第7話 超便利素材きた!




 それから、俺はメノさんからの「どこで寝るの?」という質問に対し、できたてほやほやの洞窟をドヤ顔で紹介した。


 わりと無表情に見える彼女が顔を引きつらせるということは、あまり良い環境とは言えなかったのだろう。地面を平らにするの、頑張ったんだけどなぁ。


 部屋の隅っこに木の上に無造作に置いた生肉があるからだろうか。あと暗いとか?


「……これあげる」


 不憫に思われてしまったのか、彼女は俺に色々な物資を分け与えてくれた。

 光が灯る魔道具、火が出る魔道具、水が出る魔道具、そしてバスケットに入ったサンドイッチなどなど。


 生贄の少女を幸せにするどころか、施しを受ける立場になってしまっている件。

 いつか何かで恩返しさせてもらおう。しっかりと、感謝の気持ちは心に刻んでおく。



 俺に物を渡して一通り説明したあと、メノさんは転移で帰っていった。これまた俺の頼みを聞く形になってしまっているのだが、生贄について調べてくれるとのこと。


 幸い、目星は付いているらしいので、今日の夜には一度報告に戻ってきてくれるらしい。本当に親切で優しい人だ。


 恩を返すよりも前に、さらなる恩が増えていってしまっている状態だ。


「とりあえず……トイレを作るか」


 メノさん、これに関しては恥ずかしさもあったのか、口数が少なかった。

 もらったものは、ティッシュ箱のような木製の箱に入った紙と、捕まえたばかりのピンポン玉サイズのグレーのスライム。


 どうやらこのスライムは排泄物を食べるらしく、その処理に使われているようだ。この島だけでなくこの世界に広く生息しており、危険性はないらしい。神様がそういう風に魔物を創ったのかなぁなんてことを思った。


 俺は洞窟の近く――岩壁の少しくぼんでいたところをさらに堀りすすめ、そこの地面に深さ一メートルほどの穴をあけ、貰ったスライムを投下。


 さすがにスライムに汚物をダイレクトアタックするのは少し気が引けたので、穴は真っすぐではなく途中で斜めにしておいた。


 用を足したあと、水が出る魔道具を使用すれば完璧――! たぶん。


 そんな作業をしていると、徐々に陽が落ちてきた。たぶん五時過ぎぐらいか。


 メノさん曰く、この世界は一日を24時間――一年間は360日とほぼ地球と同じような形になっているらしい。時間に関しては、過去の地球の転生者が提案したとのこと。


 どうやって一秒を計算しているんだろうと思ったけど、メノさんが言うには一秒を計測するのに都合の良い鉱石があるらしい。


 それはいいとして。


 俺は洞窟内に入り、光の魔道具のスイッチを入れた。

 長財布ぐらいのサイズの金属製の板――その上部にガラスの半球が付けられていて、下部にはレバーのスイッチ。文字は読めないが、たぶん『オンオフ』的なことも書かれている。ガラスの内部には、なにやら魔法陣のようなものが描かれていた。


「ひとついくらぐらいするんだろ」


 洞窟の中心にその魔道具を置くと、部屋全体が明るくなった。結構な光量である。


 仕組みも全然わからないが、メノさんによると、どうやらこれの発案にも地球人が関わっているらしい。俺の出る幕はなさそうだ。地球産の物は、もう過去に出尽くしてそうだし。


「肉もどうにかしないと……あぁ、あとコップも作りたい」


 水の魔道具からでる水は飲用可とのことだったので、すでに飲ませていただいた。

 形は恵方巻ぐらいの筒で、片側にボタンがあり、その反対側の魔法陣から水がちょろちょろと出るようになっている。蛇口とまではいかないが、そこそこの勢いで出てくれる。


 コップは無くてもなんとかなるし、とりあえず肉の調理からだな。


「石で焼けるかな」


 石を火で熱して、その上に肉をジューっと。やべ、想像したらお腹空いてきた。

 メノさんからもらったサンドイッチは、明日の朝も食べたいからちょっと残しておくことにしよう。


「中でやるべきか外でやるべきか……」


 空気的には外のほうが絶対に良い。だけど、魔物がでてきたら困るしなぁ。

 みんなあのイノシシぐらいの強さだったら大丈夫そうだけど……その辺り、メノさんに確認し忘れていたな。


 んー……ひとまず洞窟でやってみるか。やばそうだったら外に出ることにしよう。空気がこもらないようになっているはずだから、きっと大丈夫。


 というわけで、外から落ちている枯れ木をいくつか運んでくる。


 そして次に、土台となる石、そして鉄板代わりの石も同様に運んでくる。レベルが高いおかげでまったく疲れることはなかった。いったい俺は何トンまでなら持ち上げることができるのか。感覚的に、何千トンとかそういうレベルな気がする。


「なんかちょこちょこ黒い石があるな」


 これはなんだろう? 黒曜石てきな感じで、割ったらナイフみたいにできるのだろうか?


「こういう時のための鑑定か」


 俺の鑑定――神様にレベルアップを忘れられたかのようにレベル2のままである。あるだけありがたいのだけど、基本的に物の名称ぐらいしかわからないんだよな。


 ちなみにイノシシ肉を鑑定すると、『チャージボアのバラ肉』と出てくる。せめてこのイノシシくんが魔物かどうか、毒があるかどうかぐらい出てきてほしかった。


 俺がさっきメノさんに確認しておけば何も問題はなかったんですけどね! どうもすみませんでした!


 でもって、この黒い石はというと、


『魔鉱石』


「……なんかレア度が高そうな名前だ」


 名前だけ見ると希少そうに見えるだけど、その辺にゴロゴロ転がっているし、壁面にもちらほら見えるからそんなに高価なものとは思えない。


 とりあえず、『魔』という文字が入っていることだし、魔力でも流してみるとしよう。


「……馬鹿みたいに入るな」


 手に持っているのは、野球ボールと同等サイズ。しかし今日ずっと持ち歩いていた枝の数倍の魔力を流しても、まだ魔力が入っていく。


……爆発したりしないよね?


「おぉ?」


 途中で急に石が柔らかくなった。軽く握ると、ゴムのように簡単に形を変える。試しにその状態で魔力の供給を止めてみると、魔鉱石はその形を維持したまま固まった。


「これは……色々使えそうだな」


 もう一度魔力を魔鉱石に流し込み、その状態で形の変更を試みる。今度は手の力ではなく、魔力を操作して形状変化を試してみた。


 すると、なんということでしょう。


「めっちゃ便利素材きた」


 平らな鉄板をイメージして魔力を薄く広げると、まさにイメージ通りに魔鉱石が形を変えたのだ。供給を止め、石を軽く叩いてみる。カンカンという高めな音がして強度もなかなかありそうなことがわかった。


「熱伝導率次第で、鉄板できるじゃん」


 創作の幅が一気に広がった気がする。この素材、見つけ次第確保することにしよう。




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