第22話 やっぱり住む
歓迎パーティの後片付けを終えたあと、予想通りというかなんというか、リケットさんは『なにか仕事をさせてください!』と俺にせがんできた。
その気持ちはすごくうれしいし、メノさんから『与えられるだけというのも辛い』という話を聞かされていたから、彼女にも何かしてもらおうと思っていたけれど、いくらなんでも初日からはきついだろうということで、ゆっくり休んでもらうことにした。
どうしても体を動かしたくなったら、自分の家の周りの草むしりや、箒を作っておいたのでそちらで家の掃除でもしてもらうことに。
メノさんはメノさんで俺の家の作業部屋でなにかするらしいので、手が空いた俺は木の伐採や、岩を四角に切り取って石材を作ったりしていた。ゆくゆくはこいつで石畳の道とか作れたらいいなぁって感じで。
そして葵たちは、メノさんからの要望を聞いて家の建設を始めている。まぁ要望と言っても、作業部屋と倉庫を大きめにしてほしいという簡単もので、彼女の身分からすれば小さい家になるだろう。それでも、普通の二階建て一軒家ぐらいにはなりそうだが。
「アキトさんのお家も掃除してよろしいでしょうか!」
家の外に出て、葵たちの様子を見守りつつ石をカットしていると、リケットさんがやってきた。
「それはありがたいけど……自分のところはいいの? というか休んでる?」
「大丈夫です! 自分のところはそもそもあまり汚れていませんでしたので、すぐに終わりました!」
リケットさんは箒をまるで宝物のように抱きしめて持ち、そんなことを言う。
日本と違って、土足スタイルだからもう少し汚れていると思っていたけど、まぁ一階だけだからすぐに終わるか。メノさん以外は俺たちもリケットさんも裸足だし、俺としては早いところ日本式にしておきたいところ。
今はソラの水魔法で足を綺麗にしてもらっているが、早いところ土足厳禁にしてしまいたい。
「じゃあ頼もうかな。入ったらいけない部屋とかは特にない――あ、作業部屋はいまメノさんが使ってるから、そこは本人に聞いてみて」
「わかりました!」
ということになり、リケットさんは張り切った様子で俺の家に入っていく。家に入る前、自分の足についた土汚れをせっせと箒で払っていた。
「とりあえず玄関マットみたいなものを用意しておいたほうが良さそうだなぁ。木靴とかならすぐ作れそうだけど……」
俺が作ったものは絶対に履き心地が悪そう。足を痛める自信がある。
やっぱり、まだまだやることは多いなぁ。だけどちょっとずつ環境が良くなっていくというのは、開拓の醍醐味なんじゃなかろうか。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
「……これはお湯の出る魔道具」
しばらくそんな作業を進めていると、メノさんが俺の元にやってきて大きな筒のような魔道具を三つ持ってきた。そしてそのうちの二つを俺に渡してくる。
「たしかに外の大陸の物を私が買ってくるのは止めにすると言ったけど、この島に家を持つ私がこの島の材料で自分の分と隣人の分の魔道具を作るのは関係ない」
いつもののんびりした口調でなく、まくしたてるようにメノさんは言った。
「……なんで笑うの」
「ふふっ、ご、ごめんなさい」
「む」
なんとかして手助けしたくなっちゃったんだろうなぁ。そしてその意図が俺にバレることはたぶんわかっていながら言い訳をしているのだろう。
「……それと、やっぱり休憩場所にするんじゃなくて、私もここに住む」
ムスッとした表情のまま、メノさんは俺を見上げてそう口にする。
「それはめちゃくちゃ嬉しいんですけど、いいんですか?」
「……もともと私は山奥に一人で暮らしてる。たまに街に買い物にでるぐらいだから」
なるほど。リケットさんも言っていたように、彼女が『神の代行者』『七仙』として世界に広く知られている存在であれば、一人で暮らしたいと思うのも頷ける。周囲がうるさそうだし。
それに、おそらく彼女はもともと人とあまり親しくならないようにしているのだろう。なにせ彼女は不老だ。これまでにも、色々な人と死別してきたことは容易に想像できる。
「……どうせ手伝うつもりだったし、ここに住んだほうが魔物の間引きも楽。あと、人がこないからのんびりできる」
つらつらと彼女はここに住むための理由を並べていく。
理由自体は本心なんだろうけど、やっぱり言い訳に聞こえてきてしまうなぁ。
「メノさんがいてくれると、俺はすごく嬉しいです。葵たちも喜びますし、きっとリケットさんもそうだと思います。これからも末永くよろしくお願いしますね」
「……わかった。よろしく」
メノさんは俺にそう返事をすると、建築中の葵たちの元に向かって歩いて行く。
見た目は高校生か中学生ぐらいだし、すごく気軽に接してくれているから忘れそうになるけど、メノさんってすごい人なんだよなぁ。
魔道具作りがどんなものなのかわからないけれど、きっと簡単なものではないはずだ。この魔道具も、いったい外で売ったらいくらするのやら。
「俺も頑張らないとな」
リケットさんもメノさんも、そして葵や母さんも色々頑張ってくれている。
この中で一番頑張るべきは俺なんだから、知識や技能で劣るのならもっと働かないと。
リケットさんにはまだ最低限のおもてなししかできていないのだから、もっともっと幸せになってもらいたいものだ。
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