第29話 グラマラスだね!(大木)




 ルプルさんが住むことについて。


 本人はかなり前向きに検討しているようだけど、メノさん的には『無理』と断言していた。そりゃそうだろう。一国の王様が不在状態を続けることが良くないということぐらい、この世界にやってきたばかりの俺でもわかる。


 いや、この世界ではそれが普通だとしたらいいのかもしれないが、メノさんの反応を見る限り、ルプルさんは面倒なことから目を背けて『面白いから』という理由だけで動いているような気がするからなぁ。たぶんダメだろう。


 とはいえ、せっかくなので夕食にはご招待。俺がこれから出会う人はきっとわずかな人数だ。ひとつひとつの出会いは大切にしたいきたい。


 畑に植えた作物はさすがにまだ育っていない様子だったので、近くで採取したものを含めた、いつも通りの食事となった。ルプルさんを含め、みんなには好評だったが。


「本気でここに泊まるつもりなんですか? 国の方が困ったりしません?」


「ルプルが王様だから大丈夫なのだ! それに、せっかくシオンとヒカリが家を作ってくれたのに、泊まっていかないのは逆に失礼なのだ!」


 本当に怒られないのかなぁ。メノさんが肩を竦めて呆れたような表情をしているけど……これはどういう感情なんだろう。実際は『怒られそうだなぁ』なんてメノさんは思っているかもしれないな。


「そ、それにルプルはまだ体で払う約束を果たしてないのだ! は、初めてだから手加減してほしいのだ……」


「何もしませんから変な妄想はやめてください」


 葵たちがいる前で大人な会話はNGです。ヒカリが「お兄ちゃんロリコンだ―!」とか言っちゃってるけど、たぶん詳しい内容はわかっていないだろうからギリギリセーフということで。



 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆



 現在の進捗として。


 世界樹周りの木々は綺麗に伐採して平地が出来上がっており、世界樹から洞窟に至るまでの道は綺麗に整備が完了している。地面に敷き詰める予定の石材は準備段階ではあるが、ゆくゆくは綺麗な石畳の道にできるんじゃないかなぁと思う。


 いまはどうしても靴に土がついてしまうけれど、石畳が出来上がれば少しはマシになるはず。


 そしてその世界樹と洞窟の中間地点にある家が四軒。俺と葵の家は人数の影響でやや大きめの二階建てではあるが、他の三人の家も一人暮らしであることを考えると大きいと思う。メノさんの家は倉庫や作業場があることで少々大きめで、新しく作ったルプルさんの家はメノさんとまったく同じ形になっている。


 リケットさんの家だけ平屋になってしまっているが、特に不満はなさそう。必要があれば増築すると言ったら、『これ以上は勘弁してください』と平謝りされた。


 そして食事問題。


 水は魔法と魔道具のおかげで問題ないし、世界樹の果実もあれば魔物の肉も大量にある。食べ物が無くて悩むことはない状態だ。これからは食べる量で満足するだけでなく、レパートリーや栄養を考えて種類を増やしたいところ。


 その他にも紙が作られ、メノさんには魔物の皮で靴を作ってもらったし、ルプルさんが明日衣服を作ってくれるらしい。まだまだ日本で暮らしていたことを思い出すと充実しているとは言い難いが、みんながそれぞれ頑張ってくれているおかげでかなり良い環境になってきている。


 ありがたい。


 夜になって、メノさん、リケットさん、ルプルさんたちと別れ、五十嵐家の家でお風呂を済ませた。その後は葵たちと一緒に世界樹の根元に集まって、しばし家族の団らんだ。


 テーブルを囲んで輪切りにした丸太に座り、家族水入らずの時間を過ごす。


 暗い夜空には星が瞬き、月のような衛星も見えている。サイズは地球で見る物よりすこし大きく見えるぐらいで、『あれは月だ』と日本の夜空で見せられても、納得してしまいそうなぐらいだ。


 あの星の満ち欠けがあるかどうかはまだ知らないが、今夜は綺麗な丸に見えている。夜中でも、灯いらずで過ごせるぐらいには明るかった。


「母さんでかくなったな――いや、決して太ってるとかそういうことが言いたいわけじゃないからね?」


 最初に見た時はまだ二、三メートルの太さだったのに、今はもう五メートルを超えている。木の高さも伸びているし、結界の範囲もそれに合わせて大きくなっていた。


「あー、お兄ちゃんいけないんだー! お母さん怒るよー?」


「じゃあこの場合どう言えばいいんだ」


「グラマラスだね! とか?」


 いったい俺は木の幹を見てどこに魅惑とかを感じればいいんだ。木肌がすべすべだねとか? 謎過ぎる。


 しかしどうやら母さん的にはアカネが口にした言葉で良かったらしく、葵たちの元にだけ世界樹の果実が落ちてきた。そして俺のところには、木の枝が落ちてきた。


「ごめんってば。悪気があったわけじゃないよ」


 苦笑しながらそう言うと、すぐに果実が落ちてくる。どうやら許してくれたらしい。


「あ、そういえば葵、そろそろ普通に生活する分には困るってことが無くなってきたし、公園みたいな遊べる場所を作ろうと思うんだけど、どう思う?」


「「「「「賛成!」」」」」


 満場一致の賛成だった。じゃああとはリケットさんに確認を――と思ったけど、彼女は俺や葵がやりたいと言ったらなんでも肯定しそうだからなぁ。そういう意味で言えば、葵も似たようなものなのかもしれないが。一応、明日確認はしておこう。


「私はルプルお姉ちゃんに服の作り方を教わりたいし参加は難しいかなぁ」


 まずアカネがそう言って、ソラとヒスイももう少したくさん紙を作っておきたいとのことだったので、俺と一緒に公園づくりをしてくれるのは、ルプルさんの家の建築作業を完了させているヒカリとシオンの二人となった。


「シーソーを作りたいでござる!」


「私一輪車とか乗りたい!」


 シオンとヒカリがそれぞれ意見を出してくれる。一輪車は……いちおう作れるのか? いちおう魔鉱石だけで作ろうと思えば作れそうだけど、クッション性のあるゴムのようなものがあればなお良い。


 明日メノさんに何か都合の良い材料はないか聞いてみようかな。


「アカネとソラとヒスイも、『こんなのが欲しい』ってのがあったら遠慮なく言えよ。別に仕事ってわけじゃないんだから、気楽に、自由にな」


「「「「「はーい!」」」」」


 五人が元気よく手を上げて返事をする。

 その後も三十分ほど、俺たちは世界樹の果実を食べながらのんびりとした時間を過ごしたのだった。







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