第33話 公園で遊ぶ
ルプルさんがこの島からいなくなって、三日が経った。
そう、あれから彼女はこの島に戻ってきていないのだ。彼女ほどのレベルであれば万が一ということはないのだろうけど、不安になっていた俺のために一度メノさんが転移で様子を確認しに行ってくれた。
メノさんはその際に、ルプルさんの配下であるワルサーさんの前で正座をしている友人の姿を窓から確認できたので、そのまま帰ってきたとのこと。やっぱり怒られているらしい。
そんな風に彼女が反省を強いられている間、俺たちの環境もさらに良くなった。
ソラ、ヒスイの二人の活躍により紙を大量に生産できたし、彼女たちは現在ゴムの生産にも取り掛かっている。樹液から量を取り出すのに時間がかかるらしいので、いまだこちらは継続中。
そしてアカネとリケットさんによって糸と布もこれまた大量にできている。服作りにはまだ着手していないが、各家にカーテンの取り付けなどを行った。
動物たちのための小屋も作ったし、公園も作ったし、世界樹から家に至るまでの道には石レンガを敷き詰めた。こうやって道ができるだけで、なんとなく文明の香りが強まった気がする。
「いい加減休みの日を作ろうということで、今日は休日とします」
みんなで世界樹の下で朝食を食べ終えたところで、俺は丸太から腰を上げてそう口にした。
ブラック労働は良くない。俺を含め、みんな気が付けば仕事をしてしまっている状態なので、必要最低限の仕事以外は禁止することにした。こうでもしないとみんな永遠に仕事をし続けてしまう。
やはり、できることが多すぎるのだ。
気持ちとしては、お腹が空いている状況で目の前に数百種類の食べ物が並んでしまっているような感じかなぁ。全てに手を伸ばしたいが、もちろんそんなことは不可能である。
ステータスの力や、物資の状況、それに加えてメノさんの知識まであるから、無限と思えるほどにやることがある状態なのだ。
幸い、妄想の中で目の前に並べられた料理には、どれも賞味期限がない。だから焦る必要はまったくないのだ。
「お、お休みって何をすればいいんでしょう……?」
「うーん、なんだろうね」
公園の遊具が完成してからまだ全員で遊んでいないから、そこで遊んでもいいけど……メノさんやリケットさんが楽しめるかは疑問が残るところ。
まぁでも、少なくとも葵たちはみんなと遊びたいだろうしな。
公園の遊具を作ったときはリケットさんもメノさんも興味を示していたようだし、たぶん全く楽しくないということはないんじゃないのかなぁと思う。
俺も、このステータスで遊んだらいったいどうなるのか楽しみではあるし。
滑り台、砂場、ジャングルジム、鉄棒、シーソー、ブランコなどの一般的な公園の遊具のほかに、ボルダリングようの壁、スケートボードで滑るための斜めになった地面などなど――時間と広さに余裕があったので、そんなものまで作ってしまった。
というわけで、当初の予定よりもかなり広い公園になってしまっている。葵たちが楽しむところを想像したら気合が入ってしまったんだからしょうがないね。
どの遊具が人気――というよりも、みんなそれぞれ好みが別れているような感じだ。
リケットさんはブランコ、アカネは滑り台、シオンはボルダリング、ソラとヒスイは全ての遊具をまんべんなく遊んでいる感じで、ヒカリは一輪車が気に入っている模様。
ちなみにメノさんはスケボーが好きみたいだ。ベアリング部分を作るのに苦労したけど、なんとか形にはなった。クッション性には乏しいのでもっと改良を加えたいところである。
公園につくなり散り散りになったみんなを見送ってから、俺はまずブランコがある場所へ向かった。
このブランコは通常の物の三倍ぐらいのサイズなので、スピードもそれなりにでる。
本日はリケットさんと一緒に、ソラもブランコで遊んでいた。
「最初はビクビクしてましたけど、慣れたみたいですね」
「風が気持ちいいですよ~」
ブランコの存在を知ってまだ二日ではあるが、リケットさんはしっかりと漕ぎ方をマスターしている。だが、やはり高所は少し苦手らしいので、それなりの高さまでしか漕いでいなかったが。
「お兄ちゃん、一緒に乗ろ?」
地面に足をついて動きを止めたソラが、ニコニコと笑いながら声を掛けてきた。そりゃもちろん乗りますとも。他人にどうみられるかは知らないが、俺たちにとっては価値のあることだ。公園の遊具で二人で遊ぶことなんて、これまでできなかったんだから。
「じゃあソラは座ってな。俺が漕ぐから」
「うん!」
ソラが元気よく返事をしたのを耳に入れて俺はソラと向かい合うように、彼女の足をまたいで立ち漕ぎを開始。力の加減は身体操作スキルのお陰で加減が利くので、ひと漕ぎで破壊するなんて馬鹿なことはせずに済んだ。
ちなみに、俺が去った後はソラとリケットさんの二人で同様のことをやったらしい。仲が良いようでなによりだ。
その後、アカネと一緒に滑り台付近で鬼ごっこをして、シオンと一緒に壁登りの競争をして、ヒスイとシーソーで遊び、ヒカリと一輪車を使ってレースをした。
最後にやってきたのはメノさんのところ。コースの端で小さくうずくまっていたので、もしかして転んでしまったのではないかと思って俺は慌てて駆け寄っていった。
さっきまで普通に滑っていたのを見たから、たぶんここ数分の出来事だとは思うが。
「大丈夫ですか!?」
砂埃が起きないよう制御しながらスピードを落とし、声を掛ける。すると彼女はものすごい勢いでこちらを振り向き、両手を広げた。
「……なんでもない」
「なんでもない動作ではないと思うんですが」
見たところ怪我はしていないと思うが、何かを隠しているような動作だ。彼女の後ろを覗こうと体を動かすと、彼女も俺の動きに合わせて移動した。
「……違う」
「何が違うんですか?」
「…………ごめん」
今度は謝られた。表情は明らかに動揺している様子であり、視線もあちらこちらに移動している。そんな時、一輪車で公園の外周を爆走していたヒカリが、「真っ二つだ!」と言葉を残して走り去って行った。
その言葉を聞いた俺は首を傾げ、メノさん額から汗を一滴流す。
真っ二つ……? あぁ、なるほど。
「スケートボードが壊れたんですか?」
「……ごめん、ちゃんと修理する」
そう言いながら、メノさんは背後に置いていたスケートボードを前に持ってくる。見事に中心で二つに割れていた。下唇を突き出して、視線は壊れたスケートボードをジッと見ていた。
「こちらこそ、壊れちゃうようなものを渡してすみません。怪我はしてませんか?」
「……してない。でもアキト、これ作るの時間かかってた」
「慣れない作業でしたから、今度はもっと早くできますよ」
今度はもっと頑丈に作ることにしよう。
そう思いながら、メノさんに「ほら、立ってください」と手を引く。そのタイミングで、
「これなんなのだ!? すごいのだ! 面白いのだぁあああああああ!?」
久しぶりに聞いたルプルさんの声に驚くと同時、声のした方角からすさまじい勢いでスケートボードが飛来した。冷静に対処すればスケートボードは掴むことができたのだけど、驚きのあまり俺は回避を優先した。とっさにメノさんを包み込むように抱きしめてしてしゃがみこむ。
「ルプルさん……?」
俺たちの頭上を通過したスケートボードは大木とぶつかって両者とも大破。
そして事件を起こした張本人であるルプルさんに目を向けると、彼女はすでに土下座の姿勢を取っていた。
帰って来てそうそう、騒がしすぎやしないか?
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