第3話 決意
経験値を稼がないと死ぬのは、一回だけではなかった。
再び【心臓】によって制限時間とノルマが設定され、俺を駆り立てる。
「これが終わらないマラソンか。でも今回の時間は長いな。72時間だから3日間猶予がある。これなら余裕でなんとかなるんじゃないか?」
そもそも初回の制限時間も実は結構長かったのかもしれない。
異世界で目を覚ますまでに時間か結構経ってたのかもしれないしな。
一難去ってまた一難だが、逆に言えば急成長の機会がもう一回来たとも考えられる。モンスターのいる異世界じゃ、早く強くなれるって思えば悪いことばかりでもない。
しかも今回は時間に余裕があるし。
72時間でレベルを1上げればいいだけ。
なんならボーナスステージでは?
なんて俺はのんきにネズミ狩りを始めた。
しばらく草原を歩きまわり、ネズミのモンスターを狩っていく。
それをしている時にレベルアップを感じることができた。
ネズミに目潰しなんてしなくても、自分の素の素早さでネズミの背中に回り込み攻撃して、仕留めることができた。しかもガッツリ体重をかけなくても、片手でさっと。
スピードもパワーもしっかり上がっている。
あと反応速度も上がってる気がしたし、体力も五感も全てが向上している。
そうだな、生物としてワンランク進化した気分だ。
これは結構いい気分。
といい気分になりながらネズミのモンスターをしばらく狩っていたのだが……。
◆経験値:□□□□□□□□□□
ステータスで経験値を確認しても、ゲージがほとんど溜まっていない。
妙だなと思ってさらに十匹くらい倒すとようやく……。
◆経験値:■□□□□□□□□□
10分の1ほどゲージが溜まった。さっきは1匹倒しただけで同じくらい溜まったのに。
「なるほど、レベルが高くなるほどレベルが上がりにくくなるのか」
たしかに片手で勝てるような相手と戦っても得るものがたいしてないというのは現実的に理解できるし、経験値のあるゲームならレベルが高くなると必要経験値が増えて弱い敵を倒しても成長しにくくなるのもよくあることだ。
異世界の経験値もそういう風になってるってことか。
これは少しペースをあげて狩らなきゃいけないな。
――と思ったんだけれども、そこにも問題があった。
=================
風巻史輝
◆現在レベル 3
◆目標レベル 4
◆残生存時間 53:25:01
◆経験値 ■■■□□□□□□□
◆スキル【貪食心臓】【狩人の瞳】
獣爪
=================
あれからさらにモンスターを倒しなんとかここまで経験値を稼いだが、ネズミを狩りすぎて見つけられなくなってきたのだ。数は減ったし、警戒もされているらしくそう簡単に倒すべきモンスターが見つからない。
現にここまで20時間近くかかっているしペースは絶賛低下中。
このままネズミを狩っていても、必要経験値には足りず、俺の心臓は爆発し死ぬことになる。
何かテコ入れが必要だ。
やはり、もっと経験値が多く、もっと生息数も多い、そんなモンスターを狩ってスピーディに経験値を溜めることにチャレンジすべきだ。
そのためには――。
俺は手をかざして草原の先にある森に視線を向けた。
「あの森に行こう」
森は草原とは違う生態系があるものだから、いるモンスターも異なるはず。
どんなモンスターがいるかはわからない。下手をすると制限時間以前に、到底歯が立たない強力なモンスターがいて襲われて死んでしまうかも知れない。
だがそんな悠長なことを言っていられない。
「座して死を待つよりは虎穴に入ろう。行くぞ」
森の中までは二時間ほど歩いたらたどり着いた。
結構遠かった。普通にしんどい。
「でも、ぷんぷん臭ってくる。未知のモンスターの臭いが」
まあ言ってみただけだけど。モンスターの臭いなんてわからないし。
と独り言を言っていたら、俺の左手をムチが打ってきた。
「いった! ……モンスターか!」
ひゅんひゅんと空気を切りながら鞭をしならせるモンスターが木陰から現われた。
黄土色のカブに足が生えたような植物のモンスターで、腕のような二本の蔓を鞭のような武器として俺に襲いかかってきたのだ。
「ああ、間違いなくモンスターだ。こいつは……」
◆マンドラゴラ Lv2
レベルが上がったことで覚えた【狩人の瞳】というスキルで、このモンスターの名前とレベルが判明した。
レベル2はおいしい。
ネズミにも狩りの途中使ったら、あれはレベル0だったので、こいつはだいぶ多めに経験値がもらえるはずだ。
マンドラゴラの鞭の腕は爪ネズミより速く力強かったが、俺もレベル3になったことで強くなっている。
複雑な軌道で速い蔦の鞭全てを回避はできないが、頭や腹への直撃を防ぐことはなんとかできる。
って言っても結構痛いけどな。
肩や足まで全部防御はさすがに無理。
これはもう我慢するしかない、殴られる痛みを耐えながらマンドラゴラに接近する。
「これがレベルアップの力だ!」
レベルが上がって新たに覚えたスキル【獣爪】を発動する。これはあのネズミのモンスターみたいに爪が鋭く伸びるスキル。
スキルを使ったのは異世界に来るまではやったことなかったけど、スキルで起きる事象を強くイメージしながら、スキルを発動しようと強く思えば発動できる。ネズミのモンスターを倒すのにも何度か活用した。
それで伸びた爪をマンドラゴラの体に突き刺す。
だが一発では倒れない。
だったら、二回突き刺す、さらに三回突き刺す。そして四回突き刺したところで、マンドラゴラはしおしおと黒く萎れながら倒れた(枯れた?)。
◆経験値 ■■■■□□□□□□
マンドラゴラのからだから薄菫色の光が俺に入ってきて、そして経験値が増えていく。正確にはわからないけどおよそ5%くらい? ゲージが満たされたかな。前の分とあわせて40%くらいに到達した。
爪ネズミに比べて経験値効率一気に数倍!
