第31話 遊んでくるって言ってきたのだ!




 砂糖づくりに関しては、基本的には煮詰める作業だ。


 木と魔鉱石で作成した網で灰汁を掬いつつリケットさんと会話をしていたら、葵たちやメノさんも起きてきて、いつの間にか結構な時間が経っていたことに気付いた。五時に起きてきたはずなのに、すでに時刻は八時である。


 ちなみにルプルさんはまだ寝ているらしい。昨日はメノさんと遅くまで話していたっぽいからなぁ。でもメノさんはいつも通りに起きてきているし、元々起きるのが遅い人なのかもしれない。


「ちょっとだけ茶色だけど――味はどうかな?」


 湯煎で地道に水分を飛ばしていくと、粘り気のある茶色のネバネバになり、それを乾燥させる。この塊を砕けば砂糖として使えるらしい。


 サトウキビとかから砂糖を作るやり方はしらないけど、こんなに楽ではないと思うんだよなぁ。もっとめんどくさそう。


 乾燥したものを指で砕き、ひとつまみだけ口の中に入れて見ると、しっかりと砂糖ができあがっていた。甘くておいしい。


 後味に少しだけ自然の香りがするというか――これはこれで好きなのだけど、もう少し不純物を綺麗に取り除けば別の料理を邪魔しないような感じに作れるのかな。


 まぁ初めてで砂糖の形になっただけで十分すぎる出来栄えだ。


「リケットさんも食べてみなよ」


「わ、私は砂糖なんて高級品、いただけません! ど、どうぞ皆さんで召し上がってください!」


 彼女はそう言ってスススと調理場から遠ざかり、手でメノさんや葵たちに食べるように促している。俺はこちらを向いたまま少しずつ離れていくリケットさんの背後に素早く回って、背中を押した。そのタイミングで、葵たちもワーワーと騒ぎははじめる。


「リケットさんとお兄ちゃんが作ってくれたんだから、一番に食べないと!」


「拙者は最後で大丈夫でござる」


「……遠慮はいらない。リケットの次は私も食べたい」


 アカネ、シオン、メノさんとそれぞれリケットさんに砂糖を食べるように促すような発言をしている。三人もうんうんと頷いて同意を示していた。


「嫌いってわけじゃないんだろ?」


「……そ、それはそうですけど」


「じゃあ何も問題ないな」


 俺たちからの圧力に負けて砂糖をほんの少しだけ口に入れたリケットさんは、その後数時間にわたって幸せそうな表情を浮かべていた。


 これを使って、何が作れるかなぁ。



 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆



 さて調理もいいが今日は公園づくりをすると決めていた。


 リケットさんには畑に実った作物のうち、収穫しても常温で日持ちしそうなものは全て収穫してもらい、そのほかは一部だけ収穫。時間がたったときに、どのような変化をするのか観察して、今後どういった対応をすればいいのかを決めることにした。


 メノさんも生魔島における植物の成長は把握できていないようだし、ましてやこの世界樹の結界の中ではどんな風になるのか全く想像ができないとのこと。育ちきっているだけでも、かなりびっくりしていたようだが。


「この島には動物がいないのだ! だからルプルが動物を数匹持ってくるのだ!」


 九時になったところでメノさんがルプルさんを起こしにいき、世界樹の下にてみんなで朝食をとっていたところ、ルプルさんがそんなことを言った。俺が首を傾げていると、彼女はそのまま言葉を続ける。


「昨日メノが、タマゴとミルクがあったほうが料理の自由度がぐっと上がると言っていたのだ」


「……別に、持ってきてほしいとは言ってない」


 メノさんは俺から視線を逸らしつつ、ボソボソとそんなことを言う。

 自分が何かをすると『与えすぎ』になってしまうから、友人(魔王)を使って何かをしてくれようとしていたらしい。


「美味しい食べ物をごちそうになって、家まで建ててくれたのだ! ルプルは恩には報いる王様なのだ!」


 腰に手を当てて、ルプルさんが言う。胸のボリュームがやや控えめなメノさんよりもさらに控えめな彼女だが、胸を張るとさすがに女性らしいふくらみがあることがわかる。


 いまのところ、十六歳のリケットさんが一番大きい。


「それはありがたいですけど、いいんですか?」


 衣服の制作に関しても、指導をしてくれているからそれで十分すぎる見返りだとは思うのだけど……これまた俺一人の問題じゃないから『お気持ちだけで大丈夫です』とは言い難い。


 それに何より、俺も『卵と牛乳があればなぁ』と思っていたことは事実なので、遠慮することができなかった。


「大丈夫なのだ! たぶんワルサーも『お世話になったならお礼をしなければいけませんので、ちゃんと私に言ってください!』って言うと思うのだ!」


 ワルサーって誰だ。


「……ルプルの側近の一人。ママみたいな人」


 メノさんがすぐに解説をいれてくれた。なるほど。


 しかしそんな人が彼女のすぐそばにいるのならば、今のこの状況はワルサーさんの胃を痛めるような状況である気がしなくもないが……本当に大丈夫なのだろうか。


「ここに来ることは伝えてるんですか?」


「メノと遊んでくるって言ってきたのだ!」


 子供かよ。いや見た目は子供なんだけど、役職は魔王で年齢は六百歳越えなんだよなぁ。頭が混乱してしまう。







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