第6話 世界で一番みたいです
俺たちは伐採していた木に腰掛け、そこで話をすることにした。まずは俺から、ということで、少女に俺がいま置かれている状況を簡単に説明。
俺は転生し、この世界にやってきた。
神様から与えられた使命――厳密には依頼は破棄されたから頼まれていないのだけど、生贄の女の子のための楽園をこの島に作りたいということ。そして、俺はこの島から出ることは禁止されているということも。
実際のところ、島への隔離に関しては破棄されたのか破棄されていないのかわからないけど、現状島を出るつもりはないので、その通りに伝えておいた。
彼女はその辺りはうんうんと頷きながら聞いてくれていたのだけど、ステータスを伝えたところで、
「頭おかしい」
そう言った。なんだか眠たそうな目が、ジト目に見えてきたなぁ。
いちおう証明になるかはわからないが、石を指でつまんで粉砕してみたのだけど、彼女は冷めた目を向けるだけだった。
「……私、レベル3436。これはこの世界で二番目――だった」
「…………お、おぉ」
「一番目の人は、4200ぐらい。いまはあなたが一番」
「な、なんかごめんなさい」
「……あなたが謝ることじゃない」
き、気まずいぃっ! ぽっと出の努力を全くしていない俺が世界で一番? そこまでする必要ありましたかね神様ぁ!?
というかこの女の子、世界で二番目に強かったの? 本当に見た目通りの年齢? 実は百歳超えてますとかそういう感じ? そんな重要人物が初エンカウントなの!?
なんだか落ち込んでしまっている様子の少女を見て、どうしようどうしようと悩んでいると、彼女は「私のほうこそ、ごめんなさい」と口にした。
「……生贄とか、知らなかった」
声の調子、そしてぎゅっと握られたこぶしを見ると、彼女が心から悔やんでいるのが伝わってくる。優しい人だ。
「いや、それこそあなたが謝ることでは――そもそも俺は、辛い思いをしてきた人を幸せにしたいって想いが強くあるんです。たぶんそれが、俺の前世の未練みたいな感じなんだと思います。だから、俺はこうしてそんな役目を担えることが、嬉しいんですよ」
そう言うと、彼女は顔を上げて俺と目を合わせる。ジッと見つめられたかと思うと、
「……私も、手伝う?」
そんな提案をしてくれた。
「そ、それはありがたい話ではありますけど……大丈夫なんですか? ここ、無人島らしいですし、魔物もいるみたいですし」
「元々、この島の魔物は私が間引いてる。大丈夫、外にここのことは漏らさないから」
だとしたら、かなり嬉しい提案ではある。
俺がいま一番不安に思っていることは、トイレットペーパーがないことなのだ。どうにか解決策を教えてほしい。
あと、独り言で寂しさを紛らわせていたけど、話し相手がいてくれるのは非常にありがたい。俺って案外寂しがり屋なのかもしれないと自覚していたところだ。
「……一つ、お願いがある」
「な、なんでしょう」
さすがにタダではなかったようだ。生贄の子の生活環境に影響が出ないものだといいなぁ。そうだったとしたら、断らないといけないかもしれないから。
「……たまに、話をしたい。不老の人って、あまりいないから」
彼女の表情に、影が差す。先ほど生贄のことに気付かなかったと言った時よりも、ずっとずっと暗い雰囲気で彼女は言った。
「もしかして、あなたも不老なんですか?」
「……私はもう、七百年以上生きてる、あなたで、不老のスキル所持者は八人目」
七百年――っ!? それは……なかなか想像しづらい年月だ。
彼女から見たら俺なんて赤ちゃんみたいなものなのかなぁ……その年齢に実際なってみないとわかりそうにないな。
しかし不老の人って案外いるもんなのか。……てっきり、俺だけ時間の流れから取り残されると思っていたけれど、どうやら彼女によると不老仲間がいるらしい。
「えっと、あなたの――」
「……私の名前はメノ」
「――メノさんのお願いは、必要ないですよ」
なんだか神様に『お断りします』と言った時と同じような感じだなぁと思いながら、俺はそう言った。
「お願いとかにしちゃったら、なんだか義務感で仲良くしてるみたいじゃないですか。まだ出会って一時間も経っていませんが、俺はあなたを親切な優しい人だと思いました。だから、仲良くしてくれると嬉しいです」
意識せずとも、俺は自然と笑顔を浮かべていた。握手が通じるのかはわからないけど、隣に座るメノさんへ右手を差し出して。
すると彼女は、じっと俺の目を見つめてから、俺の手を見て、握り返してくれた。小さく白い手が、俺の手に温もりを加える。
「……よろしく、アキト」
「はい、こちらこそよろしくお願いします」
そして、お互いにぎゅっと手を握った。
最初に出会ったのがメノさんで、本当に良かった。
彼女がこの世界において『大賢者メノ』と呼ばれ、四大陸全てにその名をとどろかせていることなんて知らない俺は、暢気にそんなことを思ったのだった。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
こちらの話が終わったあとには、メノさんからも色々話を聞いた。
この世界について、どんな人がいて、どんな国があって、どんな情勢なのかとか。
あまり一気に詰め込み過ぎても頭がパンクしそうだったので、とりあえず大まかな部分だけ。
その話が一段落したところで、メノさんは木から腰を上げた。
「……とりあえず、家から色々持ってくる」
「結構近くなんですか?」
「遠い。でも、転移できる」
転移……! テレポートってことだよな? すごい。
そんなわけで、メノさんは俺の前から一瞬にして消えた。足元で輝く魔法陣的な光がとても綺麗だったのが印象的である。そして五分後にはまた戻ってきた。手ぶらで。
「? ……どうしたんですか? 忘れものですか?」
「取ってきた」
そう言って彼女は、右手を前方に伸ばす。するとその右手の先が、まるで空間の裂け目に入り込んだように見えなくなった。手を引くと、彼女の手にはサンドイッチが握られていた。
「それは……アイテムボックスみたいな?」
「……そう、転移と同じ空間魔法の一種」
いいなぁ。俺もそのスキル欲しかったです。十分すぎるぐらい与えられているから、文句は何もないんですが。
「……はい、あげる」
「どうもありがとうございます」
ありがたく頂戴する。肉と野菜が挟みこんである、ベーコンレタスサンドみたいな感じだ。味も似たような感じ――なのだけど、美味しい。
素材が良い物なのか、労働のあとだったからか、それともこの世界に来て初めての食事だからか、ともかくとても美味しく感じられた。
しかしアレだな……なにも彼女に返すものがなくて、申し訳ない気持ちになる。
この島の物でなにか売れるものとかないのだろうか? それを採取して、俺が彼女に渡すみたいな。
そんな話をしてみると、彼女は首を横に振った。
「……この島の物は、全てが特殊。植物も、魔物も、鉱石も。それに『
「おおう……七人しか入れないっていうのは、どうしてですか?」
「……魔物が危険すぎるから」
俺、これからそんな島で生活するんですか?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます