第18話 久しぶりの団欒




 世界樹の近くで焚火をして、それを囲うように七人で座り、俺はメノさんから説教を受けていた。


「……そもそも、たった二日で全部そろえようとするほうが間違ってる」


「おっしゃる通りでございます」


 だって生贄としてここにやってくるリケットさんに喜んで欲しかったんですもの。そして葵たちにも不自由のない生活をしてほしかったんですもの。


 理想を言わせてもらえば、全ての物がこの島の内部で生まれ、消費される環境にしたかった。だけどリミットが二日という状況かつ、死別した妹も現れた状況で、この現状を解決する手段を持っている人が協力を申し出てきてくれたのだ、断れるはずがない。


 でもメノさんの言う通り、慌てすぎていたんだろうなぁ、俺は。


「……簡単な仕事は、残しておいたほうがいい。リケットが何もできなくなる。……例えば、結界で魔素が薄くなったとしてもこの土地は栄養は豊富だから、植物が良く育つ。農業とかさせたらいい」


 それは俺も考えていた。リケットさんにさせるかどうかまでは考えていなかったけれど、世界樹の果実はあるとはいえ、ほぼ毎食魚と肉ばかりでは栄養が偏ってしまう。落ち着いたら野菜も育てたいと思っていたところだ。


 しかし魔素が薄くてもよく育つというのは、ありがたい情報だな。あとは育てやすい作物がこの島で見つかればいいけど……俺はまだこの島の一割も理解していないだろうし、これはおいおい考えていこう。


「……私が外部の物を運んでくるのは、今日で終わりにする」


 メノさんは不服そうにしながらも、そう言い切った。

 本当は色々世話を焼きたいのだろう。だけど、彼女が言いたいこともわかる。


 この島の物は特殊ゆえに流通が制限されているし、そもそも俺や葵に別の大陸と交易する手段はない。


 だからお金も、手段も、全てメノさん頼りになってしまうのだ。それは健全な生活とは言えないだろう。


 スタートダッシュができたとはいえ、もとはと言えばサバイバル生活なのだ。


「本当に助かりました。ありがとうございます、メノさん」


 頭を下げてお礼を言うと、葵たちも俺に続いて『ありがとうメノお姉ちゃん!』とお礼を言っていた。だが、メノさんは眉を寄せて不満そうにしている。


「……なんかお別れみたいな言い方でやだ」


「そんなつもりはないですよ!?」


「……ならいい」


『いい』とは言いつつムスッとした表情を浮かべるメノさん。やはり七百歳には見えない。もちろんいい意味で。


 その後メノさんは、俺や葵に魔物の解体方法を指導して、一緒に夕食を食べてから転移で帰って行った。明日は朝からリケットさんを見張るということなので、次に来るときは二人でくるとのこと。


 余談だが、夜に枕や布団を俺と葵たちで作成していると、メノさんがやってきてちょっとだけ手伝ってくれた。今回の言い訳は、『暇つぶし』だそうだ。



 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆



「えー! いいじゃーん!」


「お兄ちゃん私たちに欲情してるんだ!」


「っ! 浴場で欲情! どうでござるか!?」


 時刻は夜の十時。

 枕と布団の作業も終わり、もろもろの片づけを終えたあと、ソラとアカネが湯船にお湯をためてくれた。で、葵たちに「先に入っておいで」と言ったところ、反感をくらっているのが今現在。


 つまり何が言いたいのかと言うと、一緒に入ろうよということである。


「まぁ十歳だからセーフか? 他のお宅はどれぐらいで卒業するもんなんだろ」


 彼女が入院するまでは一緒にお風呂に入ったりしていたけどなぁ。


「よそはよそ、うちはうち」


 なんかヒスイが母さんみたいなことを言っている。そう言われると俺もそう思うのだけど、もし葵に好きな男の子とかができたときに……あれ?


「葵の体って、成長するの? それとさ、結婚とかできるのかな?」


 なにせ人間の姿をしているとはいえ、彼女は魔物だ。


「大人の体にもなれるけど、一番魔力の消費が少ないのがこれぐらいなの」


「あのね、もともと魔人族って、人化した魔物と人族との子供らしいよ!」


「……なるほど」


 だとしたら、葵も恋愛をしようと思えばできないことはないのか。少し安心した。


 家族で再会するために魔物の体を手に入れて、それで自由が制限されるなんてことになっていたら申し訳ない。問題があるとすれば生贄の子は女の子のみで、現状男子が来る予定がないということだけども。


「も、もしかして、大人の体になってお風呂に入ったほうがいい?」


 ソラが顔を赤らめながら、そんなことを言ってくる。んなわけあるかい。


「わかったわかった。一緒に入るからそのままで行くぞ」


「ロリコンだー!」


 ヒカリがそう叫びながら、俺の背中に跳びついてくる。

 メノさんみたいな人は確かに好みだけれど、さすが妹に欲情なんてできるはずもない。俺はいたってノーマルですから。たぶん。




 お風呂は大変だった。

 兄妹で一緒に入るとかそういう話ではなく、葵たちがはしゃいで暴れて大変だった。


 ことの発端は、おそらくアカネが手で水鉄砲を打ってきたあたりだろうか。


 ぱしゃぱしゃなんて可愛らしい音ではなく、効果音で言うとしたら『ヂュッ』である。出来立てほやほやの壁が壊れないか心配だった。


 ヒカリはお風呂場の光の魔道具を消して真っ暗にして遊び始めるし、シオンは天井と壁の間に張り付いて忍者ごっこをするし――ヒスイとソラは大人しくしていたけれど、それでも三人を止めることなく楽しそうに笑っていた。


 まぁ楽しかったなら良しとしよう。


 俺は体を自然乾燥で乾かして、服を着る。しかし俺とは違い、元がスライムの葵たちはそもそも服が体の一部だ。単に裸モードで入っていただけと言う感じで、風呂から上がるとすぐに服を身に着けている状態になっていた。便利な体である。


 で、就寝前。


「……部屋を作った意味よ」


 葵たちは全員俺の部屋に枕と布団を持ってきて、雑魚寝状態になっていた。

 ベッドもない状態だからどこで寝ようと変わらないけれども、まぁでも、正直今日ばかりは俺も葵と一緒に寝たい気分だった。


 なにせ、彼女は死んで、俺も死んで――異世界で数年ぶりに再会できたのだ。そんな状況で兄が妹の温もりを感じたいと思うのは、そんなにおかしなことなのだろうか。




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