第7話
「つまり、我が愚娘、メルティーヌが貴国へ宣戦布告とも取れるような暴言を吐いた、と」
「お父様! わたくし、そんなつもりはございませんわ!」
「メルティーヌ様。我が国を属国となすという発言は、国際的に問題ですよ?」
誰も教えて差し上げないので、わたくしがメルティーヌ様にお伝えいたしました。すると、顔を顰めながら答えてくださいます。
「うるさいですわ! あなたがいけないのよ。だって、お母様がいつも言っていたわ。ヤリアント様と結婚して、属国としたミリュー王国の頂点に立つのが一番わたくしのためにもボレアースのためにもなるって」
「……我が国の第二夫人の発言に違いないだろう。あやつはそういうことを言いそうだ。……第二夫人の地位を剥奪し、北の離宮に閉じ込めておけ」
鏡の向こうで会話がなされます。お母様が切り捨てられたとあって、メルティーヌ様はお顔が真っ青です。
「……メルティーヌ。そなた、どのように抜け出した? 東の離宮で1か月の謹慎を言い渡しておったはずだ」
「……答えませんわ! お父様はそうやって、わたくしの大切なお方を奪ってしまうのでしょう?」
「……お前はあくまで王女だ。まだ12歳だから、正しく育てば、使い道がある」
見た目よりも幼いことに驚愕いたしました。姫君の年齢までは把握しておりませんでしたから。一人で外交をするということで、16歳を過ぎていると思っておりましたわ。
わずか12歳という年齢で隣国への訪問を計画し、従者を使って実行した上で、実際に隣国に訪問する度胸。教育さえ正しく行われていれば、きっと素敵な姫君となっていたでしょう。
「……わたくしがルアに命じましたわ。そして、一部の文官を買収いたしました」
「ボレアース国王。わたくしとしては、メルティーヌ様への処分に重いものを望みません。まだ、12歳というお年でいらっしゃいます。正しい教育こそ、必要ではないでしょうか?」
「…買収した文官について、後ほど詳しく聞かせてもらおうか。……新ミリュー王国国王、そして王妃。我が国の無礼、誠に申し訳なかった。慈悲にも感謝する。重ねて迷惑をかけるようではあるが、教育に関して……メルティーヌをツリアーヌ嬢の下で働かせてもらえないだろうか? 下使いでいい。一定期間ツリアーヌ嬢の姿を見せてやってほしい。そのお礼として、ミリュー国人の保護と貴国への輸送。そして、その際の食糧支援等を行わせてもらおう。また、お詫びとして金銭の支払いといくつかの品を貴国に譲りたい。加えて、貿易に関しての免税措置について交渉させていただきたい」
「……返答まで時間を少しくださいますか?」
ヤリアント様と目を合わせます。我が国の希望をどこからか聞き出したのでしょう。謝罪の印としては十分です。細かい部分は擦り合わせれば、問題ないでしょう。
新興国である我が国と歴史あるボレアース王国の立場を考えれば、メルティーヌ様の教育を付加しても比較的譲歩された内容だと思います。メルティーヌ様の教育……何よりも大切な質問がございます。
「……一つ質問させてください。メルティーヌ様は朝何時に起床なさいますか?」
「朝? 4時半に決まっているじゃない」
「メルティーヌ! 言葉遣いを正せ。さもなくば、ツリアーヌ嬢の慈悲を無視してすぐに帰国させて幽閉することもできるのだぞ」
「朝、4時半……」
さすが朝食を大切にする国ボレアース王国です。わたくし、何徹すればいいのでしょう……。
「その、ツリアーヌ嬢。メルティーヌは貴国に滞在させていただくのだ。そちらの時間に合わせて生活するよう申し付けよう」
「……お心遣いありがとうございます。では、メルティーヌ様。我が国では朝食を重視しておりません。わたくしは朝食を抜いております。メルティーヌ様は自室でお召し上がりくださいませ。業務開始は10時半にいたしましょう」
「10時半ですの!? そんな遅くまでやることがないわ……」
驚きのあまり言葉を失うメルティーヌ様。よく見るとボレアース国王も驚愕していらっしゃいます。……ヤリアント様は愛おしそうにわたくしを見つめ、こちらを向いていらっしゃいます。
「……では、なかったことに……」
「わ、わかりましたわ! お父様がいつも“メルティーヌはツリアーヌ嬢のようになれ”とおっしゃっているツリアーヌ様のお言葉ですもの。従いますわ!」
ツンと向こうを向きながら答えてくださいました。……ボレアース国王。もしかして、お名前までわたくしから取りましたの……?
「そうだ。お前の名は、幼い頃から天才と我が国まで噂が流れていたツリアーヌ嬢からいただいておる。ツリアーヌ嬢のおそばにいさせてもらえるのだ。学んで、自らの立ち振る舞いを反省しろ」
朝4時半に起きることのできるメルティーヌ様がわたくしから学ぶことなど、あるのでしょうか……? 不安ですわ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます