第2話 経験値を稼がないと死ぬぜ!
◆残生存時間 0:56:35
さすがに急展開すぎるだろ!
余命56分とか初めて聞いたぞ。
「しかし考えてる暇も愚痴言ってる暇もないな。こうなったからにはやるしかない。そう、あいつをやるしか!」
俺は地面にあった尖った石を握りしめ、爪が特徴的なオオネズミのモンスターへと振り返った。
経験値を稼ぐにはモンスターを倒すと相場が決まっている。
のそのそと歩いている爪ネズミに向かって近づいて行く。先の尖った石を右手に握りしめながら。さらに地面の小石を左手に拾い集めつつ。
――キキッ!
10メートルくらいまで近付くと、爪ネズミ(仮称)がこちらに振り向いた。
赤い目をぎらつかせて、俺を睨み、爪を研ぐ。
あっちもやる気だ。
一瞬俺達はにらみ合い――先に爪ネズミが動いた!
短い足を動かして俺に駆け寄ってきて、俺に鋭い爪を振るってきた――でも、見える。
体を捻って爪の軌道から体をそらす。
「痛っ!」腿を爪がひっかき、ズボンを裂き切り傷が破れたところからのぞいた。
いったいなあ――でも、直撃はかわせた。
ついていけないことはないぞ、このモンスターの動き。
だがそうはいっても、何度も爪で裂かれるのはやばい。
何か対策は――。
爪ネズミは俺の方に向き直り、再び攻撃をしかけてきた。
同時に俺は地面に打開策を見つける。
「これだ! 食らえ!」
俺は地面に左手を伸ばし、小石を数個掴みとった。
そして爪ネズミが駆け寄ってくるのにあわせて、それらをばら撒くように投げつける。
――ギキッ!?
ばら撒いた小石が鼻先や目の近くに当たってネズミが怯み動きが止まる。
よし、狙い通り。今がチャンス。
すかさず爪ネズミの首筋に、体重を乗せて尖った石を突き刺す!
毛皮を破る感覚が手に伝わる。
さらに力を込めて、そのまま一気に首深くまで石を突き刺した。
――キー……!
首から血を流すと、爪ネズミは体を小さく震わせて動かなくなった。
「よし、こいつはそんなに強くないな、十分倒せる敵だ。さて経験値は……」
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◆経験値:■□□□□□□□□□
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先ほど見た【心臓】に関するステータスの中で経験値だけを抽出して見る。
経験値がゲージで表現されていて、最初は空だったが今は1/10ほど満たされている。
まず間違いなく、このゲージが全部満たされればレベルが上がるんだろう。
そして命が繋がる。
「ということはあと50分ちょっとの間に9匹モンスターを倒せばいいってわけだな。爪で引っかかれた傷は――痛むことは痛むけど、血は止まったし、俺は止まってるわけにはいかない。急ごう」
俺はネズミを探すハンターとなって草原を彷徨い始めた。
「これで……10匹目だ!」
キィーと鳴き声をあげながら、俺の石に突き刺された爪ネズミが倒れた。
爪ネズミは単純な動物らしく、どの爪ネズミも小石の目潰しからの突き刺しの作戦が刺さって、怪我もなく倒すことができた。
やはり石投げ。
人類の動物より優れた能力は投擲だってYouTubeで見たのが役に立ったな。
さて、倒れたネズミから薄い菫色の光が浮かび俺の体の中に吸い込まれていく。
毎回こういう風にきれいな光を見られたけど、多分これが経験値の正体だ。生命エネルギーとか魂のエネルギーとかそんな感じのものなんだろう。知らんけど。
「何はともあれ――」
◆経験値:■■■■■■■■■■
「ノルマ達成」
胸がすっとする。
いや、気分の話じゃない。もちろん気分も爽快だけど、実際の五感として胸の奥がすぅっと、溜まった蒸気が抜けていくような感覚がしたんだ。
え、なんか光ってる?
その感覚だけでなく、俺の体はうっすらと発光までしている。
そして、体の奥から力が湧き上がってきた。
全身に力が漲って血液が超速で体の隅々まで流れてるみたいなこの感覚、これがレベルアップか!
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◆現在レベル 3
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経験値だけを見たように、今度はレベルだけを見てみる。
やっぱり、さっきはレベル0だったから上がってる。
「……って、レベル1じゃなくて3? 一気に3倍上がってるな」
これだけガッツリとパワーアップしたなら今みたいな満ち満ちた感覚も感じるわけだと納得はするけど、なぜこんなにレベル上がったんだろうか。
ちょうどその時、俺の疑問に応えるように眼前にディスプレイが出現し、メッセージが表示される。最初に【心臓】の説明が出た時と同じように。
『【心臓】は、経験値を要求する。心臓の飢えを満たし必要十分な経験値を食わせることに成功すると、心臓はその経験値を大幅に増幅して吐き出し所持者に与える』
そう書かれてました。
この【心臓】、自分の機能に関することなら丁寧に答えてくれるのは結構親切で助かる。
容赦なく殺そうとしたり激痛与えてくる割にそこは優しいの、逆にサイコパスみがあるけど。変な魔道具だ。
「それはともかく――心臓にレベル1分の経験値を与えたら、それを何倍にも増やして俺に吐き出した。それがレベル3に届くほどの経験値だった、ってことらしいな」
俺は自分の胸に手を当てた。
「なかなかやるね、この心臓。でも、そうか、なるほど……そういうことか」
制限時間以内に経験値を稼ぎきらないと死ぬ。というリスクと引き換えに、稼ぎきればそれが何倍にもなって帰ってくるというメリットがある。
この【貪食の心臓】は、そういうハイリスクハイリターンで強くなれる魔道具なんだ。
『死ぬ』か、『強くなる』か。
強制的にどちらかの道に進むことになる、現状維持を否定するもの。
「危ないところだったけど、終わってみればいい思い出、異世界でのスタートダッシュもきれたし、結果よければ全てよしかな」
ギリギリのところで生き残った安堵と強くなった嬉しさに満足して、俺は草原を再び踏みしめる。異世界で順調な生活を送るために。
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風巻史輝
◆現在レベル 3
◆目標レベル 4
◆残生存時間 71:59:59
◆経験値 □□□□□□□□□□
◆スキル【貪食心臓】【狩人の瞳】
獣爪
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◆残生存時間 71:59:59
「……なるほど。あ~なるほどね。一回ノルマ達成しただけじゃ終わらないと、そういうことか~、なるほどね~」
ふざけんな!!!
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