二十首連作 短歌行

山田白月

桜木

桜木さくらぎいた古塚ふるつか物言わで ふみ無き世にも人はありきと

修羅の場も今や出水いずみうお遊ぶ 我は願わん沼清かれと

陰の無き護岸は熱く しぶき上げ蛇が水浴び 春は何処いずこ

上毛の麦の海原 風吹けば潮騒聞こゆ 浜は無くとも

灰溝はいこう緑野みどのに還る 自ずから然るを見たり 望み捨つるな

大正の道標残る 絹求む過客かかくが為か 言わずも語る

石文いしぶみは語る在りし日 行く川の流れは絶えず玉をおさめり

修羅の場の名残が実る 強者つわものは梅干し抱きて 川を越えけり

鬼の住む山もいつしかまどかなり 百代ももよ風雨ふうういわおを攻む

歳月は山をも穿つ神代の矢 柔く剛に勝る道なり

古塚に天神祭る 川岸に暗雲立つも こは桑原ぞ

家陰やかげから小川が流る 人は言う城の跡ぞと 夏草むせり

麦刈れば 水門開く音を聞き蛙目覚める 巡る命よ

川を見て時を悟りし古人こじんあり 我は何故なにゆえそれを忘るか

人の世は露の如くも この山河滅ぶゆえ無し 春はまた来る

北風を汽車は忍ぶか 月日なる果てぬ旅路を 子らと行きけり

橋端に日照りの碑あり 汗流し開く水路が田畑潤す

古桑や田端に眠る絹の夢 食う者無くも葉はまた芽吹く

何処いずこにも古きものあり 何故に誇るべけんや 栗の背比べ

さとを見て何をさとるか こと無くも学ぶことあり 無為むいえきかな

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