第2話 やりすぎパワーアップ



 転生……転生ねぇ。


 あの人の話では、俺は不老不死になって、無人島に隔離されるらしいけれど……そこで生贄の少女を助けろってことだよなぁ。


 見返りの内容を聞いた時点で俺の意思はほぼ固まっているのだけど、一つだけ気になっているところがあって、それをどう伝えようか俺は悩んでいた。


 これはただのわがままなのだけど。


「お悩みのようだね」


 俯き、テーブルに肘を突いて悩んでいると、向かいから高い声が聞こえてきた。


 顔を上げると、そこにはいつの間にか金と白の中間ぐらいの色合いの髪の毛の少女が、身を乗り出して俺のことを見ていた。あの女性と違い、どうやら羽は生えていないらしい。


「……子供? あ、いや、違いますよね」


「あははっ、まぁ見た目は好きに変えられるからね、僕はキミを面接した天使の見習いみたいなもんだよ」


「はぁ……なるほど」


 見た目の年齢的には十歳ぐらい。妹の葵が亡くなった年齢と一緒ぐらいだし、雰囲気が少しだけ葵に似ているから、親近感が湧いてくる。


 成長したら、この子にも羽が生えてくるのだろうか。


「それにしても、キミは本当にきれいな魂だね。不老不死が嫌なの? それとも島での隔離が嫌? 他人を助けるのがめんどくさい?」


 女の子は両手で自身の顎を支えながら、楽し気な様子で聞いてくる。なんだか子供がお仕事に参加しようとしているようで温かい気分になるなぁ。


「喋りやすい言葉で大丈夫だよ? そういうの、気にしないし」


「お、おぉ、もしかして心が読める系?」


「そうそう、読める系読める系」


 さらに身を乗り出して、彼女は足をバタつかせる。あの羽の生えた女性が来たら怒られたりするんじゃないだろうか。大丈夫かな?


「そういえば質問されてたな――えっと、別に不老不死とか隔離に関しては、どうでもいいんだ。俺としては辛い思いをしたであろう生贄の子?たちを助けられるだけでも自己満足できるし――それに、それで葵たち――妹と母親な? その二人が幸せな来世を迎えられるって言うんだから、何も文句はないよ」


 俺の発言に「へぇ~」と感心したような言葉をもらす少女。


「じゃあなんでキミは悩んでるの?」


「心が読めるんじゃなかったのかよ――わかってるんだろ?」


「わかってるけど、間違ってるかもしれないから、いちおうね」


 見習いって言ってたし、外れるときもあるのかなぁ。


 なんかこういうことを口に出すのは恥ずかしいんだけど、気持ちが抑えづらいんだよなぁ。きっとこれも、この部屋の影響なんだろう。


「神様?から頼まれて生贄の女の子を助けるってのが――引っかかっちゃってな」


 そう、ここなのだ。俺が神様?の提案に即答できなかった理由は。


「ふんふん、どうして?」


「助けられる子にとっちゃ、そこにどんな意思が絡んでいようと関係ないことだってのはわかってる。でもやっぱりさ、義務感に基づいてそういう子を助けようとしていたら、いつか自分がその行動に嫌気がさしてしまわないか、不安なんだ」


 数十年の話ならまだしも、永遠にとなるとさすがに不安だ。

 少女は「うんうん、気持ちはわかるよ」と相槌を打って、俺に続きを促す。


「だからさ、できればあのお願いは、断りたいんだ。断った上で、俺は自分の意思で彼女たちを助けたい――もし俺がキミたちの意思にそぐわない行動をし始めたら、煮るなり焼くなりしてもらって構わないからさ――いや、そうすると結局は同じことなのか……?」


 難しい問題である。どうするのが正解なんだろうか。

 腕を組み再度悩み始める俺を見た少女は、再度「へぇ~」と楽しそうに言った。


「本心か……本当に、珍しい魂だね」


「そうかぁ? どこにでもあるような魂だと思うけど」


「そんなことないよ。だってキミみたいな候補が来るまで、審査した魂は億を超えてるからね」


 億ぅっ――!? そりゃまた膨大な量だな……。


「いやー、もうみんなストレスたまりまくりでさ、怖いったらありゃしないんだ」


 そう言って、彼女は椅子におしりを戻すと、眉を八の字に曲げてため息を吐く。

 なんだか本当に葵を見ているようで和むなぁ。


「そんな顔してると、しわができるぞ」


「仕方ないじゃないか。ことあるごとにお小言を言われてたまったもんじゃないよ」


 少女はむすっとした表情で腕を組む。

 その様子が本当に幼い子供みたいで、思わず笑ってしまった。


「……じゃあ生贄の女の子の前に、まずはキミからだな」


 どうせ俺の考えは筒抜けなんだろうし、ちょっとカッコつけたことも言ってみよう。


「ん? どういうこと?」


 いま心を読んでいるのかどうかはわからないが、キョトンとした表情で首を傾げる少女に、「どうせわかってんだろ」と笑いながら言う。


「さっき面接してくれた神様?かな――あの人にいちおう義務のことは断ってみるけど、どっちにしろ転生はするよ。そうしたらキミも怖い思いをしなくて笑顔になれるんだろ?」


