第23話

「あれからツリアーヌ様から連絡が来てないけど、大丈夫かしら?」


「……無事だといいのだが」


 わたくし、メルティーヌとお父様であるボレアース王国国王がイノーマス帝国にやってきました。ルファエラ王子の婚約者お披露目パーティーです。婚約者はなんと四人もいるそうです。

 周囲を見渡すと周辺諸国も招待を受けているようです。



「メルティーヌ嬢! ツリアーヌ・フェイジョア嬢の情報を知らないか?」


「……わたくしも、こちらの国に行かれてから連絡が取れておりませんの。“通信の鏡”も反応いたしませんし」


「……」




 シューデン王国の王子でいらっしゃるミカルド様も心配なさっています。お願いだから、無事でいてください。ツリアーヌ様。









◇◇◇

「我が国の第二王子であるルファエラが婚約者をとうとう決めてくれた! 皆に紹介する前に、喜劇を始めよう」



 そう言って現れたのは、兵士とともに現れたヤリアント様とツリアーヌ様です。思わず駆け出しそうになるわたくしの手を、ミカルド様とお父様が引きます。




「ツリア!」


 ツリアーヌ様に向かって暴れるヤリアント様を兵士が抑えます。他国の王族に対してそのような仕打ち、国際問題ですわ! イノーマス帝国に他国からの批判が集まろうと、イノーマス帝国は気にも留めないのでしょうが。



「ヤリアント様。わたくしは、あなたとお別れいたします。そして、ルファエラ様の婚約者の一人となります」


 そう言ったツリアーヌ様の目から涙がこぼれ落ちます。



「新ミリュー王国は、近隣諸国を守るために王妃を差し出してくれた! その犠牲を以て、我が国はボレアース王国、シューデン王国、エステ王国、ティモルト王国、そして新ミリュー王国に侵攻しないと誓おう」


「「「おおおお!」」」


 エステ王国やティモルト王国の国王は喜んでいます。エステ王国の王女殿下は複雑そうな表情を浮かべていらっしゃいますが。父上は、苦虫を噛み潰したような表情で、ミカルド様は歯を食いしばっていらっしゃいます。シューデン王国国王の表情は読めませんわ。わたくしがお父様とミカルド様の抑えを振り切って、駆け寄ろうとすると、布を被った一人の女性が現れました。こちらから見えるお姿がどことなくヤリアント様に似ていらっしゃいます。



「ヤリアント。いいのですか?」


「えぇ。母上。僕の大切な人を守るためなら、なんでも背負うつもりがあります」



 そう言葉を交わすと、その女性は兵に抑えられる前に布を脱ぎ捨てました。



「なに!?」


 言葉を失ったのはイノーマス帝国の皇帝陛下でした。



「お久しぶりね。イノーマス帝国皇帝陛下とお呼びしたら宜しくて?」


 そう語る女性の胸元には紋章が輝いています。この王宮に飾られているものと一緒……?



「わたくしの大切な息子から手を離していただけるかしら? 皇帝代理?」


 そう小首を傾げる女性には、高貴さが漂っていました。皇帝代理って……?



「あ、姉上……亡くなったんじゃ?」


「いいえ。わたくしの命を狙うあなたから姿を隠し、平民としてミリュー王国に身を隠していたのです。我がイノーマス帝国は男子の直系の承継。しかし、前皇帝の長子である女子が子が成せば、その子が次期皇帝となる。それまでの間、弟であるあなたはあくまで繋ぎのになる。変わりはありませんね?」



 そう言って、首から下げていたペンダントをヤリアント様にかけます。


 そして小声で呟きました。


「あなたは愚かね。こんなにも国をダメにして。才能なきものは、才能ある者に助けを乞うのよ。我が子ヤリアントならば、国を豊かにできるわ」


「……イノーマス帝国皇帝が告ぐ。帝国法第一条に従って、皇帝代理の権限を没する。そして、投獄せよ」


「やめろ! 皇帝は我だぞ! はなせー!」

 ヤリアント様のお言葉で、皇帝代理は連れて行かれました。


「皇后代理。ご助力ありがとうございました。第二王子から皇位継承権を剥奪し、幽閉する。皇后代理がそなたがいたずらに子女を殺害していたことを明かしてくれた。皇族に相応しい行いとは思えない」


「そんな!?」





 そう指示を出したヤリアント様は、ツリアーヌ様を抱きしめました。そして、続けます。



「皇后代理の産んだ第一王子。あなたをイノーマス帝国の皇帝代理に任命します。私は、新ミリュー王国に戻ります」


「そんな!?」


 横暴な皇帝に代わり、正しい後継者であり優秀なヤリアント様が皇帝に就くと安心していたイノーマス王国の方々が騒ぎになります。

 もしかして、第二王子は皇后代理の子ではなかったのかしら? 確かに似てないものね。


「第一王子。いえ、皇帝代理は能力を隠していたが優秀なお方だ。我が子が産まれ育つまでの期間の代理として、問題ないだろう」


「拝命いたします。皇帝陛下」


 皇后代理の後ろから現れた第一王子は、そう頭を下げられました。



「ツリアーヌ様!」


 はしたないと言わないでください。わたくしが思わず、そう叫ぶとツリアーヌ様が手を振りかえしてくださいました。満面の笑みで。




「よかった……」


「メルティーヌ嬢」


「なんでしょう?」


 突然跪くミカルド様。わたくしが慌てると、こう続けました。


「私と婚約を結んでくれないだろうか?」


「えぇ、喜んで」

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