第3話 かわいい


 僕は生まれつき、お腹が弱いです。

 ちょっとでも、油こいものや辛い料理を食べたら、腹がゴロゴロと言います。

 そのため、汚い話ですが、いつもトイレを探すのが大変なのです。

 特に繫華街では……。


 女性向けの商業施設は、男子トイレの数が少ないのですが。

 清潔で最新のトイレが使用できるため、僕はよく使わせてもらっています。


 その日もお腹を痛めて、急いでトイレへ向かっていました。

 たまたまですが、僕が向かっているトイレの前には、女性向けの下着屋さんがあります。

 

 店の前に飾られているマネキンは、かなり目立ちます。

 セクシーなブラジャーとパンツが、着せられているからです。


(ふむ、スケベな下着だな……)


 などと、考えている場合ではありません。

 僕の腹が「早くトイレへ行け」とうるさいからです。


 その時、奥のエレベーターから、二人の若い女性が降りて来ました。

 彼女たちはどうやら、僕とは反対方向へ向かうようでした。

 すれ違いざま、ひとりの女性が僕へ指をさしてこう言ました。


「かわいい~!」


 それに同調するもう一人のお姉さん。


「わかる~ かわいいよねぇ!」


 この瞬間、僕は思った。

 

(ハッ! 最近、脱毛してお肌のメンテも欠かさないから、かわいいと思われたんだ!)


 お姉さんたちの話を聞いて、僕は足を止めました。

 そして、目の前の女性陣に叫ぶのです。


「ありがとぉ~! 最近、よく言われるんだよねぇ~」


「……え?」

「あの、下着のことなんですけど……」


 結果、僕は通報された。

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