第11話 再会ミサイル
木に近づいて鑑定をしてみると、『世界樹』となんとも重要そうなワードを見ることができた。気になるのは『世界樹■■■』というように、見えない部分があること。
あともう一つ気になるのは、大量の赤い果実が実っているということだ。
「絶対美味しいやつ――でも、絶対高いやつだろ」
昨日の魔鉱石事件が思い出される。二億円の椅子だ。
あの果実はいったいひとついくらするのやら……。
そんなことを考えて顔を引きつらせていると、果実が一つ落下してきた。しかも俺の丁度真上にあった果実で、綺麗に手元に落下してくる。まるで、俺に食べろと言っているかのように。
「……え? もしかしてこの世界樹、意思とかあったりするの?」
ファンタジーすぎる。魔法が使える時点で十分ファンタジーだけどさ。
ま、まぁ視界に映っているだけで数百個はありそうだし、一個ぐらい食べてもいいよね? ほら、落ちてきたし、大事にして腐らせてももったいないし。
リンゴと桃を足して二で割ったような見た目のその果実を鑑定してみると、『世界樹の果実』という『んなことわかっとるわい』って感じの結果が出てきた。
情報を得るのは諦めて、がぶりと皮ごとかじりついてみる。さすがに毒はなかろう。あっても大丈夫だけど。
「――うんまっ!」
これめちゃうちゃ美味しいんですけどぉ!
りんごに近い見た目だな――と思ってはいたが、触感も味もリンゴに近いものだった。そこに、多少桃の甘みが加わっているような感じ。
あっという間に、芯を残してすべて食べ終えてしまった。種は無かったし、みずみずしくて食べやすさとしても抜群である。
そして食べ終わったタイミングで、ぽとりとまた果実が一つ手元に落ちてきた。
やっぱり、俺に渡すために落としてくれているような感じがするな、世界樹さん。
さすが異世界ということなのか、それともさすが世界樹ということなのか。まだこの世界をよく知らない俺にとっては、未知である。
「……それにしても、やっぱりこの世界樹が結界を作ってるっぽいよな」
二個目の世界樹の果実を食べつつ、そんなことを呟く。
空にかかる大きな膜は、どう見てもこの世界樹を中心にしているように見える。この結界がはたして魔物の侵入を防ぐものなのかはわからないけど……その辺りはメノさんに聞いてみないとわからないな。
この世界樹はとても重要なものだと判断し、俺はこの木と洞窟の拠点を一直線で繋げることにした。川沿いを歩けば迷わずに行くことができるのだけど、それだと直角に折れ曲がって進むような感じになるので、少し遠回りである。
斜めでも進めないことはないのだけど、ある程度感覚だよりになる感じなので、綺麗な道があるに越したことはない。
というわけで、伐採開始である。
洞窟に戻り、そこから必要最低限のジャンプで世界樹の位置を確認しつつ、木々を伐採しながら一直線に進む。道幅は十メートルほどあるが、元々この辺りの木々は一つ一つが大きいので、生えている感覚も広い。だからそこまで大量に伐採が必要になる訳ではなかった。
倒した木々は、邪魔な枝をカットして道の脇に並べておく。これで少しは道っぽく見えるだろう。
三時間ほどかけて世界樹と洞窟とを繋ぐ道ができた。ステータス様様である。
仮に俺が地球で同じことをしようとしたら、いったいどれほどの時間がかかるのやら。
「……さて、解決した問題はあるが、それでも問題はまだ山積みだぞ」
世界樹の結界がどこまで強力なのかはわからないけど、こいつで魔物の危険がなくなったとしても、魔素問題は解決していない。そもそも俺は魔素を全く感じていないから、濃いとか薄いとかがよくわからないのだ。
そこは俺の手が出ない領域だと判断するにしても、問題はまだある。
家がない。大問題である。
生贄の子が海へ流されるのは明日だというのに。
孤児院で暮らしていた子が、洞窟暮らしになるというのは、どう考えてもグレードダウンしていると思うのだ。
だから、せめて家を建ててあげたい。俺は洞窟で十分だから、辛い思いをしてきた生贄の子には普通レベルの生活環境を整えてあげたいのだ。
世界樹の果実もあげよう。あれでジュースも作れそうだな。
そして魔物を狩って肉もたくさん食べさせてあげよう。メノさん曰く、魔物はレベルが上がるほどおいしくなるとのことだったので、ここのお肉はきっと彼女も気に入ってくれるはずだ。
「――それに日本人として、なんとしてもお風呂は提供してあげたい……!」
幸い、木材は大量にあるし、魔鉱石という便利素材はある。ただひとつ問題があるとすれば、俺に建築の知識がほとんどないということだ。
単純に板を組み合わせた小屋のようなものは作れるだろうが、はたしてそれを家と呼んでいいのか……。
世界樹を背もたれにして、腕組みして悩む。
メノさんに頼んで、建築関連のことが書かれた本でも入手してもらうか?
いやでも、メノさんにはお世話になり過ぎているからこれ以上頼むのもなぁ……それに、この世界の本がどれほど貴重な品かもわからない。
いったいこれまでに、メノさんは俺のためにいくらぐらいお金を使ったのだろう……そしていったい、俺はどうやってその恩に報いていけばいいのだろうか。
「……悩みはつきん」
ぼそりと呟いたところで、右側から足音が聞こえてきたのでそちらに顔を向ける。メノさんが来たのだろうか――そう思ったのだけど。
「…………」
目の前の光景を、すぐには信じることができなかった。
俺の視線の先には、一人の黒い髪の少女が立っている。見たことのないようなデザインの白のセーラー服を着ており、彼女は俺と目が合うと、目元を腕でこすった。
「……あ、
よろよろとした足取りで、空気を掴もうとしているかのように手を伸ばした。
彼女は目をこすっていた腕を下ろし、顔を上げる。その顔はどう見ても、俺の妹だった。
彼女の口は歪み、目は赤く充血している――だけど、笑っていた。
「――お兄ちゃんっ!」
懐かしい――もう二度と聞くことができないと思っていた声が、俺の鼓膜を震わせる。
葵が俺を呼ぶ声を聞くと、ようやく俺の目にも涙が浮かんできた。ようやく、頭が現実に追いついた。
目じりにたまる涙を指で拭う――その瞬間『チュンッ』という甲高い音が聞こえて、俺の身体は猛烈なスピードで後方に吹っ飛ばされた。
「――うぐっ」
大量の木々をなぎ倒し、ようやく止まる。一瞬息も止まったが、すぐに回復した。
視線を下に向けると、俺のお腹には葵が抱き着いている。しかも涙を俺の服で拭いている様子。
「いやいやいや!? なにそのスピードと威力!? イノシシくんもびっくりだぞ!?」
「イノシシくん?」
顔を上げ、葵が首を傾げる。あぁ、本当に葵だ。葵そのものだ。
「あぁ、知らないのも無理はないか――本当に葵、なんだよな? 俺の幻覚とかじゃないよな? なんで? どうして葵がここにいるんだ?」
「うん。正真正銘、
そう言って、彼女は再度ぎゅっと俺の胸に抱き着いてくる。ミシミシと体がきしんでいる気がするけど……え? キミ、何レベルなの? 痛くて感動の涙が引っ込んだんですけど。
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