第17話 頭おかしい
午後三時過ぎ――とうとう俺と葵の住む家が完成した。
葵たちはめちゃくちゃ頑張ってくれたし、俺は俺で、魔道具を壁に取り付けるための金具や水を流す配管づくりなどを頑張った。
こんなことに魔鉱石を使っていると知られたら、またメノさんに怒られそうな気はするけども、便利なんだから仕方がない。多少の柔軟性を持っているようなので、割れたりすることもないだろう。
一階は、リビングダイニングキッチンを一緒にした大きな部屋。まだ家具などが無いから本当に何もない場所だ。
かろうじてリビングに暖炉、そしてキッチンに昔ながらのような石造りの台所があるぐらいである。たぶん、三十畳ぐらい。
そしてお風呂ももちろんある。
こちらは十畳ほどあり、『旅館の温泉かな?』と思ってしまいそうなぐらい広い。まぁ土地に関しては気にする必要がないぐらい広いようだし、葵たち五人が一緒に入ることを考えると、これぐらいあってもいいだろう。
その他に、一階には客室と作業部屋、外にはウッドデッキもある。
二階には葵たちと俺の部屋が一つずつあって、テラスがあるといった感じだ。これを日本で建てようとしたら、いったいいくらかかるのやら……土地代だけでも結構な値段になりそうだなぁ。
「リケットさんの分は――平屋のほうがいいのかなぁ」
俺の中で一軒家というと二階建ての印象が強いのだが、一人暮らしとなると絶対掃除がめんどくさくなるだけだよなぁ。
「いちおう俺たちと同じように作業部屋は付けるとして、客室と寝室、それとリビングダイニングキッチン――って感じで良いかな? 余裕があったらうちみたいにウッドデッキもつけよう」
「「「「「うん、わかった!」」」」」
もちろん、トイレやお風呂は標準装備で。
家を建てる場所は、俺の家から十メートルほど離れたところ。これだけ広々とした敷地があるのだから、庭は広くとっても構わないだろう。
さぁ、リケットさんが感動するような家を作るぞぉ!
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
「お兄ちゃん、何してるの?」
リケットさんの家が完成間近になって、あとは俺がいても邪魔になるだけかなと思い、俺は家具づくりに着手し始めていた。
そこに、手が空いたらしいアカネがやってきたのだ。
現在は、四人掛けのダイニングテーブルを作っているところである。
「リケットさんの家のダイニングテーブルだよ。一緒に食べることもあるだろうけど、それはうちでいいかなって思って。かといって二人掛けだとちょっと寂しい感じがしたから、四人掛けにしてみたんだ」
デザインに関しては……何も言わないでほしい。機能性重視なのだ。器用のステータスのお陰で綺麗に作れて入るけれど、デザイン性を出そうとすると変になってしまう。
今の俺の作業は、ぶつかって怪我をしないように角を綺麗に丸めているところだ。
「あっちに置いてあるのがうちの分だな。思ったよりでかくなっちゃったわ」
俺たちの家の分は思い切って十人掛け。長細い感じのテーブルになってしまった。
お金持ちの家のダイニングってこんな感じなのかなぁ……いや、さすがにDIYはしてないと思うけどさ。サイズ的にね。
「私たちもそろそろ終わりそうだから、次は椅子を作ればいい? 全部で十四脚?」
「――だな。でも、アカネたちはそろそろ一回休憩したらどうだ?」
「お兄ちゃんだってずっと働いてるじゃん」
アカネがジトっとした目つきで俺を見てくる。
「いや、俺は葵たちほど肉体労働をしてないから――」
「だめ~。お兄ちゃんが休んだら私たちも休む!」
アカネはそう言うと、腕組みをしてぷいっとそっぽを向いた。
アカネはなんとなく、五人の中でもリーダーシップがあるようなしっかり者のイメージだったけど、こういう仕草は年相応だなぁ。
「……わかった。じゃあリケットさんの家が終わったらみんなでこっちに来てくれ。俺も作業を止めて、休憩するから」
「はーい! みんなに言ってくるね!」
返事をしたアカネは、テテテテとリケットさん宅へ向けて走っていく。
また、俺の悪い癖なのかなぁ。もっと自分のことを考えないといけないな……それがきっと、相手を想うことに繋がるのだから。
「頭おかしい」
夜の七時ごろ――魔物の間引きを終えて帰ってきたメノさんに俺たちの家を紹介したところ、そんな感想をいただいた。
しかし今回ばかりは、俺も言い返させてもらおう。これは別に、頭おかしいラインではないのだ!