これはもう美味しすぎるね。
鞭で叩きつけられた肩は皮がすりむけ青あざが出来てる。やっぱりモンスターと戦うのってしんどい。でも、経験値のうまさで痛みは吹き飛ぶさ。
倒すのはネズミより少し大変だけど、探す時間を考えたら圧倒的にこの方が効率的。
この調子で、森でモンスター狩りを続けていけばなんとかなりそうだ。
森には岩清水があり、果物もあってので、飲み食いには困らずに経験値稼ぎをすることができた。
またマンドラゴラは結構たくさんいて、ネズミと違ってまだ無警戒のため隠れることもなく、順調に狩ることができていた。
他にもスライムや土のエレメントというようなモンスターにも少し出会ったが、強さはマンドラゴラと同程度で問題なく倒せた。
そして残生存時間23時間以上を残して――。
◆経験値:■■■■■■■■■■
俺は必要な経験値を稼ぎきった。
これでまた命をつなぐことができた。
しかもそれだけじゃない。
見返りも――きた。
体がうっすらと輝き、熱い血液が全身を駆け巡り力を隅々にまで行き渡らせる。
その過程が完了したとき、これまでと世界が違って見える気がした。
=================
風巻史輝
◆現在レベル 6
◆目標レベル 7
◆残生存時間 143:59:59
◆経験値 □□□□□□□□□□
◆スキル【貪食心臓】【狩人の瞳】
獣爪
=================
また1レベル分の経験値で3レベルアップ。
しかもレベルは上がれば上がるほど経験値が入りにくくなるものだから、それを考えると3倍じゃなくさらに倍の6倍くらい経験値的には得してるかもしれない。
しかし……。
◆残生存時間 143:59:59
やっぱり、まだレベルのノルマと制限時間はある。
いったい何回やれば解放されるんだ?
「まあいいさ、こうなったからにはもうやるしかない」
やらなきゃ死ぬんだ、死ぬ苦しみは一度味わったからもうたくさん。
元の世界のことを考えてる場合でもない。死んだら戻るも何もないし、仮に戻れても今のままじゃ経験値稼げなくてジエンド。
「いいさ、やってやるよ。この異世界で経験値を稼いでやる。この【心臓】がもうお腹いっぱいで食べれませんっていうまで」
俺は木に登って周囲を見渡す。
町や村みたいな人里が一切見あたらないけど――今はそれが逆にいい。
俺が今狩りをしている針葉樹の森が広がる先には、岩山があり、洞窟があり、沼地があり、広葉樹の森があり、荒野があり、つまり倒すモンスターにはことかかないってこと。
なによりもレベルを上げなきゃいけない俺にとっては、こんな辺境のモンスターだらけの土地に転移してきたのは幸運だ。
生き残ることは強くなること。
強くならないことは死ぬこと。
もう俺にはそのどちらかしかない。中間はない。
だったらこういう環境こそが最適だ。ここで何よりも生き延び、何よりも強くなる。
ヒュッと、空気を切る音がして俺の頬を鋭い何かがかすめた。
頬に出来た傷を抑えながら目で追うと、氷柱のような鋭い氷が木の幹に突き刺さっていた。
そしてそれを発射したのは、木の下にいるモンスターだ。
――ゲッゲッゲッ!
◆ゴブリンメイジ Lv6
子供くらいの背丈で、短い角が生えた小鬼のようなモンスター。
ファンタジーの常連ゴブリンが、霜をまとった杖を携えている。
こういうのって、普通はノーマルゴブリンが出てから上位版が来ると思うんだけど。
順序守って欲しいものだね。
ゴブリンメイジがさらに追撃で鋭い氷の礫を放ってくる中、俺は的をしぼらせないよう木の枝を飛び移りつつ下に降りていき、ゴブリンメイジに向かって一撃加える。
「経験値を稼がなきゃ死ぬと言うなら、稼いでやる。ここで、いやというほど!」
――――――――――二年後――――――――――
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます