第22話

「イノーマス帝国から招待状が届きました!」


「用件は?」


「ルファエラ王子の婚約披露パーティーだそうです。パーティーは三ヶ月後ですが、一ヶ月後には来て欲しいと」


「……おかしいけど、断れるほどの余裕はないですね」


「念のためにシューデン王国とボレアース王国にも同様の案内が届いているか確認しておこう」








 ボレアース王国に“通信の鏡”を使って問い合わせます。ボレアース王国の方が我が国よりもイノーマス帝国の近くにありますから。


「我が国にはまだ届いておらん。……狙いはツリアーヌ嬢で間違いないだろうが、断る方法が……」


「お父様。わたくしがツリアーヌ様に成り代わって暴れてきてもよろしいですわよ!」


「まだ何もされていないのに、メルティーヌはいつもいつも過剰防衛しすぎだ」


 揉め始める親子の姿を見て、私は決意しました。


「わかりましたわ。わたくし、はっきりとお断りして参りますわ!」


「直接行くのは危険すぎるよ、ツリア」


 引き止めてくださるヤリアント様を諌めます。


「ルファエラ王子殿下がわたくしに興味を持っているのでしたら、上手く使えばいいのですわ。そうすれば、我が国のみならず周辺諸国も守ることができるかもしれませんわ。前国王が漏らしたという弱点、聞き出してみせますわ!」


「その意気ですわ〜!」


「ツリアがメルティーヌ様に似てきたような……?」


「すまない。新ミリュー王国国王。メルティーヌが悪影響を及ぼしているかもしれぬ」


「ツリアが幸せそうなら、問題ありません。ボレアース王国国王陛下」


 このときのわたくしたちはイノーマス帝国という国をまだ理解できていなかったのです。











◇◇◇

「これは、よく来てくれたね。ツリアーヌ嬢」


「お久しぶりでございます。ルファエラ王子。この度は、婚約おめでとうございます。お相手のお方は……?」


「これから話し合って決めるところだよ。では、父上に挨拶に行こうか」



 イノーマス帝国の城は強大でした。兵も武器も何もかも新ミリュー王国では、絶対に太刀打ちできません。メルティーヌ様お一人を連れてきても意味はなかったでしょう。イノーマス帝国が、我が国を国扱いしていないことも仕方ないのかもしれません。



「お久しぶりでございます。皇帝陛下」


「久しいな! では、早速本題に入ろうか。新ミリュー王国の国王よ。そなた、ツリアーヌを手放すつもりはないか? もちろん、タダでとは言わん。そちらの地域の侵攻を中止しよう」


「ツリアを!? 断じて認めません!」


「わたくしの代わりに……国民が犠牲になると言いたいのですか?」


「そうだ。今なら、その条件さえ飲めば侵攻をやめてやろう。何、ルファエラがごねたんだ」


 皇后陛下を見ると、悲しそうに首を振り、目を背けられました。皇帝陛下と王子の気持ちは変わらないようです。


「聞けば、優秀だというじゃないか。我が帝国で存分にその知力を奮えばいい」


「お断りします!」


 わたくしが答えるより先にヤリアント様がそう答えました。


「しかし、婚約披露は決まっておるから、これ以上先延ばしにはできん。やれ」


 そう言って、ヤリアント様は捕えられました。


「外交問題ですわ!」


「今から侵攻しようとする弱小国に外交もあるものか! せっかくそなたを差し出せば守ってやると言ったのに無礼ではないか!」


「わかりました。わたくしが、ルファエラ様に嫁ぎますわ」


「嫁ぐと言っても、第四夫人になろう。ルファエラが其方を手に入れれば、我が国の有力貴族たちと縁づいてくれると言うからな」


「私もツリアーヌ嬢を手に入れれば、満足です。父上のおっしゃる通りにいたしましょう」


 そうして、ヤリアント様は幽閉されました。わたくしには私室が与えられましたが、私も幽閉と言って過言ではございません。部屋の外で待機していた我が国の兵も捕えられたようです。元々三ヶ月の滞在の予定です。わたくしたちがいなくとも、国が回るようにして参りました。今思えば、それは失敗だったかもしれません。わたくしたちの窮地を誰にも知らせることができないのですもの。

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