第12話 再び一人に
一人になった俺は、地下入り口の部屋を出て奥へと進んで行った。
天然の洞窟を利用したという見立ては正しそうで、通路はまんま洞窟の中だ。
狭い石の通路のようになった洞窟をかなり長い距離進んで行く。すでに地上の邸宅の敷地を遥かに超えた距離を歩いている。
普通の町の地下にこんなものがあるとは驚きだ。
長い洞窟を進んで行くと、時折枝分かれした道があり、その先には小部屋があった。小部屋は色々で、剣や槍などの武器庫になっていたり、食料がおいてあったり、机と椅子があり事務作業ができるようになっていたり。
こんな地下施設があるとか、経験値を稼がなきゃいけないのにちょっとワクワクしちゃうじゃないか。
途中には会議室みたいなところがあり、人間が竜人兵に何か指示を出している場面にも出くわした。もちろん襲われたので返り討ちにしたけど、やっぱりエシュガルは日常的にこの竜人兵を使って人には言えないことをしていたようだな。これなら遠慮なく経験値にしてやれる。
そんな小部屋を探索しつつ奥へと進んで行くと、突き当たりに大きな扉があった。
これまでの小部屋の簡素なドアとは違い、大きく重そうな扉が。
他の部屋とは違う重要な場所っぽいな。
エシュガルがここにいるかもしれない。
俺は勢いよく両開きの扉を開け放った。
「なんだ……これ」
奇妙な光景だった。
そこは、これまでとは比較にならない広大な地下空間だった。
体育館と同じくらいの広さがあるように感じる。
そして入って右手側には壁沿いに調度品が置かれていて、これまでの小部屋をそのまま大きくしたような感じでそこまでは奇妙じゃない。
奇妙なのは扉から入って左手側の光景だ。
地面に等間隔に赤い魔法陣が描かれ、それぞれの中心に鉄の十字架がおかれていて、そこには竜人兵が両手両足を繋がれている。
十字架の頂点は尖っていて、手のひらサイズの内臓らしきものが突き刺されている。そして、その内臓らしきものから赤い管が伸び、十字架と竜人兵に絡みついている。
まるで血管のようにも見えるその赤い管は、体の中に何かを注ぎ込むかのように脈動している。
見ているだけで気持ちが悪い光景だ。
異世界素人の俺でもわかる、確実によからぬタイプの儀式だ。
いったい何をやろうとしているんだ?
「何をやっている貴様! 何者だ!?」
不気味な光景に目を奪われていると、部屋にいた魔術師風の格好の男が俺を咎めてきた。数人の同じような格好の男女がいて、その中には十字架の前で何かの作業を行っている者もいる。
「仕返しに来た。エシュガルに命を狙われた仕返しに」
「エシュガル様に狙われて命が無事だったなら素直に静かに生きていればいいものを復讐気取りか? 馬鹿が! ここを知られて生きて返すわけにはいかない。皆、こいつをやるぞ!」
やはりこいつらもエシュガルの部下か。
そして俺をやる気満々らしい。無論、抵抗はさせてもらう、全力で。
「竜人兵も放て! もう使えるはずだ!」
竜人兵を?
魔術師達は、竜人兵が繋がれている十字架に向かって何か呪文を唱えた。
十字架に繋いでいた鎖が外れ、血管のような赤い管が枯れ落ち、自由になった竜人兵達は金色の目を開いた。
並んだ十字架から解き放たれた竜人兵達は魔術師から武器を渡され、咆吼を上げる。
そして俺に対して武器を向ける。
そして魔術師は魔術を使い、竜人兵は武器を振るって俺を消そうとしてきた。
だがこれまでの相手と大差なかったので、これまでと同じように俺は彼らを一蹴し、大きな部屋には静寂が訪れた。
「さて、先に進むか」
邪魔者がいなくなったので、大部屋を進んで行くことにする。
しかしやはり注意は怪しい魔法陣の上の十字架に引きつけられる。
部屋の左手に進み十字架を近くで見てみると、十字架の上に刺されているものの正体がわかった。
これは、心臓だ。
誰の心臓?
決まってる、竜の心臓だ。
「儀式場……なるほど、ここで竜人兵を生産していたってことか。エシュガルは自分の手駒のモンスターを自分で作っていた。そのために竜の心臓を集めていたと。モンスターを作る魔術とか、そんなものもあるんだな。さすが異世界。……ん、こっちに窪みが?」
十字架を観察しながら大儀式場の左側を進んでいると、左側の壁に狭い窪みがあることに気付けた。
どうやらそこはこれまでいくつもあった小部屋のようになっているらしい。
気になったのでそちらに進んで見ると、地面に一際大きな魔法陣が描かれていて、他と同じく十字架や心臓が配されていた。
だが、一つ違うことがあった。
そこに繋がれていたのは。
「人間だ。竜人兵じゃなく」
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