第12話払う代償
さすがのソラニテも想定外だったのか、
「ええいっ 正面突破だ。我に続けッ!」
広げた両翼が白く輝く。彼女は女神の神殿で洗礼を受け『
『
そして彼女の授かった権能は『風迅』。
純白の翼が羽ばたくと、空気が爆発。叩き付けられる風圧に堪らず目を閉じた。
目を開けるとそこに彼女の姿はなく、純白の双翼は視線のはるか先に居た。
「さあ、早く。急いで!」
コルネリウスに急かされ、オレは全力疾走――
「きゃあっ」
悲鳴。振り返ると転倒した彼女は杖を取りこぼし、道に五体を投げ出していた。
「ピティエっ!」
それを、透明な壁が弾き返した。
防御術式。矢の角度から、ペンダントが無ければ即死だった。心から祖母に感謝した。
「大丈夫か?」
「足が……っ」
声をひそめて尋ねると、声色には悔しさが滲んでいた。
「しっかり掴まってろ。あと口閉じて」
「ちょ――」
ピティエをお姫様抱っこすると、頭上で
「モタモタしないで下さい」
「わかった」
地面に転がる杖を蹴り上げ、ピティエにそれを取らせると前方に大きく鋭く跳躍。
オレは弓矢の直撃を警戒して街道の脇を蛇行しながら跳躍を繰り返す。
しかし、振り切れない。相手も
(何人で来てやがるっ⁉)
これでもオレは冒険者として、一年以上の
冒険者の中でも腕が立ち、機動力のある方だ。それを取り囲みながら追い
争奪戦には、相当な手練れが戦力として投入されているみたいだ。
周囲の気配から追手は五、六人。この速さだ、魔法使いは居ない筈。
それにしても、ソラニテの姿が見えない。『風迅』による風のざわめきも感じられない。
(まさか、倒されたん――)
再び視界が白く
完全に囲まれた。もう、腹を
「立てるか?」
「はい、大丈夫です……」
やるぞ。覚悟を決め、息を弾ませるピティエに戦闘の意志を伝えた。魔風を
だが、居る。息を殺し、隙を窺って神経を尖らせているのが気配として分かった。
「合図を送ったら、すぐさま伏せろ」
「はい……」
端的な指示に短く答える幼馴染。刀身に錬り上げた
「今だ!」
蒼月流抜刀術『
無形の氷刃が辺り一帯を斬り裂く。立ち並ぶ木々に真一文字の亀裂が走った。
先手を取れば、状況の主導権を握りやすい。野球でも実戦でも。
「前方に
片膝を着いたピティエが返事代わりに
「もう一発、撃ってやれ」
再びお姫様抱っこしたピティエに指示。
無言で後方に杖を突き出し、灼熱の炎が陽炎を揺らめかせて地面に着弾。追手の前に
脇の森林から再び街道に上がり、オレは街へと急いだ。
ソラニテとコルネリウス、もう一度二人に合流できると信じて。
「ッシャアアアアアッッ!」
「――ッ!」
着地際、背後からの強襲を宙返りで
闇色に包まれた刺客が空中を跳んで躍り掛かる。
蒼月流抜刀術『
「オオオオオオオオオオッッ」
背後で閃く白刃を振り向きざまに受け止め鍔迫り合い。蒼月流抜刀術『
包囲網が緩んだ。その隙を突いて採るべきは逃げの一手。今度こそ振り切った。
周囲を警戒しながら、オレは大急ぎで森の出口を目指す。
そして、遂に抜けた。急に視界が開け、星々の瞬きが飛び込んで来る。闇に沈む草原が地平の先まで広がっていた。頬を撫でる涼風が解放感を掻き立てる。
敵影無し。ひとまず危機は去った。
「よし、抜けたぞ。大丈夫――」
視線を腕の中に落とせば、抱えていたピティエが力なく
「あ――――」
毒だ。おそらく、足首を掠めた
弱音も吐かず、そんな状態で戦っていたのか。彼女の壮絶な覚悟にオレは脱帽した。
こんなことがないように、彼女が命の危機に
これではこの
「しっかりしろ。今すぐ解毒用の
携帯していた腰元の鞄を開け、オレは
「大丈夫か?」
声が降って来た。空を仰ぐと、緑の燐光を放ち純白の双翼を広げるソラニテがゆっくりと下降して来る。
「どれ」
顔面蒼白のピティエに彼女が手を
「…………」
毒が抜け切ったのか、今は安らかな寝息を立てていた。
「よかったぁ……」
半身が
オレも安堵から気が抜けて、思わず涙腺が緩んでいた。
「安心しろ。入り口に張っていた敵は全て片付けた」
「え――――?」
吹き飛ばされたのか、十人ほどが草原の上に五体を投げ出し点在していた。
起き上がってくる気配はない。完全に事切れていた。
「なん、で…………?」
いや。それはわかっている、本当は。
別に死体を見るのも、これが初めてではない。
それでも、
「わかっていると思うが、敵も手練れだ。そう
「そういうことじゃねえんだよっ!」
渦巻く激情に任せてオレは吠える。そんなことが聞きたいんじゃない。
「なんで…………っ なんで、人が死ぬんだよ……?」
たかが野球のために。勇者パルフェは平和を願って普及させたハズだ。それなのに。
「だからこそだ」
「は?」
「平和を希求した勇者の願いに反し、今は野球のために人が死ぬし、人生も狂わされる。そんな現状を変えるために、儂は甲子園優勝を目指しているのだ」
胸を張り真っ直ぐオレを見詰め、決然と言い放つ。
月に照らされ凛とした佇まいに、オレは言葉を失い引き込まれた。
目が、離せない。
「学長っ!」
森から脱出したコルネリウスが叫ぶ。
「よし。では、行くぞ」
立て。促されるままオレは重い腰を上げ、駆け出す二人に追随した。
踏み出す足はひどく重く感じられる。それでも、止まることは許されない。進むしかないのだと、自らに言い聞かせる。
打ち捨てられた
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