このまま俺を養って

テンテンとかいう最近出てきた配信者www


1 名無しさん

声めっちゃ好きなんだけど


2 名無しさん

わかる


3 名無しさん

SSF上手すぎない?


4 名無しさん

>>3

ゲームしなくていいから一生喋っててほしい


5 名無しさん

声はマジで良い


6 名無しさん

声”は”マジでいいんだよな


7 名無しさん

最近配信見始めたけど声質めっちゃドストライクだわ


8 名無しさん

男? 女?


9 名無しさん

>>8

好きな方選んでいいぞ


10 名無しさん

テンテンさんチート疑惑掛けられて台パンwww


11 名無しさん

立ち回りとグレの使い方ウンコすぎるくせにエイムだけは良いからな

そりゃチート扱いされるのも納得だよ


12 名無しさん

>>11

はい腹痛


13 名無しさん

この人の声聞くと耳がぞわぞわするんだけど


14 名無しさん

ずっと聞いてると耳に馴染んでくるよ

テンテンの声がお前の好みの声になる


15 名無しさん

>>14

ヤバすぎwww


16 名無しさん

いつかはガンにも効くようになる


17 名無しさん

俺は、元鬱だけど、寛解したよ。鬱病には、もう効くようになってる。

毎日12時間くらい、台パン一時間耐久ループしてる。


18 名無しさん

別の病気になってますよ


19 名無しさん

ゲーム配信だとあんまり喋らないから一生雑談配信してほしい


20 名無しさん

声とエイムに全てを吸われた男




 高校生活が始まって早くも二ヶ月。俺はなんだかんだ平穏な日々を送っていた。


 小学校を卒業した時から三年とちょっと経ったか? あれから中学生になって、なんやかんやあって、それから気づけば高校生だ。

 中学校時代は記憶に残るような強烈な出来事というのは無く、正直あまり記憶には残っていない。


 高校へ進学するに辺り、幼稚園時代から幼馴染である茜の勧めによって、実家から少し遠くに設立された、比較的偏差値が高めの私立高校へと入学することになった。


 ついでに話の流れで俺は一人暮らしを始めた。




 自室を出てリビングへと向かう。

 昨日は随分と夜更かしをしていたが、回復魔法によって肉体的な負荷はほとんど無い。睡眠不足による精神的負荷は多少存在するが、これはどこかのタイミングで寝溜ねだめをして解消することに決めている。


 住み始めて二ヶ月ほど経った我が家――というかマンションの一室だが、もうすっかりこの部屋での生活にも慣れてしまった。


 親元を離れて生活をするというのはかなり不安だったが、慣れてしまえば案外問題はなかった。むしろ俺が家を出るという話に関しては、俺よりも妹である天音の方が嫌がっていた。

 怒り狂って手の付けられなくなった天音を説得したのは、意外にも茜と両親だった。俺はその頃自室でゲームをしていたため、どうやって妹を説き伏せたのか知らない。ただ説得は無事成功し、不承不承ながらも妹は俺を外へと送り出した。


 そんな経緯を経て俺の一人暮らしが始まった――はずだった。


「おはよ! もうご飯出来てるよ!」

「……うん。おはよう」


 リビングに足を踏み入れた俺を迎えたのは、エプロン姿の茜だった。

 高校生になった茜は小学校の頃から大きく成長し、若干幼さは残るものの、目を見張るような美少女になっていた。

 幼い頃から可愛らしい容姿だったこともあって将来は美人になると思っていたが、ここまで綺麗に成長するとは思わなかった。


 茜は朝にも関わらず、ニコニコと満面の笑みを浮かべて朝食の準備をしている。昔から両手の指で数えるほど複数の習い事をしていた彼女だったが、料理スキルも高いというのはどういうわけなのだろうか?


 俺は言われるがまま、用意された朝食が並ぶテーブルの前に座る。トーストにコンソメスープ、スクランブルエッグ、ボイルされたウインナーと、これぞ庶民的な朝食といった感じだ。

 席についた俺は寝ぼけたまなこを擦りつつ、料理を見て感嘆の声を上げる。


「おお……」

「ほら、食べて食べて。お弁当はここに置いておくからね!」


 そう言って彼女はキッチンに二つ並んだ弁当箱を指で指し示す。手慣れた様子で用意されたそれらの箱は、彼女自身と俺用に購入したやつだ。


「おー、ありがとう……というか今日の当番って茜だっけ?」

「えへへ、早くに起きちゃったから準備しちゃった」

「なるほどね、じゃあ明日と明後日は俺が朝作るよ」

「――うん!」


 茜はそう言ってはにかんだような笑顔を浮かべる。それから彼女は身に着けていた桃色のエプロンを外して俺の向かい側に座り、両手を合わせて「いただきます」と言って朝食を食べ始めた。



 なぜ一人暮らしをする筈だった俺が、幼馴染である茜と共に朝食を摂っているのかというと、紆余曲折あって茜と半ば同棲することになったからだった。というのも、俺が進学をすることになった私立高校は、実家から離れた場所にあり、実家から直接通うとなると結構な距離になる。

 少しだけ怠惰気味な俺が、そんな遠くの学校に毎日通うと遅刻するのではないか……という懸念が家族や茜たちの中にあったようで、であれば独り立ちという意味も含め、学校の近くに家を借りて一人暮らしをさせれば良いのでは、という話になった。


 一人暮らしをするという話が、俺の知らない間に決定すると、茜は更に提案をしたという。

 「学校の通学圏内に、木下家が丸々一棟を保有しているマンションがある。そこの一室を安く貸すので、そこに住むのはどうか?」と。


 両親はただの近隣の幼馴染である彼女にそこまで補助してもらうのは――と、かなり引け腰だったらしいが、「進学を予定している学校を勧めたのは私です。なのでその学校に行けるようサポートする責任は私にもある」と茜が強く言ったことが決め手となったようだ。


 全て他人事のように話しているが、諸々の話を俺が聞かされたのは、進学する学校の事以外、全て話が纏まってからだったので、ほぼ他人事みたいなものだろう。


 その後は流されるままに現在の部屋に引っ越しをして、サポートといって隣室に住みだした茜から多大な生活補助を受けながら生活を始めることになったのだった。




 正直なところ、彼女が少なからず俺に好意を持ってくれているのは気づいていた。よくよく思い出すと、茜は幼い頃から献身的に俺をフォローしてくれていたように思う。


 彼女が俺のことを弟、もしくは介護しなくていけない存在だと捉えている可能性も無いわけではないが、いくら彼女が優しかったとしても、ただの他人に対してここまで親身になるとは思えない。


 美人で多才で家柄も良い彼女がなぜ俺を? という疑問もある。認めたくないが、俺はチートを除けば凡人に毛が生えた程度の男だ。茜ほどの女性ならもっと良いパートナーを探せるだろう。だからこそ彼女の真意が良く分からない。


 読心チートによって軽く表層心理を覗いたところ、彼女が少なからず俺に好意を持っているのは間違いないのだ。

 今はダラダラと続いている茜との関係性ではあるが、高校卒業までには一区切り付けなければいけないだろう。


 ……このまま俺を養ってくれないかな。



「あ、そういえば」

「?」


 食事中、茜が思い出したかのように声を上げる。食事の最中は最低限の会話しかしない茜にしては珍しい反応だ。


「ずっとやりたいって言ってた配信? ってどんな調子なの?」

「……あー」


 高校生、その上ほぼ一人暮らし、しかもマンションは防音完璧という環境になった俺は、昔から長々と企んでいたゲーム配信を始めた。


 (最近は若干落ち目のゲームになりつつあるが)SSFにて高い実力と、他人からは異様に評価の高い己の声を武器に、間違いなく人気者になれると確信していた。実際二ヶ月そこらで結構ネットで話題に上がるようになったようだ。ただ――。


「多分悪くない……けど」

「けど?」

「なんかチート疑惑が出てきたり、別ゲーやれとか雑談配信やれとか色々言われてちょっと微妙なんだよね」

「あー……はは」


 俺から視線を逸らすように上を見る茜。思い当たる節があるとでも言うように、表情には苦笑いが浮かんでいる。

 じっとりと睨んでやると、それに気づいた茜は取り繕うように言い訳を始めた。


「て……テン君はエイム凄い上手だからね、オートエイムみたいだーって言われるのも分かるよ、うん。……そ、それにテン君って声がかっこいいから、そっちで人気が出ちゃうのも納得だよ!」

「……本当にそう思ってる?」


 そう言えば何度も首を縦に振る彼女。……長い付き合いだし多少のことは許してやるか。


「実際テン君のエイムとか反射神経は神がかってるから、手元を見ないと嘘だと思っちゃうかも。私も最初は信じられなかったし」

「手元、ね」


 手元配信……カメラを用意しないといけないが、その案は悪くないかもしれない。


 俺からチート疑惑が消えてしまえば、残るのは高いゲームセンスと美声の二つだ。疑惑というケチをさっさと拭い去ってしまうのは悪くないかもしれない。



 将来飯の種になるかもしれないゲーム配信業の安定化、それと茜との関係性に一区切りを付ける。ついでに高校生活の充実。


 高校生活が終わるまでの残り期間に全て解決させたいが――。


「その前に」

「?」


 数年ぶりに使うとするか、腹痛魔法を。

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