 自分より立場が上であろう相手に何を言ってんだと自分でも思うけど、見た目が十歳前後なのが悪いのだ。そう心の中で言い訳しつつ言うと、彼女はぽかんとした表情のあと、「あっはっは!」と大きな声で笑った。


「そうだね――その通りだ。まさか人の身でありながら、僕を笑顔にしようとするとは、恐れ入ったよ!」


 散々笑ったあとに、彼女は目じりを指で拭いながらそう言った。

 慌てて「偉そうなことを言ってすみませんでした!」と口にするが、彼女は気にした様子もなく立ち上がり、俺に右の手のひらを向けた


「キミは良い――すごく良い。キミのような魂を、僕はずっと探していた」


 彼女の手のひらに柔らかい虹色の光がともったかと思うと、それが大きくなって俺の元にまでやってくる。身体まで到達した瞬間、俺の身体の周囲を強い風が渦巻き始めた。


【状態異常耐性レベル3の器を改変、状態異常無効へと変更します】

【自動治癒レベル2の器の改変、超回復へと変更します】


 聞いたことのない声――頭の中に直接響く声が、そんなことを言っていた。


 しかし身体の中で何かがうごめいているような――それでいて活力があふれるような感じがして、それに加えて気持ち悪さまである――まともに思考ができる状態ではなかった。


「キミは僕が力を与えるにふさわしい綺麗な魂を持っている」


【剣術レベル4の器を改変、剣神へと変更します】

【魔力操作レベル2の器を改変、魔導の極みへと変更します】


「生贄の子らだけじゃない、まずは他でもないキミ自身が幸せになるべきだ!」


【レベル上限の器を改変――500、人族の限界に到達。種族の改変を行います】

【種族の器を改変、魔人族へと変更します】

【レベル上限の器を改変――1000、魔人族の限界に到達。種族の改変を行います】

【種族の器を改変、精霊族へと変更します】

【レベル上限の器を改変――3000、精霊族の限界に到達。種族の改変を行います】

【種族の器を改変、竜人族へと変更します】


「こちらからの頼みは撤回しようじゃないか。僕はキミを信じることにした――キミの思うままに生きるといい。そして僕は世界に誓ってキミの願いを叶えてみせよう!」


【レベル上限の器を改変――5000、竜人族の限界に到達】

【創造神アルディアにより、上位種族への変更を承認されました。種族の器を改変、天人族へと変更します】

【レベル上限の器を改変――7000、天人族の限界に到達】

【創造神アルディアにより、最上位種族への変更を承認されました。種族の器を改変、亜神へと変更します】

【レベル限界、9999へ到達しました】

【創造神権限の施行、不老不死の器を改変――不老へと変更し、付与します】


 その声を最後に、頭の中に響いていた声は無くなった。

 頭はガンガンするし、全身がほてってしまっているし、何が起こっているのかはっきりしない。


「良き人生を――僕を笑顔にしてくれたキミには、幸せになってほしいからね」


 その言葉を最後に、俺の意識は徐徐に薄れていく。視界もぼんやりしてきて、なんだか急に眠気も襲ってきた。


「――ちょっ、アルディア様!? って亜神様になってる!? この方私より立場が上になってるじゃないですか!? それに下界に送るにはまだ説明が――あぁもうバカ神っ!」


【天人長権限の施行、身体操作レベル10が器に付与されました】


 薄れゆく意識の中、最後に面接してくれた女性の声が聞こえた気がした。



 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆



「いくらなんでもやりすぎですよアレは……完全に予算オーバーです。というか、まだあの人に何も渡してませんよ? 持ち物は服ぐらいなものです。それに島の説明も何もしてません」


「て、テンション上がっちゃって――ま、まぁ余ってた神力でスキルもレベルもいっぱい強化したし? えっと名前はアキトくんだっけ? アキトくんならうまくやれると思うんだよ」


「それに私が何もしなければ、下ろした島をそのまま吹き飛ばしてしまっていた可能性があります」


「……そんなことよりも天人長、すぐに地球の神のところに交渉に行くよ! 善は急げだ!」


「露骨に話を逸らしましたね――えぇ、世界にも誓いましたが、そもそも亜神様のお願いを私に断れるはずがありません。ご家族には良い来世を迎えられるようにしてもらいましょう」


「何を言ってるんだキミは。それだけだとアキトくんを笑顔にできないじゃないか」


「……なんだか嫌な予感がしますが、何をするおつもりで?」


「妹と母親の魂も貰うんだよ。それでアキトくんの島に転生させる。つまりサプライズだね!」


「あのですね、世界のルールで人族の転生は百年に一度と定められています。亜神とはいえ、ヒト種であることには変わりません。これはいくらアルディア様であっても破ることはできませんよ」


「うん、知ってるよ? でもそれって、ヒト種だけだよね? 魔物と精霊もそれぞれ、百年に一度いけるんだよ」


「……魔物と精霊に転生ですか……それでアキト様が喜びますかね? 二百年待ってもらうという方法もありますが」


「人化できるようにしておけば大丈夫でしょ! まぁあとは二人の意思次第かなぁ」


「……はぁ、頭痛の種がなくなったと思ったら、またそこから種が……」





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