「土地は広いですし、材料は余るほどありますし、リケットさんだって自分の部屋があったら嬉しいと思うんですよ」
「……これは自分の『部屋』じゃなくて自分の『家』。それは五万歩譲って納得するにしても、このレベルの建物をこの時間で建てるのは早すぎる」
おや、どうやらメノさんがおかしい判定したのは俺ではないらしい。葵たちのほうだったようだ。
「私たち頑張ったんだよ!」
「メノお姉ちゃんも見て見て~」
アカネとヒカリがそう言いながらメノさんに詰め寄っていく。彼女は口の端をぴくぴくと動かしながら後ずさりしていた。子供の無邪気さには勝てないらしい。
「そう言えば、生贄の子って何時ごろ来るんですか?」
話を変えるために、メノさんに問いかける。すると彼女はハッとした表情を浮かべたあと、がっくりと肩を落とした。
「……また言い忘れた」
「い、いや別に気にしなくて大丈夫ですって! 俺が聞けばよかっただけの話なんですから!」
しょぼんとしてしまったメノさんを慌てて励ます。なんでも自分のせいって思ってしまうタイプっぽいよなぁ。タイミングが悪いだけかもしれないけども。
「昼の十二時に儀式があるらしいから、たぶんその一時間後ぐらいにはこちらに連れて来る。だから、一時ぐらい――それと、はい」
彼女は口を動かしながら、同時進行で空間収納に手を突っ込んでいた。
そして中からドサドサと魔物を取り出してくる。
見覚えのあるチャージボア、それから大きな鳥の魔物、もこもこした白い毛のヒツジのような魔物。鳥とヒツジは三匹ずつで、チャージボアが一匹だ。
「……家の倉庫にあったいらない布がたくさんある」
続いて、メノさんは大量の真っ白な布を空間収納から引っ張り出して、俺や葵にぽいぽいと渡してくる。
「……捨てる予定だった」
「めちゃくちゃ綺麗ですし、新品っぽいですけど?」
「……買ったけどいらなくなっただけ。それと、レストバードとクラウンシープの毛は、布団とか枕の材料にちょうどいい。魔石とお肉だけ取って燃やす予定だったけど、なんとなく持ってきた」
「なんとなくですか?」
「……そう、なんとなく。だから別に、アキトのために持ってきたわけじゃない。だから、アキトが私に恩を感じる必要はない」
視線を斜め下に向けながら、メノさんが言う。
これは、あれか。
今日出掛けるときに、『与えられる側の気持ちを考えて』と言っておきながら、自分が施しをしている立場だと自覚しており、言い訳してるんだな。
ツンデレだったか、メノさん。
葵たちの顔を見合わせて、思わず笑ってしまっていると、メノさんが不満そうにこちらを睨む。
「……それと、やっぱり私の家もちっちゃくて簡単なものでいいから建てて。時間がある時でいい」
「ふふっ、ありがとうございます」
どう考えても、俺たちに魔道具とかの恩返しをさせる機会を与えてくれているとしか思えない。しかしあまりそういう態度は慣れていないのか、『ちっちゃくて簡単』という言葉を付けているところがなんとも、メノさんらしいなと思った。
「……なに笑ってるの」
「はははっ、すみません。メノさんはやっぱり、優しい人ですね」
俺がそう言うと、彼女は拗ねたように「頭おかしい」と口にするのだった。
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