第12話 最強五十嵐家



 葵ミサイルが俺に直撃した。


 もう二度と会えないと思っていた俺の妹は、どうやら神様の好意によってこの世界に転生を果たしたらしい――それだけでも十分衝撃なのだけど、さらなる衝撃が俺には待っていた。


 しばらく兄妹で、『良かった』『本当に良かった』と言い合ったあと、お互い少し落ち着きを取り戻す。


「いまね、合体してるの」


 葵は少し自慢げに、そんな意味のわからないことを言った。


「合体!? ど、どういうこと!?」


「えっとね、あの小さな神様――アルディア様がね、『人族として転生するなら百年待つ必要がある』って言ってたんだけど、魔物とか精霊だったら、すぐに対応してくれるって言ったから、私いま、魔物なの!」


「葵って魔物なの!? ――そ、それって大丈夫なのか? 身体は平気なのか?」


「すごく健康体だよ! それに、お兄ちゃんなんて亜神なんでしょ? いちおう人族に分類されてるみたいだけど、ほぼ神様じゃん」


「……え? 亜神?」


 なにそれ、初耳なんですけど?


「羽の生えたお姉さん人も一応人族らしいんだけど、『立場が私より上になっちゃった』って言ってたよ」


「えぇ……なにやってんのあの神様」


 アルディア様が俺に手を向けているとき『種族の改変を行います』みたいな言葉がいろいろ聞こえていたけど、最後のほうは聞き取れなかったんだよな。もしかしたらあの時、『亜神』という言葉も混じっていたのかもしれない。


「ま、まぁそれは聞かなかったことにするとして……魔物ってどういうこと? 葵、普通に人間の体をしてるけど」


 頭を撫でてみたが、普通に人の髪の感触だ。病に伏せていた彼女を思い出して一瞬辛くなったけれど、今目の前でくすぐったそうにしている葵を見て、再度涙が出てきた。


「もう泣かないの――じゃあ見せるね~」


 そう言うと、葵の身体が虹色に輝いた。葵とその光は少しだけ上に昇ってから徐徐に強くなっていき、体の輪郭をとらえられないほど強く発光する。やがてその光は赤、青、緑、黄色、紫の五つに分かれ、地面に降りていく。


 光がおさまったころには、五匹のスライムがいた。


「……す、スライム? つまり、スライムが合体すると葵になるってこと?」


 理解が追いつかない。正解がわからない。はやく人型に戻って説明してくれと思っていた矢先、再度スライムたちが強く発光した。


「……おぉ」


 口にせずとも、想いが通じたようで嬉しい。これが兄弟愛の成せる技ってことか。

 なんてことを思っていたのだけど。


「こっちが普通状態なの」

「お手伝いたくさんできるよ!」

「一番これがおススメって言われたよ」

「兄上の助けになりたい」

「人格が分かれてるらしい」


 青、黄、赤、紫、緑――それぞれのスライムが、それぞれ人型になった。

 違う、そうじゃない。人型になって欲しいとは思ったけど、そうじゃないんだ。



 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆



 五人の葵はそれぞれ白のセーラー服を身に着けているが、髪の色やリボンがそれぞれの色を示してくれているので、どの葵がどの葵なのかはすぐにわかる。表情もちょっとずつ違うし。


 そして元の葵は百三十五センチほどの身長だったが、現在は百二十センチほどになっている。七歳の頃の葵って感じの見た目かな。


「……よし、じゃあ整理するぞ。まず、葵たち――っていうのも変な感じだけど、ともかく葵の種族は『ミソロジースライム』。全員が葵ではあるが、別れた人格によって個性が出ている。合体すると、昔の葵になる。人化のスキルは、どっちの状態でも使用可能」


「そんな感じでござる」


「……紫の葵、個性強くない?」


「好きだった漫画の影響でござる」


 そうらしい。俺の知らないところで忍者ごっことかしていたのかもしれないなぁ。

 そして彼女たち、全員がレベル2500らしい。合体状態では、5000になるとのこと。


 タックルを食らった時からレベルが高そうだなぁとは思っていたけど、予想通りのレベルの高さだった。メノさんに伝えたら、また肩を落としてしまう気もする。


「お母さんはね、人化までもう少し時間がかかるんだって」


 青色の葵がそう言いながら、上を見上げる。


「――母さんも転生してくるのか!? 本当に!?」


 もう一生分驚いた気がするんだけど、まだ驚きは続くらしい。

 葵たちは「もう転生してるよ?」「ここにいるでござる」「気付いてなかったんだ~」と騒ぎ始める。彼女たちは全員、世界樹の幹をぺたぺたと触っていた。


「……えぇ? まさかこの世界樹が、母さんなの……?」


 木の葉を見上げながら、呆然と口にする。

 すると、まるで肯定するかのように、果実が六つ――人数分ぴったり落ちてきた。


「展開が急すぎる、頭が追いつかん。――それにしても母さんも葵も、本当によかったのか? 人の姿になれるとはいえ、人じゃないんだぞ?」


「私もお母さんも、即答したよ。だって健康な体でみんなにまた会えるんだもん。魔物だとか人だとか精霊だとか、ちっちゃい問題だよ」


 そう言って、青の葵が笑顔を浮かべた。他の四人も同意するように頷く。

 逆の立場だったとしたら、俺も同じことを言いそうだなぁ。




 五人の葵にはそれぞれ名前を付けることにした。

 青の葵、赤の葵、緑の葵、黄の葵、紫の葵――全員が葵であることには間違いないのだけど、葵たちが『名前を付けて』とせがんできたので仕方がない。


 青色の葵は、ソラ。

 赤色の葵は、アカネ。

 緑色の葵は、ヒスイ。

 黄色の葵は、ヒカリ。

 紫色の葵は、シオン。


 俺の限られた語彙力から必死に抽出したにしては、まぁまぁいい名付けができたんじゃなかろうか。母さんが人化するまで名前を付けるのを待つという手段もあったのだけど、葵にもその時期がいつになるのかわからないから俺が決めることになった。


 反応は上々、大満足の様子。


「一か月ぐらいこの世界のこととか魔法のこととか色々お勉強してきたんだよ! だからサポートは任せて!」


 い、一か月ぐらいお勉強してきたぁ? 俺がこの世界に来て、まだ一日しか経っていないんだけど……いったい時系列どうなってんだ。






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