第9話 生贄情報とドヤ顔




 魔鉱石焼肉事件に関して、お咎めは無しだった。

 この島の物は好きなだけ好きなように使っていいとメノさんは言ってくれたのだ。まぁ、お肉を焼いたことを伝えた時は引かれてしまったけど。


 開き直ってもう一脚椅子を作り、焚火を挟んでメノさんと話をする。


「……まずは、生贄の情報から」


「ありがとうございます。こちらからは調べることが難しくて、メノさんが手伝ってくれてすごく助かります」


 頭を下げてお礼を言うと、彼女は「アキト、やっぱり変わってる」と口にした。ぼそぼそと言っている感じだったから、たぶん独り言なのだろう。


「……前に少しだけ話したけど、エルダット大陸には、主に人族が住んでいて、国家もいくつかある」


「はい」


 これは、メノさんから前に話を聞かせてもらった。

 四つの大陸にはそれぞれ人族、魔族、精霊族、竜人族が住まう大陸がある。


 ただ、これはあくまで『主に』という話だ。というのも、この世界に住んでいる人のほとんどは、全ての種族の血を引いている。


 遺伝の強さによって身体的な特徴がでたりでなかったりするらしいが、人族の大陸に耳の長い精霊族(俺的にはエルフと言ってくれたほうがわかりやすいけど)のような人がいたり、精霊族の大陸に竜の尾をはやした人などが普通に生活しているらしい。


 だからこの世界にとって、種族とはあってないようなものらしいのだ。

 だが、一部ではそうでもないようで。


「……エルダットの南西にある国、イソーラは人族至上主義。混血は悪としている。そこで、別の種族の特徴が表れた女性は、海に流すらしい」


 その後も、メノさんは淡々と――しかしどこか怒りを滲ませるようにしながら、俺に色々と教えてくれた。


 生贄の頻度は年に一回。

 成人(アルカディアでは十六歳以上)の処女に限る。

 病気に侵されていないこと。


 これらの風習は、例えば『成人男性を生贄にしたら災いが起きた』とか、そういうことの繰り返しで定まったらしい。少なくとも、二百年以上はこの状態が続いているとのことだった。ちなみに、混血の男性は成人次第国外追放らしい。


「……人族至上主義なのは知っていたけど、こんなことをしてるのは知らなかった」


 メノさんは俺への説明を終えると、悔やむように唇を噛む。

 その姿を見て、俺はなんだか嬉しくなった。


 前にメノさんが『知らなかった』と言った時にも思ったのだけど、この世界の人は、見て見ぬふりをしていただけじゃなかったんだとわかったから。


「その、生贄に該当する人はいたんですか?」


 十六歳以上の混血の女性が生贄になるということはわかった。

 だけど、仮にその人族以外の特徴が出ている女性が現在十歳だった場合、これから六年もの間辛い思いをし続けなければならないということだ。


 指をくわえて海に流されるのを待つというのは、俺としては容認できない。

 どうにかして、迫害のような状態から解放してあげたい。

 メノさんは、俺の質問に対しさらに苦い表情を浮かべた。


「……必ずしも、混血である必要はない。あくまで優先して生贄になるだけ。年に一回は、神への供物として必ず儀式は行われる」


 どうやら十六歳以上の女性が必須条件で、混血は必須条件ではないらしい。


「ちなみにいまのところ、混血の該当者は一人だけだった。名前はリケット。白髪赤目という魔人族の特徴を持っている十六歳――明後日に海に流す儀式が行われるらしい」


「一人か――って、明後日!?」


 そりゃ苦しい思いをしているなら、早ければ早いほうが良いと思う。

 だけど、いまの俺が暮らしているこの環境――元いた場所より悪化したりしません?


「そのリケットさんって、どんな扱いを受けているとかわかりますか?」


「……孤児院で暮らしているみたいだけど、あまり良い扱いとは言えないらしい。でも、最低限の衣食住はある」


「なるほど」


 その『良い扱いを受けていない』の程度にもよるのだろうが……とりあえず、監禁とかされて暴力を受けているとかじゃなくて安心した。もしそうだとしたら、今日にでも無理やり助け出したいところだった。


「……イソーラの人間がリケットを海に流したら、目につかないところから私がこの島に運ぶ。この島の海岸沿いに古い小船や木片は見つけたけど……一応」


「そう、ですか……」


 それはきっと、以前の生贄の子が使った小舟なのだろう。

 メノさんも魔物は間引いていると話していたけど、島全体を毎日くまなく探索していたわけではないだろうし、あまり自分を責めてほしくない。


「すみません、色々苦労をおかけしますが、どうかお願いします」


 そう言って頭を下げる。メノさんは「いい」と短く返答した。

 頭を上げたところで、ふと疑問に思ったことがあった。メノさんはどうやって海の中心にいる少女を、ここまで連れて来るつもりなのだろう?


「転移って、他の人と一緒に転移したり、目に見えている範囲ならどこでも移動できたりするんですか?」


「……どちらも無理、転移は自分だけ。それと、行ったことがある場所だけ」


 じゃあどうやってその子を迎えに行くつもりなんだろう?

 首を傾げて、疑問に思ってますよとアピールしてみると、彼女は話を続けた。


「……転移は使わない、これで行く」


 彼女はそう言って立ち上がると、椅子の後ろにテクテクと移動する。

 そして――、


「――うわっ、すご……」


 語彙力、消失した。

 彼女の背中から、ブワッと魔力でできた大きな翼が出現したのだ。それは転生前に見た羽の生えた女性と同じような翼で、柔らかな質感が伝わってくるような繊細なデザイン。


 魔量操作も、極めるとこんなことまでできるようになるのか……!


「すごく綺麗ですね」


「……ふふん」


 心からの賛辞を贈ると、メノさんは少し気持ちが上向きになったのか、自慢げに胸をそらした。多少のふくらみが、彼女が女性であると主張している。


 七百歳以上と聞いてちょっと距離を感じてしまっていたけど、可愛らしいところもあるんだなぁ。なんだか葵を思い出して、つい頭を撫でたくなってしまった。




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