第24話 メノさんと島を探索




 畑は結界パワーのおかげでうまくいきそう――ではあるけれど、肝心の育てるものがない。先日料理で使ったホウレンソウのような野菜――ブラードの種は見つけたし、昨日伐採している途中にブルーベリーのような甘酸っぱい果実もゲットしたので、これは食べたあときちんと種を確保してある。名前はたしか『パベリー』。


 メノさんが言うには、この島には多種多様な植物が自生しているとのことだったので、俺はメノさんと一緒に結界の外へ探索にでかけることにした。


 リケットさんはもちろん、葵たちもステータスは高いとはいえ心配なので今回は不参加にしてもらう。まずは俺の目で安全性を確かめておきたいし。


「●×△、●□▲▽」


「すみません、日本語でお願いします」


「……間違えた」


 葵たちとリケットさんに見送られ、結界の外に出たところでメノさんに声を掛けられたのだけど、この世界の言語で喋られたために何を言っているのかさっぱりわからなかった。


 ゆくゆくは俺もこの世界の言葉を勉強する必要があるかもなぁと思うけど、結界内だと勝手に翻訳されてしまうから、勉強するとしたら外でやらなきゃいけないんだよなぁ。


「……私も全ての植物を把握できているわけじゃないから、勝手に食べないように。毒があるか確認する」


「でも俺状態異常無効がありますよ?」


「……そうだった」


 メノさんからのジト目が辛い。『ズルい』って思ってそうな感じの視線だ。

 この話題はまずそうだな。別のものに変更しよう。


「手当たり次第に歩く感じですか?」


「……それでもいい。でもまばらに生えているわけじゃなくて、ある程度固まっているから、歩いていたら時間が掛かりすぎる」


 ふむ……そういえば結界の外には出ていないから、この島がどれほどの大きさなのかまだ把握できていないんだよなぁ。前に森の中でジャンプしたときは結構遠くまで見えていたけれど、どうなんだろう?


 そんな疑問をメノさんに投げかけると、彼女は顎に人差し指を当てたあと、俺に「空を飛んだほうが島の全貌が見えるし、移動も楽」と言ってきた。


「で、でも俺はまだ飛べませんよ? 練習もしてないです」


「……私が抱っこする」


 そんなわけで五十嵐いがらし明人あきと享年二十五歳――見た目十代の少女に抱っこされて空を飛ぶことになりました。




「た、たかっ――」


「……アキトなら落ちても平気」


「平気でも落とさないでくださいよ!?」


 もしかしたら落下中に気絶して頭から地面に激突とかするかもしれないじゃないですか! そうなったらさすがに無事では済まないと思うんですけど!?


「……頭から落ちてもちょっと首が痛いぐらい」


 空中で魔力の翼を羽ばたかせながら、メノさんが言う。

 ちょっと痛いで済むらしい。やっぱり異世界って変だなぁ。あはは。


 さて、現在俺はこの生魔島せいまとう(ようやく島の名前を教えてもらった)の上空にいます。リケットさんが運ばれてきたときのようにお姫様抱っこになるのだろうかと思ったけど、メノさん的にもそれは恥ずかしかったらしく、彼女は俺の脇に手を通して持ち上げてくれている。足がブラブラしている状態で非常に怖い。


 高さは正直どれぐらいなのかわからないが、家はかろうじて見えるけど、葵やリケットさんが見えなくなるレベルって感じ。


「想像してたよりもずっと大きいですね……」


 無人島というからあまり面積は大きくないと思っていたのだけど、よくよく人がいない理由を思い出してみれば『魔素が濃く、魔物が強い』なので、面積などは無人であることとなんら関係はなかった。


 たぶん、大きさだけで言えば沖縄ぐらいはあるんじゃなかろうか。形は、四国みたいな長方形っぽい形をしている。


「……まず、大きな川の傍に行く。いちばん食べられる物の種類が多い」


「了解です。お手数をおかけしますがよろしくお願いします」


 俺がそう言うと、メノさんは「いい」と短く返事をして移動を始めた。

 内心は怖くて叫びたいレベルだったけれど、メノさんが例え七百歳以上とはいえ見た目は可愛い年下の女の子なので、なんとかプライドを保つために我慢した。



「……ちょうどいい、戦う練習」


 メノさんがホバリング状態になって、そう言ってきた。


「それは、あのどでかいカメみたいな奴と戦えってことですか?」


「……『カメ』は見たことないからわからないけど、あの甲羅がついてる魔物」


 ではあの平原をのっそのっそと歩いているカメで間違いないのだろう。

 最初に高く飛び上がって島の全貌を確認してからは、そこそこの低さで移動をしていたので、なんとなく魔物のサイズ感がわかる。たぶん車四台分ぐらいの大きさだ。でかい。


「……動きは遅い、けど、魔法を使うし防御力もある」


「なるほど」


 メノさんによると、このカメの魔物は『タフタートル』と日本語に訳されるようで、それを聞いた俺は『タフなんだなぁ』というひどく安直な感想を抱いた。


 こいつは直径二十センチほどの岩を飛ばす魔法を使ってくるらしい。


「アドバイスとかあります?」


「……甲羅と魔石は壊さないように」


 それはアドバイスではなくて要望だと思うんですが。

 でもまぁ、彼女がそう言った意味はすぐに理解できた。空を飛ぶメノさんに地上五十メートルほどから落とされて、着地。魔物との距離は二十メートルほど。


 すぐさまタフタートルはこちらに気付いて魔法を放ってきたのだけど、びっくりするほどのスピードではなかった。たぶん二百キロとかそれぐらい。


 昔の俺だったら顔面にぶち当たって死んでいた気もするが、今の俺には十分に反応できる速さだった。なんなら岩をキャッチして投げ返し、相殺することもできてしまった。

 余裕ができてきたので、タフタートルに急接近して横から身体を持ち上げて裏返す。


「……なに遊んでるの」


「カメの弱点といえばこれかなと……」


 目の前ではタフタートルが手足と首を必死に伸ばして元の姿勢に戻そうと必死になっている。ちょっと可哀想になってきてしまったので、さくっと倒してしまうことにした。


 息を整え、魔力の剣で首を落として絶命させる。

 やはりまだ命を奪うことには慣れないが――メノさんはこの島でずっとこういうことをやってきてるんだよなぁ……少しでも彼女の助けになれるよう、頑張らないと。


 逃げずにメノさんから解体の方法を教えてもらいながら、俺はそんなことを思った。



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