


「ありがとうございます!」


 向かい合っていたけれど、どうやら隣に座っていたほうが教えやすいらしいので、俺はメノさんがぺちぺちと叩いている椅子に移動した。


「……まず、魔道具に使える魔法とそうじゃない魔法がある。これは魔法陣が出るかでないかの違い」


 ほう。

 たしかメノさんが使っている転移魔法は魔法陣が出ていたし、ソラが畑に水やりをしているときも、魔法陣が出ていたな。それと違い、俺の使う鑑定や、メノさんの空間収納にはそれがなかった。


「……簡単に言うと魔道具は、魔法によって出現する魔法陣を模写したもの。そこに魔石から魔力を流すことによって、魔法を発動させる」


「なるほど……どうやって魔力が流れるんですか?」


「……魔鉱石には魔石から魔力を吸い出す性質と、余剰分を放出する性質がある。だから、魔鉱石で魔法陣を描く」


 なんとなくだけど、魔石は電池で、魔鉱石が銅線と電球の役目を担っているという認識でいいのかな?


 魔鉱石の純度によって、太さあたりの魔力を吸い出す量が変わってくるらしいので、純度が低い魔鉱石を使った場合、必然的に魔道具自体も大きくなってしまうとのこと。


「でも魔鉱石って、魔力流したら柔らかくなっちゃいません?」


「……吸い出す分ぐらいの量で柔らかくはならない。とりあえず、一緒に一個簡単なものを作る」


 彼女はそう言いながら、縦横三十センチぐらいの木の板と、こぶし大の魔鉱石を空間収納から取り出して、テーブルの上に置いた。そこには、鉛筆か何かで魔法陣が描かれている。


「……これは光魔法――あかりの魔法陣。この形に魔鉱石を加工して、そこに魔石で魔力を流せば魔法が発動する」


「メノさんが作ってくれたものと比べると、随分と大きいですね。こっちのほうが練習としてはやりやすそうですけど」


 ひとつひとつの記号の大きさはピンポン玉ぐらいある。実用的というよりも、練習用って感じなのかな? ……ん? ということは?


「メノさん、もしかしてこれって俺のために準備してくれてたんですか?」


「………………たまたま持ってただけ」


 たまたまらしい。どう考えてもその反応は図星っぽいけどなぁ。


 






~~~作者あとがき~~~



メノさん「アキト、前に『魔道具について教えて』って言ったのに全然言ってこない」


メノさん「準備だけしとこ」


メノさん「……全然言ってこない」


メノさん「目の前で作業して意識させよ」


メノさん「あまり待ってたと思われたくなくて『役目をうばうつもり?』なんて言っちゃった(;´・ω・)」


メノさん「知りたいの? 教えてあげる(*´▽`*)」


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