第26話 いろいろ作るぞ!




 俺がメノさんと一緒に探索に出かけている間、リケットさんは畑を耕し、その周辺を整備。葵たちは家具を作ったり、世界樹に登って遊んだりしていたようだ。


 たぶん葵たちもずっと働き続けていたら、リケットさんがもっと頑張ろうとしてしまうから適度にそういう楽しむ姿を見せていたのだと思う。単純に、母親とじゃれ合いたかっただけの可能性もあるけど。


 昼食を食べたあとは、いよいよ種植えタイムである。メノさんがリケットさんに教えつつ、俺や葵はその説明を遠目で見ながら聞いておくって感じ。小麦って水田とかで育てているイメージがあるけど、別にそうじゃなくても大丈夫みたいだ。あれってそもそもなんで水の中で育てているんだろうな。わからん。


 まぁそれはいいとして。


 メノさん自身もこの島で植物を育てようとしたことはないから、どれぐらいのスピードで育つのかはわからないとのこと。


 この島の魔素の量から考えて、おそらく二か月以内には全ての作物が収穫できるではないか――というのがメノさんの予想だった。


 そう、それはあくまで予想だった。

 実際には種を植え終えて、ソラが水魔法で畑に散水してから一時間が経過したころには、全ての種が土から緑の元気な芽を出していたのだ。


「頭おかしい」


 その光景を見たメノさんの第一声がこれである。

 いや、これに関しては俺も同じことを言いたい。いくらなんでも早すぎやしないだろうか。


 だいたいこういうのって一週間後とかじゃないっけ? それが一時間ってことは――だいたい百五十倍ぐらいのスピードで育ってるってことですよねぇ。


 ざっくり計算だけど、半年で育つ作物が一日で育つってことになってしまう。早すぎ。


「今後の状況次第では、植えるペースも考えたほうが良さそうだな……」


 日持ちするものならいいけど、そうでないものはあまり頻繁に植えすぎても捨てるだけになってしまいそうだ。とりあえず、食糧庫は作ったほうが良さそうだということがわかった。




 畑での用事を済ませてからは、また各自仕事にとりかかった。


 リケットさんは家や周辺の掃除を始めて、アカネ、シオン、ヒカリの三人は食糧庫の建築。そしてソラとヒスイの二人は、新しい仕事に取り組んでいた。


 新しい仕事――それは、紙づくりである。

 何かをメモするための紙ももちろん必要だが、現状俺が必要としているのはティッシュやトイレットペーパーといった類の柔らかめの紙。


 メノさんによると製法自体は似ているようなので、慣れたらどちらも簡単にできるとのこと。


 紙を作るとなると薬剤とか必要になるんじゃないかなぁと思っていたけど、そうでもないらしい。なんでも腐った木に付いているカビのようなものを混ぜ合わせると、木材の繊維が細かく分解できるとのこと。その後熱湯で処理して繊維を薄く引き伸ばせして乾かせば、紙ができるらしい。


 そして、何かを書くための紙を作る際は、熱湯処理の時に、ガラスで使用しているサプラの粘液を一緒に入れておけば具合がいいとのことだった。


 ソラとヒスイの二人は、その作業を二人で進めてくれている。


 俺はというと、もう一つ俺たちに足りないもの……いや、足りないものはまだまだあるのだけど、優先順位の高い仕事だ。住処はできた、食べ物も満足いくだけある、だけど、衣類がない。


 メノさんは自前のものがたくさんあるようだし、葵に関しては自分の体が衣服のようなものだからいいのだけど、俺やリケットさんは違う。ずっと同じ服を着ている状態だ。


「仕組みはわかるし、なんとかなるだろ」


 俺の目の前には、メノさんが先ほど探索に行った際に拾ってきたテニスボール大の白い繭が十個ほどある。俺の仕事はこいつから糸を取り出すことだ。


 俺が今から作成するのは糸巻き機。


 全てが一体になったものなら魔鉱石でちゃちゃっと作成してもよかったのだけど、糸巻き機となると歯車をかみ合わせたりする必要があるし、どうせならDIYっぽいことがやってみたかったので、おおざっぱでいいところは木材で、精密に作る必要がある部分は魔鉱石で作ることにした。


「……できそう?」


 木材を魔力のナイフでカットしていると、メノさんが上から俺の手元をのぞきこむようにして声を掛けてきた。


「まだこれからですね――ソラとヒスイは大丈夫そうでした?」


「うん、アオイたち、みんな物覚えがいい」


「それはよかった……ありがとうございます、俺たちに色々教えてくださって。本当にメノさんがいなかったら今頃どうなっていたことか」


 いろいろと困ったことになっていただろうなぁ。


 リケットさんが運よくこの島にたどり着いていたとしても、彼女はメノさんのように豊富な知識を持っているわけではないようだし、みんなであれもわからないこれもわからないといった状況になっていた可能性が高い。


 それはそれでやりがいがあったかもしれないが、俺は今のこの状況が好きだったりする。やれることはいっぱいあるけど、どれも手が回らないって感じのこの自由な雰囲気が。


 メノさんは俺の隣に腰を下ろして、膝を抱えるようにして座る。


「……暇つぶしに見てる」


 顎を膝に乗せ、視線は俺の手元へ。

 たぶん、俺が間違ったこととかをして悩んでいたら助言してくれるつもりなんだろうなぁ。俺も人のことを言えないかもしれないけど、世話好きな人だ。


「えぇ、見ていて楽しいかはわかりませんが、ご自由に」


 誰かに見られながらの作業は少し緊張しそうだなと思ったけど、彼女の醸し出す空気感のおかげか、俺は終始穏やかな気持ちで糸巻き機を作り上げたのだった。






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