第3話 レベル9999




 目が覚めると――という表現は正しくないのかもしれない。

 この場合は『気が付くと』という言葉のほうがまだ適切だろうか。


 ともかく、俺は森の中――少しだけひらけた場所に立っていた。周囲には日本で見たことのないぐらい背の高い木が生い茂り、まるで俺を見下ろしているかのよう。


「いきなりすぎない? もっと説明とかあったんじゃないの?」


 ここはどこ? 私は誰? 状態なんですけど。いや、名前はわかるんですけどね。


 幸い、服は着ている。どこにでもありそうな白いシャツと短パン、しかし裸足だ。地面の草の感触がじかに伝わってきて、なんだか子供のころに戻ったような気分である。


「生贄の子のことについても聞いてないし、俺はこれからいったいどうすれば――いや、好きなように生きろって言われたのか」


 危うく指示待ち人間になるところだった。でも少しぐらいアドバイスがあってもいいと思うんですよ俺は。


 あの女の子が手をこっちに向けてから色々声が聞こえてたよな。


「ステータスみたいなやつは見れないのかな――って出るじゃん」


 ステータス画面みたいなものは見ることができないのかなぁと思っていると、ブォンという効果音とともに半透明の画面が現れた。



――ステータス――


名前:アキト・イガラシ

レベル:9999


筋力:999999

魔力:999999

耐久力:999999

敏捷力:999999

器用:999999

運:999


所持スキル:不老 身体操作レベル10 状態異常無効 超回復 剣神 魔導の極み 鑑定レベル2


―――――――――



「…………おぅ」


 やりすぎなのでは? 

 いや、この世界の平均値がわからないからなんとも言えないんだけどさ。レベル10000みたいな人がゴロゴロいる世界だったら、俺はいたって普通だし。


 俺の中にあるゲーム知識で考えると、明らかにチート臭いんですけどね。


 そんなことを思っていると、遠くのほうで狼の遠吠えのような声が聞こえてきた。それに続けて『ギャァオオオ』という何の生物かわからないような鳴き声も聞こえてくる。


「あれが魔物の声――? 怖すぎるんだけど」


 安全確保、どうすればいいんだ? この森でサバイバルしろってこと?

 魔物を阻むための城壁でも作れと? いやその前にメシはどうするんだ。飲み物もない。


「……落ち着け。地球での俺には無理だったことができるようになっているはずだよな?慌てるのはそれを確認してからでも遅くない」


 妹と母の幸せを願ってしんみりしたいところなのだけど、とりあえずそれは状況が落ち着いてからだ。まずは自分が生き残らなければ、生贄の女の子どころではないし。


 とりあえず、やっぱり魔法ですかね。すごく気になります。


「アニメじゃイメージが大事ってよく聞くよな」


 その前に、魔力ってなんだって話なんだけど……これは意識すると簡単にわかった。地球での自分と今の自分を比べれば、不思議な力が全身にみなぎっていたからだ。


「こう、手に集めるようにして、水が飛び出すイメージをしながら――『ウォーター』!」


 周りに人がいないからこそできる発言だ。日本の道端でやったら間違いなく失笑される。もしくは危ない人と認識されて逃げられる。後者が有力かな。


「…………魔法ってどう使うんだよ」


 悲しいかな、俺の手からは何も出なかった。恥ずかしさでじんわり手に汗がにじんだぐらいである。とても辛い。


「魔法は一旦パスしよう! 剣神のスキルを試そう!」


 人間、切り替えが大事である。別に諦めたわけじゃない、他に選択肢がある以上、一つ目でつまずいて時間を浪費するのはもったいないからな!


 幸い、今はまだ昼前っぽいけど、夜になったらさすがに怖い。それまでに、今の状況をなんとかしなければ。


 足元に目を向けながら歩くと、木の傍に手ごろな枝を発見した。杖ぐらいの太さと、バットぐらいの長さの枝である。それを手に取り、軽く素振りをしてみる。


「おぉ、なんとなく振り方がわかる。これがスキルか」


 こうすれば綺麗に振れる。この身体の使い方が適切――そう言ったことが、まるで幼少期から剣を握っていたかのようにすんなりと理解できた。


 昔みたアニメの真似をして、居合切りっぽい形で振ってみることに。

 ドパン――という音がして、手から枝が消えた。


「――やばすぎ」


 自分の身体の動きの速さもそうだし、それを目で追えてしまった自分の視力もそうだし、枝が消滅してしまうほどの力もそうだし……。


「あ、あれはできるのか? 強化みたいなやつ」


 これもアニメ知識である。俺が知っているアニメでは、剣に魔力を流して強化するみたいなことをやっていた。


 もう一度手ごろな枝を探し、そこに魔力を流し込んでみる。こんなにも自分の思い通りに魔力が操れるのは、『魔導の極み』とやらの力なのだろうか?


 ある程度まで魔力を流すと、枝がほのかに輝き、魔力がつっかえるようになった。


「さらに入れたらどうなるんだろ」


 無理やり流し込もうとすれば、まだ微妙に入る。ぐいぐいと押し込むように魔力をさらに追加していると――パンという音が鳴って枝が破裂した。勢いよく破片がほっぺたに当たったけど、痛くはない。


「やりすぎはダメ――と。風船みたいな感じか」


 そしてもう一度、枝を捜索してから魔力を流す。今度はつっかえた時点でストップした。


「これで殴ってみるか」


 トンカチぐらいの役割になってくれでもしたら、時間を掛ければ木の伐採ぐらいできるようになるかもしれない。直径一メートルぐらいの大木だから、普通ならバカみたいな時間が掛かるだろうけど――そこは筋力999999の力を信じることにしよう。


「い、いちおう、軽くにしておこう」


 本気で振りぬくのはその後でも遅くはない。俺の第六感が『全力は止めたほうがいいんじゃない?』とささやいているし。


 木のすぐそばまで歩いていって、先ほどと同じように居合のポーズをとる。あまり力は籠めずに、そこそこの力で振りぬいた。


 そう、振りぬけてしまった。


「――いぃっ!?」


 目の前の大木は、斬るというよりも破壊された。木くずを散らし、幹をえぐられるようにして倒壊。しかもそれだけではない――目測二十メートルほどにある木々たちも、同じようにして倒れていったのだ。


 慌てて木から距離を取って、倒れていく木々を呆然と眺める。


「さすがにこれが平均値ってことは、ないよな……」


 やっぱり俺のステータスは、非常に高いと思ってよさそうだ。




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