第5話 遭遇、異世界人



 ステータスに任せて岩を破壊して岩壁の中を進んだ。

 もしかしたら『素手でいけるのでは?』とおふざけ半分で試してみたところ、本当にその通りだった。なんなら、手刀が突き刺さるレベルである。しかも全然痛くないし。


 たぶん一時間ぐらいかかっただろうか。穴を掘る作業より、瓦礫の撤去にかなり時間がかかってしまった。


 木材を使った人力ブルドーザーによって、地面も割と綺麗に整備できたと思う。洞窟の外には岩の山が詰みあがっているけれど、まぁそこは目を瞑ろう。


 こうしてようやく、住めるレベルの環境が出来上がった。めちゃくちゃ暗いけど。


 入口から入り込む光と、空気穴のためにあけた数か所の穴から、ほんのわずかに光が差し込んでいる状態だ。数メートルの通路の奥に、縦横高さ三メートルぐらいの居住空間の完成である。


「……全部そろった……ひとまず安心だ」


 すぐ近くには川がある、食料も、たぶんこのイノシシ肉が食べられそう。そしてこの洞窟も、入り口を大木とかで塞げば何かが侵入しようとしたら音で気づくことができるはず。不安はまだ残っているけれど、最低限は大丈夫だと思う。


 壁に背を預けて、一休み。はー、いい運動をした。


 社会人になってからは運動なんてまったくしていなかったからなぁ……あの時の体だったら、ちょっと走っただけでバテバテになっていたことだろう。改めて神様に感謝。


「葵と母さんも、なんとかうまくやっていってほしいもんだ。俺はなんとかやっていけそうだよ」


 洞窟の中だからか、自分の声がこもって聞こえる。

 葵と母さんは転生ではなく来世って話だったから、二人とも赤ちゃんになるってことなんだろうな。


 すべての記憶を忘れて、また一からか……二人が記憶をなくすというのは寂しい気持ちはもちろんあるけれど、幸せになってくれるのなら、心から嬉しいと思う。


 五分ぐらい休んだら、活動を再開しよう。

 まずは見通しをよくするために、周辺の木々を伐採させてもらうことにしようか。



 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆



「これは画期的……!」


 休憩を終え、黙々と拠点周辺の木々を伐採するなか、とある発見をした。

 最初は枝以外に魔力を込めたらどうなるのだろうと、細長い葉に魔力を込めて木を切ってみたのだが、それで大木を綺麗に伐採することができたのだ。


 しかも、発見はそれだけではない。


 そこに葉っぱがあると想定して、何も持たない状態で魔力を込めてみると、やや透過している薄紫の魔力の剣のようなものができた。集中していないと魔力が垂れ流しになって強度が落ちてしまうのが面倒だが、たぶん慣れでいけるだろう。魔導の極み様様である。


 そしてこれのさらに良い点。なんと形が自由自在なのだ。

 トンカチのような形にもできるし、ナイフ、斧、自分がイメージできるものは、全て形にすることができた。


 イメージは大事って本当だったんだなぁ。ありがとうアニメ知識。


 そんな風に新たな発見もしつつ、俺は精力的に働いた。もちろん必要なことだからというのも理由の一つなのだけど、単純にこういう作業が楽しかったのだ。


 伐採後の切り株が邪魔なので、できるだけ根元から切って地面と平らになるように伐採。そのおかげで、かなりの平地が広がった。本格的に邪魔になったら根っこも引き抜くことにする。


「――よしっ、成果が目に見えるってのはいいなぁ」


 たぶん洞窟から半径三十メートルぐらいは平地にできたんじゃないかと思う。

 伐採した木は五十本を超えていた。


「薪にしたら数年は持ちそうだ」


 詰みあがった木々を眺めながら、つぶやく。


 さすがに全部薪に――なんてことはしないけど、これで家や家具を作ったりすれば――いやでも、壊されるんじゃね? あのイノシシの突進に、普通の家が耐えられるとは思わないんですけど。


「…………ふむ」


 これで生贄の女の子に、幸せな第二の生活を送ってもらうことなんてできるのか……?


「できるできないじゃないな、やらないと。――やる、絶対やる」


 頬を叩き、自分自身を鼓舞するように、声に出す。


 彼女たちは不幸な状態でここにやってくるのだ。絶対に、幸せにしてあげたい。

 魔物がどうやって生まれてくるのかは知らないけど、狩りつくせばある程度安全は確保できそうだし――方法は何かあるだろう。きっと。


「そういう……世界の常識みたいなものが知りたいよな。でも、ここって無人島なんだよ……な?」


 ぶつぶつと腕組みをしながらそんなことを言っていると、森の中に一人の女の子が見えた。鬱蒼とした森の中で、ぽつんと明るい色合いが見えたから嫌でも目に入った。


 青地に水色で模様が描かれたフード付きのマントを身に着けており、肩にわずかに触れるほどの髪は、水色と銀色の中間ぐらいの綺麗な色だった。


 彼女はこちらに向かってゆっくりと足を進めて来る。

 身長は百五十センチぐらい、眠たそうな目つきだが、俺から目を逸らさない。


 あの子が、生贄の女の子……? え? そんな風に向こうからテクテクやってきてくれる感じなの? どうやって来るかは聞いてなかったけどさ、そんな感じなの?


 困惑しながら、徐々にこちらに向かってくる少女を見つめる。

 彼女は俺と十メートルほどの距離まで近づいたところで、口を開いた。


「〇■△、●×◎△?」


「あ、……え?」


 ここに来て最悪の展開! 相手の! 言葉が! わからねぇ!

 いやそりゃそうだよ。ここは日本はおろか地球ですらないんだよ! 言葉が通じるわけじゃないじゃん! 当たり前じゃん!


「あのバカ神――説明が足りてないとかそういうレベルじゃねぇぞ……!」


「? ……あなた、地球人?」


 頭を抱えて恨み節を呟いていると、少女が日本語を話した。

 え? そっちが合わせてくれる感じなの? というか、地球のことを知ってる?


「そ、そうです。日本語がわかるんですか?」


「……過去に地球からの転生者がいる」


「なるほど……」


 だとしても、日本語が流暢に話せているのはすごすぎると思うんですが。え? 日本語が共通語になってるレベルなの? んなアホなことあるかよ。


 しかしやばいな……人に会えてめちゃくちゃ嬉しい。ニヤニヤしちゃいそう。しかもめちゃくちゃ可愛――コホン。


 まぁそれはいいとして、ここって無人島のはずだよな? なんで人がいるんだ? そもそも俺以外に転生者っていたの? まずそこに驚きなんですけど。


 というか、この子危なくないのか? あんな物騒なイノシシがいるのに。


「……創造神様――アルディア様に会った?」


 少女は無表情のまま、質問を続ける。

 俺に手を伸ばしてきたあの少女が、アルディア様だと俺は思っている。うろ覚えだが、記憶の中に『創造神アルディア』という言葉があるし。


「は、はい、たぶん」


 見た目的には完全に年下なのだけど、タメ口で喋るような気分にはなれなかった。いま自分の置かれている状況が、正確にわからなかったから。


「……そう。聞きたいことがあったら、聞いていい。私は、結構物知り」


「ほ、本当ですか!? 助かります!」


「……その代わり、私からも色々聞かせてもらう」


「もちろんです!」


 てっきり俺は一生生贄の子としか接触しないものと思っていたけど、そうでもないらしい。

 なんだか俺の状況とかも知ってそうな人だし……彼女が何者なのかはわからないが、本当にありがたいな。


 本当に、俺はいまわからないことが多すぎるのだ。




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